第114話
しばらく空いてしまいましたが、漸く復帰しました。
今回は少し短いかもしれません。
一刀たちが屋敷に入り、侍女である桃香と雛里も同じ屋敷に入った後、二人は一刀たちの身の回りの世話を行い、そして現在、屋敷の庭を使い洗濯をしていた。
「焔耶ちゃんに会う時…私、どうしたらいいかな?」
桃色基調のメイド服(月の着ていたメイド服をイメージして下さい)を着た桃香が洗濯物を干しながら、洗濯している同じく青色基調のメイド服を着た雛里に尋ねる。
蜀漢決戦において、桃香と雛里(雛里の場合は諸葛均と改名された)は降伏した後、責任を取る形で二人は名目上死んだ事となり、そして焔耶は蜀への降伏を拒み逃走した経緯があったからである。
「あの時焔耶さんが、勝手な行動を取って結果的に私たちが敗れてしまいましたから…本来なら懲罰ものです」
あの時を思い出し、少し怒った顔をしながら洗濯物を板で擦る雛里。
「でもね、雛里ちゃん。もう私、王じゃないんだからさ。今更以前の事を問い質しても仕方がないよ。ただ結果的に焔耶ちゃんと春風(馬謖)ちゃんを見捨てて私たち降伏したでしょう?だから会う時、どうやって接したらいいのかなと思ってね…」
桃香は複雑そうな表情をしながら、雛里が洗った洗濯物を干していく。
「そうですね。それはあまり気にする必要はないかと。焔耶さんは桃香様を慕っておりましたので、ここは素直に桃香様が『戻って来てありがとう』という労いの言葉を掛け、そしてその後ゆっくりと話し合えばいいと思いますよ」
「そうだよね。やっぱり素直に話すのが一番だよね」
桃香は笑顔で答えたが、まさかその後焔耶たちととんでもない場面で再会する事になるとは、その時は夢にも思わなかった。
そしてその夜、一刀たちは来客用の屋敷の一室で璃々と夏侯覇こと夏侯淵と話をしていたが、終始夏侯淵が途中何度か考え込む様子であったので、気になって一刀が声を掛けてみた。
「どうしたの、何にか考えているみたいだけど…」
「ああ…今日、昼、ここの鐘進という者の事が気になってな」
「二人で話し合いの時に何かあったの?」
璃々の質問に夏侯淵が
「いや、直接何かされた訳ではないのだが、鐘進という者の目が気になるのだ。片目という事では無く、そうだな…何か私の事を見定めているという感覚と言ったらいいのだろうのか、何かそんな雰囲気が感じられたのだ」
「もしかして、夏侯淵さんの正体がばれたの?」
「それは正直分からないな。だが…何らかの事を知っている可能性はあるかもしれないが」
「取り敢えず、近い内に魏延さんたちと会う事になるだろうから、まずはそれとなく鐘進さんの事を調べる必要はあるかもしれないね」
一刀がそう話を締めくくったが、しかしそれは遅かった。もうすでに一刀たちの身に危険が差し迫っていた。
一刀の宿泊している屋敷から少し離れた場所では既に馬謖と鐘会が既に手勢を引き連れ待機させ、そして周りの住人には一刀たちが宿泊させるという警備上の理由で別の場所に避難させていた。
そして馬謖が鐘会に最後の確認を取る。
「屋敷の様子はどうかしら」
「ああ…周りは厳重に警戒しているな」
「これ位は予想の範疇よ。一国の王だから、もっと大勢の兵を連れてくると思っていたくらいだわ。外にいる軍勢もそう多くはないから北郷一刀を討ち取ってしまえば、後はこちらのものよ」
「取り敢えず、早く合図を送らないと魏延がまだかまだかと催促してくるぞ」
「それもそうね。それじゃ魏延将軍に合図を送って」
春風(馬謖)は近くにいた兵に焔耶に作戦開始の合図を送った。
一方、城の城壁で春風の合図を見た焔耶は静かに闘志を燃やしていた。
「合図か……桃香様、漸く貴女の仇を取ることができます。そして貴女との誓いを忘れ、北郷一刀に仕えている関羽と鈴々にも鉄槌を下してみせます!」
そして傍にいた兵たちに
「おい、お前達準備しろ。貴様たちは私と一緒にあれだけの猛訓練をしてきたのだ、必ず成功させるぞ!」
「「「おう!!!」」」
数十名の兵は返事をした後、準備に掛かる。その兵たちは普通の兵と比較して上半身がかなり鍛え込まれていた。
そしてそれぞれの手には鎖を持っており、そして鎖の先には重さ120斤程度(約30キロ)の鉄槌や岩石があった。
兵たちはそれぞれ間隔を取り、ハンマー投げの選手の様に自分の身体を軸にして回転して行く。
「うぉぉぉぉぉ―――――!」
そして焔耶が気合の入った掛け声と同時に鉄槌を投擲し、そして兵士たちも同様にそれぞれの得物を投げ込んだ。
ちょうどその頃、一刀たちは翌日に備え就寝の為、部屋を出ようとしていた。
「さて璃々、そろそろ寝ようか」
「うん♪」
璃々は一刀と一緒に寝られると思って一緒に部屋を出ようとすると…急に天井を突き破って鉄槌や岩石が落下してくる。
「きゃあ!」
璃々の頭上を掠める様に鉄槌が落下してきたが、何とか持ち前の反射神経で叫び声を上げながらこれを辛うじて躱す。
「二人ともこっちに!」
すると一刀は咄嗟に璃々と夏侯淵を机の下に避難させようとしたが、投げ込まれた鉄槌や岩石は屋敷の天井や梁を的確に破壊、そして崩れてきた天井の一部や瓦が落下して、まだ机に入りきれていない一刀と夏侯淵に襲い掛かる。
すると咄嗟に一刀は夏侯淵を庇うために自ら上に覆い被せる形になった瞬間、崩れた天井が一刀の姿を隠してしまった。
「ご、ご主人様ぁぁぁぁ――――!!!」
まだ木材や瓦が落下し続ける中、机の下で見ていた璃々は悲痛な叫び声を上げていた。
「一体な、なんなのだ―――!」
「鈴々!上を見ろ!」
一方、同じ時に屋敷の外で警戒に当っていた愛紗と鈴々は突然謎の落下物に襲われた為、兵たちは混乱に陥り指示が伝わらない状態となり、更に土埃が立ち込めて、ほとんど視界が利かない。
「く、くそ!これでは全く見えぬではないか!」
「あ、愛紗、あれを見るのだ!」
愛紗が咽ながら涙目にもなっているのにも関わらず、懸命に指示を出していると鈴々が大声を上げる。
愛紗が何とか鈴々が指差した方向を見ると城壁では焔耶たちが二度目の投擲が始まろうとしていた。既に一度目の投擲で屋敷の半分以上が破壊されていた。
一刀たちが屋敷から脱出している様子は無かったが、まだ屋敷は半壊状態でぐずぐずしていると一刀たちが屋敷から脱出される可能性が高い。ここは何が何でも屋敷を破壊して一刀たちを圧死させるつもりであった。
「これで止めだ――――!!!」
焔耶はこれで一刀の息の根を断つという思いで鉄槌を放り投げると焔耶に続けとばかりに、他の兵たちも鉄槌や岩石を投げる。
流石の愛紗や鈴々も鉄槌や岩石を打ち返すという芸当ができる訳も無く、自分たちに当らぬ様にするのが精一杯。
そして容赦なく鉄槌や岩石は屋敷に命中すると、やがて屋敷は轟音を立て崩れると愛紗と鈴々は
「ご、ご主人様、と、桃香様ぁぁぁぁ――――!!!」
「お、お姉ちゃん――――!!!」
なす術も無く、二人は叫び声を上げるしかなかった。
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