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真・恋姫無双 〜新外史伝〜  作者: 殴って退場
第11章 荊州の変
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第119話

一刀が目覚めた翌朝、華佗は一刀たちが見守る中秋蘭の診察を行っていた。


「外見上は異常が無さそうだし、記憶が戻って頭痛や吐き気もなさそうだから問題はないな」


華佗が完治したことを告げると秋蘭は


「すまなかった華佗」


「何、俺は医者として当たり前の事をしただけさ。それと一刀、お前の方はまだ体調が万全でないから無理はするなよ」


華佗はそう言いながら、まだ先の変で負傷した兵たちの治療のため部屋を退出した。


「一刀殿、一度ならず二度も私の命を助けていただき申し訳ない」


秋蘭は今まで一刀の事を「北郷殿」と呼んでいたが、何らかの心境の変化か敬意を表してか分からないが急に「一刀殿」と呼ぶようになったが敢えてそれには触れずに返事をする。


「俺も後先考えずに咄嗟でしたことだから、改めてそう言われると照れるな…」


「ですがご主人様、あのような事は二度としないで下さいませ」


「そうだよ!今回は秋蘭さんを助けるためだから良かったけど、もう二度としたら駄目だからね!!」


秋蘭の感謝の言葉を聞いて照れている一刀に紫苑と璃々から少々叱責の言葉を受けてしまうが、一刀はある事に気付く。


「璃々、何時の間に夏侯淵さんの真名を?」


「ああごめんね。記憶が戻ってご主人様を助けた時に貰ったの」


「先に璃々に真名を渡して申し訳ない。そこでお二方にも私の真名を受け取って欲しいのだが」


秋蘭から言われると一刀と紫苑も異存などは無かったので、改めて二人は夏侯淵から『秋蘭』の真名を受け取った。


「そこでだ、秋蘭。君は今まで記憶を失い、この状況で魏に帰すことは危険だと判断して連絡せずに療養に専念する形を取った」


「それは当然の判断だな」


「本音を言えば君にここで降って欲しいのだが強制はしない。ここに留まるか魏に戻るかを選択して貰いたい。もし帰ると言うなら馬と食糧、それに僅かだけど路銀も出すよ。そして曹操さんには俺から手紙を書くよ」


「……」


秋蘭は迷っていた。正直言えば華琳のところに戻りたいのであるが、ただ自分を助けた北郷一刀という男がどの様な人物であるか近くで見てみたいという気持ちも持っていた。


「もし俺たちが君を助けたからその恩を返したいからここに残るというのは無しにして欲しいんだ。俺たちは君を助けたことを貸しだと思っていない、人として当たり前の事をしただけだから」


秋蘭は少々呆れていた。一刀が言ったことは本当に善意で言っているのだろうと。本来なら魏に送還させずにここに留め、良くて軟禁生活を余儀なくされるところ、それをしないことに好感を持てた。


しかし秋蘭にとって気に喰わない言葉が一部含まれていた。


自分を助けたことは当たり前で謝礼は不要みたいな言い方は、将としてまたこの時代に生きる一人の女として聞き逃すことが出来なかった。


「その申し出は大変ありがたいが、命を救われた恩を返さずに曹操様のところに戻ることは私の誇りが許さない。もうしばらくこのまま客将という形で留まらせてくれないだろうか」


一刀は、秋蘭の返事を聞いて自分の発言の迂闊さに気付いたが、これは後の祭りであった。


「分かりました。では、しばらく秋蘭さんにはこのまま留まって戴き、ここでの仕事を手伝って貰った方が助かります。それに璃々に秋蘭さんの『神弓』と謳われた技を教えて貰えたら光栄ですわ。それでどうでしょうか、ご主人様?」


しかし紫苑がすかさず助け舟を出す形を取ると、秋蘭は一刀と紫苑の阿吽の呼吸を見て羨ましく感じていた。


「ああ、それで恩返しになるのであれば喜んで引き受けよう」


取り敢えず秋蘭は紫苑の提案を受け入れることにした。


そして秋蘭は気になることがあったので、この際なので敢えて一刀に聞くことにした。


「この際だから聞いておきたいのだが、今後魏との関係はどう考えている」


秋蘭の単刀直入の言い方に一刀は好感を持てたが、現状の魏の国力では晋に勝つことは難しく、逆に先に蜀が晋を打ち破った場合、魏が蜀を打ち破るのは更に困難と言える状況であった。だが華琳の性格上、そう簡単に屈しない事は分かっていたので一刀は言葉を選びながら


「全ては曹操さんの決断次第かな。こちらは話し合いの用意もあるし、戦う覚悟もある。今はこれしか言えない」


「そうか…」


一刀の返事を聞いて、秋蘭は堅い表情をしながらそう呟いたのであった。


丁度その頃、負傷のため部屋で拘束されている焔耶の元に桔梗と夕霧(法正)がやってきていたが、二人が部屋に入って来てからお互い気まずいのか誰も口を開こうとはしなかった。


そして痺れを切らせて桔梗が口を開こうとしたところ焔耶が漸く口を開く。


「桔梗様…」


「何じゃ焔耶」


「私が桃香様の事を思ってやったことは間違いだったのでしょうか…」


「武人として最後まで主に忠を尽くすという意味では間違いはないが、暗殺という手段は間違いとしか言いような無いな」


「では私は他にどんな手段で桃香様の仇を取れば良かったのですか!」


桔梗の返事に怒りを露にする焔耶。


「逆にお主に聞くが、お館様を殺した後お主はどうするつもりだったのじゃ?そのまま晋に転がり込み、地位を戴くつもりだったのか」


「そんな事ありません!ただ私は桃香様の仇さえ取れれば、それだけ良かったのです!」


「馬鹿かお前は!死んだ馬謖は鐘会と結託して、一様(一刀の事)を殺した後、晋での地位を約束していたみたいだ。その流れから行けばお前も同じ様に見られても仕方がないだろう!」


「そんな……私は桃香様の仇さえ取れればそれだけで良かったのです…ただそれだけだったのです…」


夕霧から馬謖が鐘会と結託して暗殺成功後の約束を取り付けられていた事実を突き付けらると焔耶は、愕然としてそう呟くのが精一杯であった。


そんな焔耶の姿を見た桔梗と夕霧は何も言えず、渋い表情をしたままであった。


一方、今まで沈黙を守ってきた晋にも漸く動きがあった。


一刀暗殺に失敗した鐘会が晋に帰ってきたからである。


そして鐘会の口から一刀暗殺の経緯を聞いた各将は皆、苦い表情しながら沈黙していた。


しかし鐘会の表情は後悔する風には全く見えなかった。そんな鐘会を見て、まず激怒したのが、魏戦で鐘会の元で働き、そして鐘会が抜けたから部隊を率いている胡奮(燕)であった。


「アンタ何考えているんだよ!こんな事をして陽炎(司馬懿)様の事になると思っているのかよ!!」


この発言は武将の共通した想いであったが、しかし陽炎の妹である司馬馗(嵐)は


「でも葵(鐘会)は、お姉様の為になると思ったのでしょう?そんなに悪い事だと思わないけど…」


姉の陽炎に対するシスコンな持ち主である嵐が単純に姉の事を思う鐘会を庇う発言すると


「貴女、何考えているのよ!」


「何を言っているのですか、嵐様!今回このような卑怯な振舞いをしてそれを認めたら、我々の信義はどうなるのですか!これで蜀と魏が手を結び、既に蜀と同盟を結んでいる呉が加われば、我々は三国から一斉に攻められる可能性があるのです!!それを避けるには最低でも葵の処分は必要不可欠です」


「俺たちは卑怯者のお前の尻拭いするのは御免だぜ!」


「他国にもこの話が伝わっている。このままだと危険」


姉の司馬孚(楓)、そして徐晃(松羽)、張郃(若竹)、郭淮(梅香)は鐘会の処分を主張する。


そして場が荒れそうになったが、


バン!


「お前らいい加減にしろ!ごちゃごちゃ言う前にまずは何で此奴がこんな事をしたのか聞くのが先だろうが!」


机を叩いて、強い酒臭させながら蒋済(白雪)が一喝して周りを鎮める。


そして陽炎(司馬懿)が改めて、葵(鐘会)に対して尋問する。


「何故、貴女は私の命を無視して北郷一刀を暗殺しようとしたのかしら?」


葵は観念したのか、悪びれない表情をしながら


「陽炎様が天下を望んでいないことは重々承知しております。しかし、そのような欲望の無さはこの乱世に不必要な物です。このままだと陽炎様は何れ北郷一刀に滅ぼされてしまいます。陽炎様に欲があれば、早々に袁家を乗っ取り早い段階で北郷一刀と雌雄を決することができたでしょう」


「だから私は陽炎様に天下を望んで欲しい為、その邪魔となる北郷一刀を暗殺して決断を促そうとしたのです。失敗したのが晋にとって惜しいことです」


物言いは丁寧だが、内容は激しいものであった。しかし陽炎は怒りもせず冷静に


「言いたいことを言うわね。葵」


「はい。この際最後ですから言わせて貰いました」


そう言いながら陽炎は葵をじっと見ている。そして二人の間に沈黙が流れたが、先に沈黙を破ったのは陽炎であった。


「葵、明日私の命を無視した罪で貴女の首を刎ねるわ」


「それは覚悟の上です」


「明日、貴女は死ぬ」


「はい……」


「だけど、貴女を死ぬことを許さないわ。そこまで言ったからには、一生私の為を尽くしなさい」


「……どういう意味でしょうか?」


「言葉の通りよ。貴女がさっき言っていた劉玄徳の倣いを真似させて貰うわ。だからここで鐘士季は死んで、新たに別の将として貴女は生まれ変わるのよ」


葵は先程の説明で桃香の生存を伝えていた。そしてそれが自分の身に降りかかろうと思っても居なかったが、陽炎からそう言われると覚悟を決めて


「……全ては陽炎様にお任せします…」


「分かったわ。でも生まれ変わると言っても鐘士季と悟られては拙いわね。今回の命令無視違反の咎と合わせて、貴女の面貌を潰す。松羽、若竹!」


「はっ!」


「はい!」


「二人は葵が暴れないように葵を座らせ、両腕を押さえなさい!」


松羽と若竹は葵を暴れない様に両腕を押さえる。葵も抵抗せずに従う。


そして陽炎は匕首を持って、それを葵に突き付ける。


「今から、貴女の顔をこれで切るわ」


陽炎はそう言いながら葵の左右の頬をそれぞれ三か所ずつ切り裂いたが、その間、葵の顔はさながら朱を注いだ仮面と化して、それを見ていた他の将は驚きのあまり掛ける言葉も無かった。


葵はその間激痛に耐え、呻き声一つ上げなかった。


そして傷をつけ終えた陽炎は最後に葵の髪をバッサリと切り


「これでいいわ。これで鐘士季は死んだ」


陽炎がそう言うと葵は気が抜けたのか、その場で気を失ってしまった。


「手当をしなさい」


陽炎は葵を支えていた松羽と若竹に、そう短く命令すると二人は粛々とその命に従った。


三人が去ってから、白雪が


「それでこれからどうする」


「そうね…。まずは対外的な目もあるから北郷一刀に明確に謝罪するわ」


「しかし謝罪と言っても向こうは葵の首を要求してくるぞ」


「だから、これを持っていくのよ」


陽炎は先程切った葵の髪を持つ。


「ふむ…それで相手が納得するか?」


白雪はそれで蜀が納得させるには少し弱いと思っていたが、


「それで相手が納得しなければ、劉玄徳の事について話をちらつかせなさい。こんな取引するのは今回だけ、北郷一刀とは正々堂々と戦いたいから」


陽炎から言われると白雪は黙って頷いた。そして最後に陽炎が


「そして謝罪が終れば、蜀と戦う前にまずは後顧の憂いとなる魏を完全に叩くわよ」


陽炎はそう宣言し、こうして晋も新たな道を歩み始めたのであった。



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