第122話
【新・朝駆け夜討ち】
「せいっ!」
「ふんっ!」
「はっ!」
「やぁ!」
「ほぇ~化け物ですか、あの人たちは…」
「…それを紫苑様たちの前で言ってみたらどうだ?」
「止めてよ!紫苑様たち相手にそんな言う勇気無いから!」
「しかし拙者たちもあのような領域に達するには、まだまだ修行が必要だな…」
紫苑、桔梗、秋蘭、璃々の弓術を見て感心しているのは、紫苑の部隊の副官である元気印の初雪(馬忠)と真の武士に憧れている初霜(張翼)であるが、訓練中に誰が弓術の腕が一番かと言う話になり6人で競争を始めたが、最初に初雪が脱落、続いて初霜も失敗した後、4人での争いが続いていた。
先に脱落した二人は普通であれば弓隊を率いる腕前はあるが、如何せん相手が悪すぎた『曲張比肩』と呼ばれた紫苑、豪天砲で必ず相手を粉砕させる『銀弓手』と謳われる桔梗、そして『一矢一殺』で殆どの相手を一矢で仕留める事ができる秋蘭、最近『天舞弓姫』として評判が上がってきている璃々。
更に現在、洛陽守備で滞在している黄忠(この外史の紫苑)を加えたら、恐らく矢戦では勝てる国は無いと言っても過言では無いだろう。
そんな中、桔梗がある事を提案する。
「お主たち、このまま射続けていても面白くない。そこでどうじゃ、何か賭けぬか?」
桔梗の提案に、ここは己の腕に自信がある者たちで
「面白いわね提案。乗ったわ」
「売られた勝負、買わないとな」
「絶対、負けないからね」
3人は桔梗の提案に乗った形となった。
「うむ。そこでじゃ、ただ良い賭けになる物は無いか?」
「賭けになる物ね…」
璃々が声を上げると、ちょうどその時一刀が現れ、見学していた初雪たちに声を掛けていた。
紫苑も一刀の姿に気付くと、ある考えが浮かぶ。そして妖絶な笑顔で
「そうね…景品はご主人様への『夜討ち朝駆け』はどうかしら?」
「夜討ち朝駆け?」
まだあちらの方で知識が乏しい秋蘭に璃々が一刀に聞こえない様に小声で説明すると顔を少し赤くしていたが、特に反対する風でも無かった。
「これは負けられぬな」
桔梗は舌舐めずりしながら呟く。すると璃々が紫苑と桔梗に
「ねぇ、勝負は別として二人は『夜討ち』は希望なんだよね?」
「うむ、そうじゃ」
「そうだけど…どうして璃々?」
「別に理由は無いよ、私は『朝駆け』でいいよ」
「私はそれでもいいけど、他の二人はどうなの?」
「別に儂は構わぬぞ。敵が一人減っていいことだ」
「私も構わぬ」
二人も認めたので、璃々の『朝駆け』が決まった。
「でも…璃々、貴女これで良かったの?」
紫苑の質問に、璃々はいい笑顔で
「皆、気付いていないね。確かに『夜討ち』も魅力的だけど、『朝駆け』だったら、終わった後にご主人様と最後まで寝れるんだよ」
「なるほど…そういう手があったか」
「むむむ…流石、紫苑殿(注:桔梗の場合ここの外史の紫苑と呼び捨てで、主役の紫苑を紫苑殿と言います)、お主の血筋を引いておるわ」
秋蘭と桔梗は璃々の考えに感心すると同時に紫苑は、璃々の駆け引きの成長を思い知り、女として負けられないと改めて感じたのであった。
結果、弓矢の勝敗は決着が付かなかったため、クジにより「紫苑と桔梗」、そして「璃々と秋蘭」に分けられ、そしてその夜から朝に掛けて、一刀は『夜討ち朝駆け』されたのは言うまでも無かった…。
【私だって怒ります】
「さて…桃香ちゃんに愛紗ちゃん。どういうことかしら?」
何とか怒りを抑え、愛紗を正座させている紫苑。何故なら愛紗は一刀の為に料理を作ったのは良かったが、一刀がそれを食べた後、泡を吹いて倒れ、璃々に連れられ病室に向ったのであった。
幸い意識を失っただけで問題は無かったが、それを聞いた紫苑は桃香たちを問い質していた。
「あの~料理は愛情と信念があれば大丈夫かと思って…」
「男性の心を掴むには胃から攻めるのが一番だと璃々から聞いて…」
「でも愛紗、本当に胃を攻めてどうするのだ」
「やれやれ、主も二人の為と思い、最後まで食べたのは賞賛に値しますが、本当に二人の為を思うのであれば、指摘した方が良かったですな」
「それで二人は、途中で味見とかはしたの?」
「うっ…」
「……していません」
鈴々と星の指摘に二人は返す言葉が無く、そして紫苑の指摘に正直に言うしかなかった。
「“料理で愛情”と言うのは、正しく言えば“材料に対する愛情”があってこそ、初めて美味しく料理ができるのです。材料をこのように粗末に扱うような人に、出来上がる料理も応えてはくれません。二人にはこの点が欠けていますので、まずはそこから教えないと駄目ね…」
紫苑の顔こそ笑っていたが、目は全く笑っていなかった。
「鈴々ちゃん、星ちゃん。申し訳ないけど愛紗ちゃんが逃げないよう押さえてくれないかしら」
「分かったのだ!」
「承知!」
「何をする!ええぃ、離せ、鈴々!星!」
「今の紫苑に逆らうと怖いので、それはできないのだ」
「鈴々の意見に賛成だ」
二人にがっちりと両脇を押さえられると流石の愛紗も逃げることができず、桃香はただおろおろと成り行きを見守るしか無かった。
そして紫苑は愛紗の前に立つと
「フフフ…まずは愛紗ちゃんと桃香ちゃんに料理と材料の大切さを分かって貰うのにまずは復習しないといけないわね。まずは何が悪かったのか、自分の舌で確認をしないと、だから…」
そう言いながら紫苑は、愛紗たちが作った料理を手にしていた。そして
「これを食べて貰うわ」
黒い笑顔でそう言い切った。
「や、止めてくれ!紫苑!私が悪かった!」
「あら、どうして謝るのかしら。これは二人が同じ過ちをしないように教えて上げるの。さあどうぞ♪」
紫苑の声とは裏腹に愛紗の口に料理を流し込む。そして吐き出さない様に紫苑は愛紗の口を押えるとそのまま気を失ってしまった。
「やっぱり、お姉ちゃんと愛紗の料理は恐ろしいのだ…」
「これで愛紗も自分の料理の腕前に気付いてくれればいいのだが…」
鈴々と星は気絶した愛紗を見て、そう呟いていた。
そして紫苑は桃香の方に目をやり
「次は桃香ちゃんの番ね♪」
「止めて―――!」
桃香は叫んだものの、その願いは聞き入られず愛紗と同じ目に遭ったのであった…。
【雛里の暴走?】
ある日、城の休憩室で朱里と雛里がお茶を飲んで休憩していたのだが、雛里は朱里と話をしながらある部分をずっと注視していた。
流石に朱里も雛里の眼差しに気付き
「雛里ちゃん、どうしたの。ずっと私の胸を見て?」
「……朱里ちゃん、ずるい」
「へっ?ずるいって…どういうこと?」
「朱里ちゃんどうしてそんなに胸が大きくなったの!?もしかして私より先にご主人様と結ばれて、一人大人の世界に行ったから胸が大きくなったの!」
「はわわ――――!」
雛里の突然の発言に朱里は慌てる。
「朱里ちゃん!私たち友達でしょう!何でそんな胸が大きくなったのか教えて!」
「えっと…実は…」
雛里の予想外の剣幕に驚いた朱里は、紫苑の事を説明する。(第81話参照)
それを聞いた雛里は
「朱里ちゃん…今まで黙ってずるい…。後で私も紫苑さんのところに連れてくれるよね」
朱里は、顔は笑っているものの雛里の目が笑っていないことのを見て、夜に紫苑のところに案内するしか無かった。
そしてその夜、二人は紫苑の部屋に尋ねたところ、部屋の前で
「うっ!…くっ…はぁ…」
部屋から呻き声のような音が聞こえた。朱里は紫苑に何かあったのではないかと思い慌てて部屋に入る。
「し、紫苑さん!大丈夫ですか!?入りますよ!」
二人は部屋に入り扉を閉める。紫苑は扉とは逆向きに寝台で横向きにいたが、二人が入ったことに気付いていないようであった。
二人は寝台に近付くとその姿を見て驚いた。
なんと紫苑の身体に隠れた状態で一刀が居り、そして夜の営みをしている最中であった。
「はわわわ――!!し、失礼しゅました!!」
「あわわわわ」
朱里は二人の営みを邪魔したことに驚き、そして雛里は初めて二人の行為を見て驚きを隠せなかった。
「見たわね~雛里ちゃん。逃がさないわよ…それっ♪」
「あわわ――!!」
紫苑は雛里を捕まえて、簡単に寝台に押し倒す。
「あわわ…私、誰にも言いませんから」
雛里は紫苑に懇願するが、一刀はまだ事態を把握していなかったので、唖然としている朱里に
「朱里、一体これはどういうこと?」
「あの~実は…」
朱里は今までの経緯を一刀に説明すると、それを聞いた一刀は流石に苦笑するしかなかった。
「それで雛里ちゃんどうする?」
紫苑は微笑ながら雛里に聞く。
「……」
しばらく静寂が続くが、何故か部屋の空気の温度が上がっているのは気のせいだろうかと一刀は思っていた。
「わ、私、本当なら桃香様と共に殺されても仕方がなかったのに、ご主人様や朱里ちゃんの御蔭で今、こうして生きていることができて嬉しいんです…」
「だから今度は、私の知略と魅力で朱里ちゃんよりご主人様を夢中にさせてみせましゅ!」
「はわわ!雛里ちゃん、な、何言っているの!」
「だって朱里ちゃん、私より先に大人の世界に行って、そして黙って胸大きくしたでしょう。私も負けたくないんでしゅ」
雛里の爆弾発言に朱里も驚きを隠せなかったが、一刀と紫苑は逆に安心した様子で
「一度仲違いしたけど、この二人の姿を見たらこれからも大丈夫だな」
「ええ、でもご主人様、覚悟してくださいね♪これから三人を相手するのですから♪」
「四人でって…はわわ!」
「あわわわわわわ!」
「紫苑…止めるどころか、やる気満々だね…」
紫苑の台詞に真っ赤になる朱里と雛里と苦笑いを浮かべる一刀。
「あらご主人様も私だけではなく、朱里ちゃんや雛里ちゃんを手籠めにする気満々ではあ
りませんか。一物がそう主張してますわ♪」
紫苑は、そう言いながらハッスルしたのは言うまでも無かった…。
翌朝紫苑は満足しながら、顔色がツヤツヤしていたが、一刀は、「死ぬかと思った…」言いながら力尽き、そしてその日は腰が痛くて立てなくなったのであった。
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