第27話
凪らが、雛里の策で恋を捕えることができたが、これを見ていた愛紗と鈴々が不服そうな顔をしながら
「凪、どういうつもりだ?」
「そうなのだ、こんなの卑怯なのだ」
と言うも
「私も卑怯なことは分かっている、しかしこれは雛里の策だけど、呂布とまともに戦ったら、兵たちの被害がもっと増えてしまうだろう、だから私たちも同意したんだ」
凪が正論を言うと、2人は黙ってしまった。
一方、網に掛けた恋を捕えようと真桜と沙和が恋に手を掛けたところ、
「ハアアーーー!」
疾風のように1人の将が真桜と沙和に襲いかかった。
「な…何や、何や!?」
「キャーーー」
2人と何とか気付いたが、その将の槍の攻撃を防ぐのが精一杯で2人は見事に吹っ飛ばされてしまった。
そして恋を捕えていた決死兵もその将と一緒に突撃した兵たちに追い散らされてしまい、そしてその将は見事な槍さばきで、網を切断して恋を救った。
そして
「恋、大丈夫か?すまんな、本来お主を補助しなければならなかったのだが」
「星悪くない、大丈夫…ありがとう」
恋を救ったのは、今回、呂布隊の副将になっていた星であった。
そして恋は星に礼を言うと再び方天画戟を持ち、愛紗らと対峙した。
一瞬の出来事に茫然と見とれてしまっていた愛紗が、
「貴様!何者だ!」
怒鳴るも星は
「ふむ、尋ねるのであれば普通はそちらから名乗るものだが、どうやらそんな余裕もないらしい」
「クッ…」
「まあよい、ならば我が名は趙子龍、北郷軍の将だ、貴殿の名は?」
「我が名は関雲長、劉玄徳の一の家臣だ、では趙子龍殿に一つお聞きしたい、なぜ北郷殿はこのような非道な振る舞いをしている董卓に味方しているのかお聞きしたい」
愛紗が言うと恋がその言葉を聞いて静かに殺気を出して
「……月は非道ではない、貴様等殺す…」
「まあ待て恋、しばらくこの場は私に任せてくれないか?」
星が恋を宥めるように言うと恋は
「……(コク)分かった…」
「ありがたい、任せて貰おう」
そして星が愛紗に
「ならば再度聞こう、誰が非道な振る舞いをしているのだ?」
「な…何を聞いていたのだ!董卓に決まっているだろう!」
それを聞いた星が
「……ハハハハハハ!」
と大声を出して笑っていた。
「な…何がおかしい!」
「なぜ笑うのだー」
「ふざけているのか!」
「何、笑っているんや」
「失礼なのー」
皆それぞれ言うと、星が
「これが笑わずいられるか、お主たちの言っていることがあまりにも滑稽すぎてな」
「そしてお主たちの表面しか見えていない純粋過ぎる正義感には笑いを通り過ぎて、涙が出るぞ」
星から言われると愛紗が
「何!貴様、我々を愚弄する気か!」
と青龍偃月刀を星に構えるも星は歯牙にも掛けず、
「フッ、自分の言葉が通じないとみるとすぐ刃か、以前紫苑が言っていたように周りが全く見えていないな」
「何!」
「待て!愛紗!もう少しこやつの話を聞こう」
凪が愛紗を宥めるように言うと星も
「関雲長殿より、こちらの御人の方が、まだ冷静だな、ならば聞こう」
「お主たちが言っていた董卓殿の非道な振舞いとやらをお主たちは見たのか?」
「「「「「!」」」」」
星に言われると5人は驚き無言になってしまった。
星はそんな愛紗を追及すると
「さあ関雲長殿、どうなのだ?」
「うっ…いや見ていない…」
と力なく小声で答えた。
「ほう、見ていないのにどうして董卓殿が非道な振舞いをしていると言い切るのだ」
「それは、袁紹殿が洛陽で董卓殿が非道な振舞いをしているからだとおっしゃっていたからだ」
と凪が言うも、星はそれを軽蔑した笑いで
「結局お主らは、洛陽の様子を見ていないということだな」
「そしたら、あんたは洛陽の様子を見たというんか?」
真桜が聞くと、星は
「無論その通りだ、実際に見たら、洛陽は平穏無事で、治めるのが董卓殿に代わってから、治安がすっかり良くなっているぞ」
と言われると、愛紗が
「敵の貴様が言うそんなこと信じられるか!」
愛紗が言うも
「愛紗、鈴々は難しいことは分からないが、このお姉ちゃんの目を見ているとこのお姉ちゃんが言っている事が嘘言っているように見えないのだ」
「確かにこの人、自信満々に答えているのー」
鈴々と沙和が星の言葉を聞いて迷いを感じ始めると皆にそれが伝わった。
そして星が
「私の言葉を信じる信じないかはお主たちの勝手だ、しかしお主たちは自分で確かめもせずに、主や董卓殿を逆賊呼ばわりしたのは、私や恋も許すことができないからな。殺しはしないが少々身体で反省して貰おうか、お主たちは、主と知り合いみたいだから命は助けるがな」
「恋すまぬが、少々手加減してやって貰えぬか」
「分かった…」
と言って、恋はさっき捕われかけた怒りと月を侮辱した発言に対する怒りが重なり、先程より強い闘気を愛紗たちに叩きつけると、愛紗たちは
「クッ…これが呂布の本来の闘気か…」
「鈴々より強いのだ…」
「これはかなり強いぞ、真桜、沙和死ぬなよ」
「おしっこちびりそうなのー」
「おしっこちびったらあかんで、沙和」
と言っていると星が
「恋よ、お主に任せると全て相手しそうだから、私はこの無礼な脳筋女を相手にするから、あと4人を相手して貰ってもよいか?」
星が恋に言うと、助けて貰ったこともあり
「仕方ない…、譲る」
愛紗は先程の星とのやり取りでの精神的動揺並びにこの挑発的な言動で、完全に頭に血が登ってしまい
「貴様、誰が脳筋女だーーー!」
青龍偃月刀を振るも、星に見切られて簡単に躱され、そして
「どうした?当たらぬではないか」
「ふざけるなーーー!」
更に挑発されると愛紗は完全に星のペースに巻き込まれてしまい、星は
(「やれやれ、主に仕える前の私も未熟者であったが、この女はこれだけの武を持ちながら精神的にこれだけ未熟者とは、もったいないものだ…まともに戦えば私と互角くらいの実力があるだろうのに」)
内心呆れ返りながら、愛紗の攻撃を難なく躱し、恋も鈴々らの攻撃を余裕で受け止め、5人にとっては地獄への時間に突入しようとしていた……。
一方、一刀たちは白蓮の軍を突破したあと、孔融軍を撃破、そして更に後続の陶謙軍と戦っていたが、渚が
「敵将、陶謙討ち取ったりーーー!」
陶謙を討ち取ると紫苑は一刀に
「ご主人様、そろそろ引き上げますか?」
と言うと、これを聞いていた翠が
「まだ余裕があるぜ!ご主人様、このまま袁紹の軍に挨拶に行こうぜ!」
袁紹軍との戦いを主張し、横にいた璃々も
「ご主人様、私も袁紹軍に挨拶はしたいな、今の袁紹と違うけど、昔、袁紹に人質に取られた仕返しをしたいよ~」
紫苑も璃々の発言を聞いて
「そうね、まだ余裕があるようですし、今の袁紹さんと違うけど、あの時のお礼は直接できていないから、今からお礼参りさせて貰おうかしら、フフフ……」
紫苑まで行く気満々の態度を示したので、一刀はさすがに驚き
「おいおい紫苑……」
呆れつつも、確かにまだ余裕があったので、一刀は
「よし分かった、袁紹軍には弓騎隊と騎馬隊のみで突撃して一当てしてから戦線離脱する、渚さんにはこの場を確保して貰うよう伝えてくれ」
と伝えると、3人は喜び、そして一刀も
「それでだ、どうせなら紫苑と璃々、2人で直接袁紹に挨拶して来たらどうだ、俺と翠で顔良と文醜の二枚看板を押さえて、道を開くからさ」
2人は危険であると制止しようとしたが、一刀は
「紫苑、璃々たまにはいいカッコさせてくれよ」
「そうだよ、私もいるから安心して挨拶に行って来いよ」
一刀と翠が2人に言うと、紫苑が
「分かりました、ご主人様、すぐに帰って来ますから、では翠ちゃんお願いするわね」
「ご主人様、怪我したらダメだよ~」
「ああ分かっているさ、2人とも気を付けて行ってこいよ」
一刀が言うと一刀たちは、袁紹軍に突撃を開始した。
袁紹は連合軍があまりにも翻弄されているのに頭に来て、斗詩に
「キーーー、皆さん何をやっているのです!顔良さん、伝令を出してさっさと関を落とすように伝えなさい!」
「姫、今、関を落とすどころか、敵の本隊がこっちに迫っている状態です!」
「だけど斗詩、敵が迫っても、ここまで来たら疲れているだろう、来たらそんな敵、私が一撃でぶっ飛ばしてやるよ」
猪々子が呑気にそう言うと、麗羽も
「お~ほほほほ、さすが文醜さんですわ、楽しみしていますわ」
そう言っていると、伝令兵がやって来て
「失礼します、敵が陶謙軍を撃破して、こちらに向かってきています!」
それを聞いた麗羽が2人に
「な…何しているの!文醜さん、顔良さん、華麗にやってしまいなさい!」
「はい~よ、行くぜ、斗詩!」
「あ~待ってよ、文ちゃん」
2人は前線に向かうと、猪々子が
「そろそろ敵が来るな、う~ん腕が鳴るぜ」
「文ちゃん、そんな簡単に言わないでよ、相手はあの北郷一刀さんに、噂で強いと言われている北郷夫人の両姉妹に錦馬超でしょう、それに西涼の強兵もいるんだよ……」
「大丈夫、大丈夫」
と気楽な会話をしていると、一刀の軍が迫ってきていた。
そして部隊の先頭に立っていた翠が、袁紹軍の先頭にいる将と思われる2人を確認して、
「ご主人様、私は髪が青い奴を相手にするから、ご主人様はもう1人の奴を相手してくれないか?」
「よし分かった、そっちは任せたぞ、翠」
一刀が返事をすると翠が猪々子に向かって突撃を開始した。
猪々子が突撃して来た翠に
「貰ったーーー食らえ!」
斬山刀を振り回すも、翠にあっさり躱されてしまうと
「我が名は錦馬超!我が白銀の槍の攻撃、この身に受けてぶっ飛びやがれーーー!」
猪々子は騎乗している翠の槍の攻撃をまともに受けて、見事に吹っ飛ばされてしまい、頭を地面に叩きつけられ気絶、戦闘不能状態になってしまった。
そして見ていた斗詩が
「文ちゃん!」
猪々子に駆け寄ろうとしたが、一刀が阻止する形で
「おっと待った顔良さん、この先は行かせないよ」
「え!?、あなたはひょっとしたら北郷一刀さん?」
「ああそうだよ、よく気付いたね」
「こんなところに居る男の将は、あなたしかいません、でも千載一遇の機会、あなたを捕まえて、この戦いいただきます!」
「そいつはどうかな?」
一刀が言うと、弓騎隊が突撃して一斉に弓を放つと袁紹軍は、算を乱し始めた。
これを見て斗詩があわてて軍勢の指揮に戻ろうとしたが、一刀の兵たちに足留めされてしまい、そして猪々子は、配下の者に救助されたが、猪々子や斗詩以外に指揮を取れる者が不在の袁紹軍は、数はいるものの、翠が前線を掻きまわされ、混乱に拍車を掛けていた、そんな中、
「行くわよ、璃々」
「はい、お母さん」
紫苑と璃々の部隊が突撃すると、袁紹軍は更に混乱を深めた。
そして麗羽が
「何していますの!とっとあのような軍勢蹴散らしなさい!」
怒鳴るも、猪々子や斗詩が不在で指揮系統が混乱しているため、紫苑や璃々の部隊を止めることが出来ず、そして麗羽の視野に紫苑が見え、そして紫苑の方も麗羽の姿が見えたので、弓を構えるのを見えると
「な…何していますの、さっさとあのおば…」
麗羽が紫苑にとっての禁句用語を言い切る前に、遠くにいるにも関わらず紫苑の殺気立ったオーラが纏っているのを感じたのか、途中で言葉を切って、口が金魚みたいにパクパクしていた。
そして紫苑が不敵な笑みを浮かべ、横にいた璃々が
「お母さん」
「フフフ……行くわよ璃々、あの時、お礼をさせて貰いますわ」
璃々と共に袁紹からやや離れた位置まで来て、そして
「我が名は北郷紫苑!我が夫、我が主北郷一刀の守護神なり!」
「同じ北郷璃々!袁紹、あなたに良いものあげるわ!」
璃々がまず弓矢を構え、
「我、渾身の一矢を受けてみなさい!」
璃々が鵬翼を持ち出して、麗羽に弓矢を放つと、麗羽の右頬の横を風を切って通り過ぎて、麗羽の自慢の髪の一部を切っていった。
「璃々、ずいぶん上手になったけど、まだ甘いわね。よく見ていなさいね」
そう言いながら紫苑は颶鵬を構え、そして静かに息を整えると
「曲張比肩の弓矢の舞、特と味わうなさい!」
と発すると、紫苑が弓矢を放つ音が一度しかしなかったにも関わらず、矢は2本放たれ、その矢は麗羽の両頬の薄皮を掠めて、そして麗羽の髪の一部をバッサリ切り取っていった。
そして麗羽の両頬から血がうっすらと流れ、そして
「はゎゎ……………」
と両膝を地面に付き、そして恐怖心からか毛穴と毛穴から色んな物が吹き出してしまっていまい、最後には失禁している状態であった。
紫苑と璃々は用が済んだとばかりに
「挨拶は終わりよ!」
「皆、引き上げるよ!」
2人の部隊は撤退を始めると袁紹軍の本隊は恐怖心から追撃することが出来ずに、ただ見送るしか無かった。
そして2人は一刀のところに戻り、一刀は2人の無事の姿を見て安堵し
「よかった……」
と静かに呟いていたが、それが紫苑と璃々に聞こえていた、2人は一刀の心配そうな表情を見て、
「ごめんなさい、心配を掛けて」
「ごめんね、ご主人様」
「いや、2人が無事に帰ってくるとは信じていたが、やっぱり顔を見るまでは安心できなかったからね」
和やかに話をしていると翠がやって来て
「3人でいい雰囲気の途中悪いけどよ、そろそろ撤退しないとまずいじゃない?」
翠からそう言われると一刀も再び気を取り直し、部隊の撤退合図を出したが、心配された袁紹軍の追撃は無かった。
そして時間が少しさかのぼり、一刀たちが袁紹軍に突撃したころ、
「曹操様、敵の一部が袁紹軍に突撃を開始しました」
「一部のみ突撃ね…」
「華琳様、これはどういう意味でしょうか?」
秋蘭が聞くと
「秋蘭あなたも分かっているでしょう?本気で麗羽を倒すのであれば、少なくとも全軍で突撃するはずよ、それをしないことは挨拶代わりの攻撃というところかしらね、だから退路を確保するために兵を残しているというところかしら」
「では華琳様、敵が引き上げる途中で、我らが横撃を入れますか?」
「そうね桂花、その作戦で行くわ」
「春蘭!秋蘭!貴女たちは敵が袁紹軍から引き上げる途中で攻撃を加え、敵の大将、北郷一刀らを捕えてらっしゃい」
「「御意!」」
2人が華琳の前を去って華琳が
「さあこれでどうなるかしら…」
今後の展開に思いを馳せていた。
今まで動きが無かった曹操軍がようやく動き始め、戦いは佳境を迎えるのであった。