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真・恋姫無双 〜新外史伝〜  作者: 殴って退場
第12章 魏滅亡
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第128話

一刀たちの動きは断片的ではあるが、晋にも伝わっていた。


「おい、聞いたか?」


「ええ、聞いたわ。魏の程昱が蜀に援軍を要請したみたいね」


「呑気な事を言っている場合じゃないぞ。もし蜀が約定を破って私たちの後背を突かれてみろ。再び魏が息を吹き返してくるかもしれん。それにその席に呉の連中も加わっていたらしい、もしかしたら蜀の代わりに呉が軍勢を繰り出す可能性も否定できん」


「そうね…」


白雪(蒋済)の説明を聞いて、流石の陽炎(司馬懿)も無視はできなかった。蜀の代わりに呉が援軍に来る事は想定していなかったからだ。


晋と呉は直接戦こそしてはいないが、今まで呉の感情を害していたのは事実である。以前、呉に鐘会を埋伏させていたが魏が侵攻する直前に魏に投降、更にその魏を裏切り、魏崩壊の切欠を作り、更に呉と漢が同盟を結んでいた時には呉から同盟要請を拒否していたからだ。


今まで呉は晋に翻弄され続けてられている事から、蜀の後押しがあればここぞとばかりに軍勢を出す可能性は否定できなかった。


「仕方ないわ。蜀呉の国境付近に兵を出しましょう」


「出すのは良いが、蜀から何か言って来るかもしれんぞ」


「その時は呉に不審な動きがあるから兵を出したまでの事」


「仕方ないか…」


「それで…」


「ああ分かった。私が行って欲しいってことだろう、取り敢えず燕(胡奮)を借りるぞ」


「ええ、お願いするわ」


晋は蜀呉の国境に約3万の兵を展開させたのであった。


この報せを聞いた洛陽で守備していた月たちは、国境に霞や黄忠(この世界の紫苑)らを派遣、同じく呉も出兵したため三国間での睨み合いとなってしまった。


丁度その頃、長安にいる一刀たちの元にある人物の来訪を受けていた。


「お久しぶりでございます。北郷様」


一刀に挨拶したのは、武陵郡太守である雪風(馬良)であったが、今回の雪風の来訪については、雪風自ら要望したものであった。


「今回はどうしたのかな?馬良さん」


「……実は私が掴んだ情報によりますと、あの鐘会が名を変えて生きていると」


「それは…本当ですか」


「はい。私の手の者が鐘会と似た人物を発見したという話で、その者は鐘会が亡くなってから司馬懿に取り入れられているのですが、普段から人を会う時は顔の半分を隠し、そして髪型も変えているそうなのです」


この人物は以前、亡くなった馬謖に仕えていた者で馬謖の屋敷で何度か鐘会を見ていたので、変装していた鐘会を偶然見つけたとの事であった。


「これは明らかに約定違反で、本来であれば晋に対して兵を出して戴きたいと言うところですが……」


雪風はここで言葉を切り、


「私を武陵郡の太守を解任して戴き、一介の素浪人として放逐していただきたい」


「……それはどういう事ですか?」


雪風の意志が何処にあるのか分からない為、一刀は疑問の声を上げる。


「大変申し訳ありません、これについては私怨も入っていることをご承知下さい」


雪風は前置きをして説明を始めた。


「鐘会が生きている事を説明しましたが、しかしまだ確たる証拠はありません。ですが、鐘会は我が妹を手に掛けた張本人でもあります。妹が鐘会の口車に乗せられたとは言え、用済みで始末されたことはあまりにも不憫でなりません。それに北郷様は晋との約定により兵を出さないと言われた手前上、表立って動く事はできません。だからここで私を解任することによって、妹の仇を取らせて欲しいのです」


雪風の言い分は、鐘会は生きているとは言え決定的な証拠が無い現状、自分が蜀在籍のまま妹の仇を討つために兵を出せば約定違反と言われる事から、解任・放逐して欲しいと言うことであるが、


「無茶な事を言わないで下さい!幾ら所属を離れるとは言え、もし失敗して別人だった場合、その状況では裏でご主人様が糸を引いていると勘繰られます!」


雪風の説明を聞き終えた朱里が真っ向から反対する。


「だけど朱里、馬良の気持ち、分からないでもないぜ」


「そうだな…況しては殺した張本人が生きている。もし私がその立場なら同じ事を考えるだろうな」


朱里の反対を余所に翠や愛紗は雪風に対し、同情の意見を見せる。


「お主、まさか一人でやる訳では無かろう。それに預けている焔耶はどうする気じゃ」


桔梗は弟子の焔耶が現在、雪風預かりになっているため質問した。


「はい、兵については志願者のみで行うつもりです。焔耶についてはあの者も鐘会に恨みを持ち、そして妹の仇討に賛同しています」


雪風は当初焔耶を外すつもりでいたが、


「鐘会に良いように利用され、殺された春風(馬謖)も浮かばれません。この命、どう使って構いません。何卒、仇討の許可を!」


という焔耶の熱意に負け、一刀の承諾(現在、焔耶は暗殺未遂事件の関係もあり、まだ謹慎処分中)を得ることを条件に参加を認めた。


「ご主人様、どうするおつもりですか?」


「その前にちょっといい?」


紫苑の問いに一刀が答える前に真里が遮る。


「一つ言いたい事があるの、私たちは別に『聖人君子』の集まりじゃないのよ。確かに理想は大切、でもその理想を作るには決して綺麗事ではできはしないわ。時には泥水を啜ってでもやる、そういう心構えが必要だと思うの。私が言いたい事はそれだけ。後は一刀さんの意志にお任せします」


真里は理想に走りがちな朱里や愛紗たちに敢えて釘を刺し、そして一刀に対しても君主としての更なる成長を願い苦言を呈したのであった。


真里の言葉を聞いて、感化されたのか現在は諸葛均と名を変えている雛里がある提案をする。


「馬良さん、妹さんの仇討したい気持ちは分かります。ですが今、証拠が明らかでない以上、表立っての仇討はどうかと」


「……表立ってですか?」


「はい、その代わりにこちらから貴女にお願いをしたいのです」


「ただこれはどちらかと言えば、良い事ではありません。無理であれば断ってくれても構いませんが」


「分かりました、まずはその提案を聞かせて貰えますか」


「今、晋と和平を結んでいる為、魏救出の援軍を呉に頼っている状態です。船である程度は運びますが、陸からも脱出すると聞いています。そこで馬良さんたちに義勇軍を編制して貰い、魏救出の援軍に向って欲しいのです。大軍は出せませんが兵や食料などこちらで用意します。それで申し訳ないですが、名目上蜀から離れて貰う形になりますが…」


雛里の提案は、義勇軍として事実上の援軍派遣を行い、生きている思われる鐘会を討つ機会を与える。だが万が一を考え雪風らには蜀から離れて貰う。


当然の事ながら晋に捕えられた場合、見捨てられる可能性は高い。だから雛里は雪風を思い、断るという選択肢も用意したのであった。


「雛里、それは…」


「そのような厚遇を考えてもいませんでした。もし北郷様の許可が下りれば喜んで行かせていただきます」


璃々は雛里の提案の裏が分かったので難色を示したが、雪風はすでに覚悟を決めていたので、承諾の意向を示していた。


一部の者を除けば、派遣可という雰囲気に一刀は


「皆、聞いてくれ。元々は俺の我が儘に近い形で魏援助を行う事になった。そんな中途半端な形で皆を巻き込んで申し訳ないと思っている。すまない」


一刀は秋蘭の要望があったとは言え、反敵国に近い魏を援助することに対して、中には不満を持っている者がいると思われたので一刀は皆に頭を下げた。


一刀が潔く頭を下げたことに恋姫たちは納得するしかなかった。経緯はどうであれ魏を味方に取り込む事は戦略的には間違いではなく、ただ感情的に納得しがたい面を多分にあったからだ。


そして一刀は馬良の方に向き


「もう一度聞くけど、本当にいいの?もし…」


一刀が言葉を続けようとしたところ、雪風は一刀の言葉を敢えて遮り


「北郷様、御心配のお言葉ありがとうございます。私たちにも武門の意地があります」


「あくまで陰にて己の器量で行い、失敗した時は『死して屍拾う者無し』の覚悟はできております。例え失敗しても北郷様を恨む事はありません」


雪風の強い意志を聞いて、難色を示していた璃々や朱里も賛成に回ったため、こうして魏援助の派遣が決まったのであった。








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