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真・恋姫無双 〜新外史伝〜  作者: 殴って退場
第11章 荊州の変
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第109話

前回の投稿で、この作品のお気に入り件数が1000件を超えることができ、感謝しています。


引き続き応援、よろしくお願いします。

一刀が秋蘭を保護していた頃、魏は前回の大敗による軍の立て直しが行われていたが、しかしこれが順調には進んでいなかった。


華琳は晋との戦いで自軍の兵を大きく減らした為、天和たちを使い元黄巾党の党員を再獲得して訓練等行い自軍に加えていた。だが青州で落ち着いてからも元の自軍の兵たちが逃げる者が相次いで出ていたため、晋への反抗に転じるための兵力が足りない状態であった。


~魏・新本拠地  青州・北海~


「それで稟。兵の再編は終了したかしら」


「はい。守備兵を除き、現状で動かせる事ができる兵は約5万。しかし半数くらいが現在も訓練を受けているところです」


「そう。春蘭たちには、その者をなるべく早く使えるようにしなさいと伝えておきなさい。それで桂花、烏丸と鮮卑に向かわせた使者の結果はどうだったの?」


「……申し訳ありません。協力を取り付けることはできませんでした……」


華琳は北方の異民族を利用して幽州に牽制する為の兵を供出するように依頼したのだが、残念ながら晋に恐れ協力を断ったのであった。


「……そう。仕方がないわね。風、貴女の方はどうなっているの」


「は~い。取り敢えず冀州や兗州で扇動の準備を進めていますが、兗州は何とかなりそうですが、冀州の方はまだ整っていない状態です~」


「分かったわ。目立たぬよう引き続き準備を進めなさい」


「華琳様。まさか、この状況で戦いを挑まれるつもりでは…」


「フッ…分かっているわ、それ位の事は。今は耐え忍ぶ時ということ位は…ね。でもね、いつ来るか分からない風を待つよりも、自ら風を作る準備くらいはしておくものよ」


稟は、華琳が無用な兵を起こすのではないか不安になったが華琳の返事を聞いて、取り敢えず安堵した。

そして華琳は風たちを下がらせてから、


「司馬懿……貴女には絶対に勝たせない。必ず秋蘭の仇取らせて貰う。そして最期の一兵になるまで戦うわよ」


秋蘭が一刀の元で生きていることを知らない華琳は、司馬懿に対して復讐戦を誓っていたのであった。


~荊州・武陵郡~


蜀呉同盟が結ばれ、そして交渉の結果、正式に国境が決まり、武陵郡が蜀に属することが決まり、それである姉妹が口論していた。


「姉上!私は反対です!このまま、我々が蜀に属することができません!」


妹の反対論に対し、姉は冷たい視線を浮かべたまま


「じゃ、貴女の言う通りに打倒蜀の兵を上げたとしましょう……。貴女の拙い指揮で勝てる可能性はあるの?」


その妹が以前拙い指揮をしたことを例に挙げると


「あ、あれは私が油断したからです!今度こそ勝ちます!」


「勝つね…。それで貴女たちの大義名分は、何?劉備殿の仇討に漢王朝の復興?劉備殿の仇討は兎も角として漢王朝の復興って貴女たち…一体どこ見ているの」


「劉備殿の仇討についてはまだ話が分かるわ。でも漢王朝の復興なんて誰も望んではいないわ。漢王朝は400年続き、その間権力闘争に明け暮れ、民を虐げ搾取して好き勝手にしてきたのよ。そんな王朝に誰が復興して欲しいと思うの?」


姉から事実を指摘されると妹は言葉に窮してしまい、辛うじて言葉を繋げる。


「では…姉上はこのまま、蜀に素直に降るというのですか」


「ええ、そして蜀に降る時に貴女たちの助命も嘆願するつもりよ」


「でも貴女が蜀に仕えるのを潔しとしないなら、ここから出て行きなさい。私も命までは取らないわ」


「姉上……。では、なぜ姉上は私よりも人望や能力もあるのにどうして自ら立とうせず、このような片田舎の太守で満足しているのですか!」


「私は天に号令を掛ける程の実力は無いのは分かっている。そのようなことが出来るは一握りの天才又は素晴らしい天運の持ち主だけ。そうでない者は、その持ち主の元に集い最大限の実力を発揮すればいいのよ。ただ、人には分相応という物があるわ……」


姉と呼ばれる人物は言葉を切った。


「………」


そしてしばらく沈黙の時が流れる。


「姉上は……私に、能力以上の事をせず大人しくしておけということですか?」


「そうじゃないわ。人にはそれぞれ、分相応の役目があるわ。天才には天才の。凡人には凡人なりの、ね…」


「だから私は無理して背伸びしている貴女を死なせたくないのよ。そしてそんな貴女に巻き込まれて無謀な戦いをして民も死なせたくないの。だから貴女に考える時間は上げるわよ。でも時間はあまりないのも事実。頭を下げるかここから出て行くのか二人で相談して早く結論を出しなさい」


そう言いながら姉と呼ばれた人物は部屋から出て行った。


そして一人残された妹は、自分の部屋に戻ると、部屋にいた女性は姉妹の話し合いの結果を尋ねてきた。


「どうだった。お前の姉上は兵を出してくれるのか」


妹と呼ばれた人物は首を横に振りながら、さっきの話し合いの結果を告げる。その結果を聞いて部屋に居た女性は声を荒げる。


「くそ!これでは桃香様の仇を討てないではないか!」


こう叫ぶのは、先の蜀漢決戦で敗れ行方知れずになっていた焔耶、そして妹と呼ばれた人物は行方不明後焔耶と同一行動を取っていた馬謖(真名:春風)であり、そして姉と呼ばれた人物は武陵の太守で姉の馬良(字を季常、真名は雪風)であった。二人は戦いに敗れた後、姉の馬良を頼りしばらく鳴りを潜めていたが、桃香が生きていることを知らない二人は桃香の敵討のために兵を借りようとしたのであったが馬良に断られ、更に降伏か逃亡のいずれかを選択するように告げられたことに対し、焔耶は怒りを露にしていた。


「話が違うではないか!それに今更、蜀に降伏などできるか!」


焔耶は当初、春風が馬良から兵を借りれる様な発言をしていたのでそれに期待していたが、結果的にこれが駄目になり、更に馬良から降伏か逃亡のいずれかを選択する様に言われたことに桃香の敵討を望んでいる焔耶にとって、いずれも承服しがたい話であった。


「……すまない」


春風は説明を終えてから、ずっと焔耶に頭を下げ続けていたので、これを見て漸く焔耶も落ち着きを取戻し


「すまん…私も頭に血が上っていたのだ。取り敢えず頭を上げてくれ。確かにお前の姉上が言っている事は分かる。だからこれ以上迷惑も掛けることはできぬから、近い内に私はここから出ていこう。そしてお前はここに残った方がいい」


焔耶はこれ以上春風に迷惑を掛ける訳には行かないと考え、武陵から出て行こうと決意していたが、春風は


「いいえ…私にも意地があります。そう簡単に旗を替える訳にはいきません。何とかしますので2、3日時間を下さい」


春風は馬良に色々と指摘されたが、やはり今まで自分が培った知識や誇り、そして姉を越えたいという強い意志があったため、今までの考えを捨てることができなかった。


だが姉の返事を聞いて、今まで躊躇していた事を春風は決断したのであった。だがまだこれについてはどうなるか分からないので、焔耶には待って欲しいことを告げると焔耶も2、3日ならと言って了解したのであった。


そしてその日の晩、春風は人目を避けある人物を屋敷に呼び出すこととした。


その呼び出しを受ける者は春風が姉の馬良と接見する前に屋敷に手紙を送り、内容は『貴女たちの目的を遂げる為の協力を惜しまない』と書きそして手紙の末尾に自分の名を書いていた。


春風は当初、手紙を見た時、悪戯若しく気味が悪いと思い、相手にするつもりでは無かったが、姉から兵を借りる事ができず、そして今後の見通しが不鮮明な為、危険を承知で手紙の送り主と会うことを決めた、そして手紙に書かれていた宿に家人に迎えに遣り、こうして謁見の運びとなった。


そして手紙の送り主を屋敷の別邸に通した後、春風は家人には周りに誰も近付けない様命じた。そして挨拶もそこそこに


「手紙を拝見したわ。私たちの目的の為に手助けをすると書いていたけど、私たちの目的が何か分かって書かれているの?」


春風は値踏みするかのように手紙の送り主である隻眼の女性に聞く。


「ええ、分かっているつもりですわ。声を出して言うことが憚れますので、耳を貸して下さるかしら」


そしてその女性は春風の耳元で目的の内容を告げると、春風は驚きを隠せず


「どうして、それを…」


「外から見ていると貴女たちの動きがよく分かりますわ。でも今の貴女たちの力では無理でしょうけど」


「では…国を挙げて私たちの為に力を貸してくると?」


「いいえ、貴女たちと会っていることは私以外の者は誰も知らない事」


「フッ…それでは話にならないわ。ではどうやって私たちに手を貸すつもり?」


「簡単な事です。力で無理なら少数でも目的が遂げられると方法はありますよ」


「少数でも目的が遂げられる方法…、そ、それは暗殺ということか…」


「ええ。これなら少人数で貴女たちの目的を達することができる。そしてそれなら私の手勢も貸してあげるわ。そして成功した暁には私が責任を持って、貴女たちにそれなり地位を与えることを約束するわよ。勿論お姉さんよりも上の地位ね…」


「………」


春風はしばらく考え込み、


「そこまで言うのなら、貴女の考えている作戦を教えてくるかしら」


「分かったわ。じゃ……」


説明を聞き終えると春風は


「……分かった。貴女の話受ける事にするわ。約束の件必ず守ってくれるでしょうね」


最後は覚悟を決めた様な声であった。


~長安~


一刀たちは、負傷保護している夏侯淵の事もあり、怪我がよくなった頃に長安に引き上げてきた。そして長安に戻ると予め連絡を取っていた華佗に夏侯淵の診察をして貰ったが、その結果は芳しくなかった。


「すまんな一刀…勝手が違うというか、記憶喪失というのは今まで俺も扱ったことないんだ」


「でも、以前碧さん(馬騰の真名)を治したみたいにあれで治らないの?『げ・ん・き・に・なれ~!』っていうのは?」


「記憶喪失というのは、別に病魔というわけではないからな。あれは、一気に氣を高め、体内の病原の元を消し去る際に使うものだ。勿論怪我の治療には使うがこれで記憶喪失が治るというのは今まで例がないな」


璃々の質問に華佗が答える。


「今のところは怪我が治るまでは安静にして、徐々に普通の生活をさせていくことが無難だろうな」


「身体を動かすことに問題はないの?」


「ああ、逆に身体を動かした方が気分転換にもなるだろうし、もしかしたら記憶が見つかる何らかの手掛かりが見つかるかもしれん。俺も本とかで色々と治療法を探してみる」


華佗は一刀に当面、夏侯淵の治療のため長安に滞在することを決め、部屋から退出した。


一刀、紫苑、璃々の三人は治療が終えた夏侯淵の部屋に向かう。


すると部屋には桃香が居たが、桃香は一刀の世話だけでは無く負傷で何かと不自由にしている夏侯淵の身の回りの世話もしていたのであった。そして夏侯淵は一刀たちの姿を見て


「いつも申し訳ない」


夏侯淵は律儀に礼をする。一刀はそんなかしこまる必要はないと言っているのだが、こればかりはしかたないと思い諦めていた。


そして桃香が皆にお茶を配り終えると夏侯淵は


「北郷殿」


「どうしたの?」


「北郷殿に保護されてから、私は、自分が何者であるのか必死で思い出そうとした」


「うん」


「北郷殿や紫苑殿は、私を魏の宿将だと言うが…しかし、私がそのような者であっただろうかと。私は孫子や三略の兵法がどのような物か全く覚えておらず。幸い字を読めるが、北郷殿が説明した事以外で私は自分を示す物がない」


「……」


「こんなことを言えばおかしいと思うかもしれぬが、そして自分の武勇伝を聞いても…そして魏の情勢や地勢を聞いても…今の私には心が震えないのだ。そう…全て他人事のようにしか感じないのだ…」


息を吐き、緊張していたのかお茶を一気に飲み、悩む夏侯淵の姿を、一刀たちはじっと見つめていた。


「そして保護をしていただいて、世話を受けている身でありながら、何一つ思い出せない私にそのような価値があるのだろうか…」

 

夏侯淵の告白に場は静まり返った。そんな夏侯淵に紫苑は


「夏侯淵さん、気にすることはありませんわ」


声を掛けるも夏侯淵は黙ったままで、更に声を掛けようする一刀に予想外の人物が声を掛けた。


「夏侯淵さん…確かに今までの自分を思い出せないのは辛いと思うよ。でもね、これから新しい自分を作ればいいと思うの」


何とここで声を掛けたのは桃香であった。


「……それはどう意味ですか、桃香殿」


「夏侯淵さん。……実は私は以前の名を劉備玄徳。そして漢の最期の皇帝でもあります」


自分の正体を告げると桃香は覚悟を決めて今までの自分の事を話し始めた。


そして桃香の話を聞き終えて、夏侯淵は唖然とするしかなかった。


「そうだったのか…だが桃香殿、一つだけ聞かせて欲しいのだが」


「はい、何でしょうか?」


「桃香殿が今までの自分の名とかが無くなった時、どのような気持ちだったのか聞かせて欲しいのだが」


「そうですね…。私の場合、戦いに敗れて命が無い物と覚悟していましたから、ご主人様が生きる道を作っていただいたので感謝していますよ。だから今は第二の人生が始まったところという気持ちです」


桃香が屈託なく答えると夏侯淵は


「……そうか。桃香殿の話、これからの参考とさせて貰う」


そう返事をすると表情は先程と違い硬さが幾分か取れ、そして血色が良くなっている様に一刀たちは見えた。


そして治療で疲れている夏侯淵を部屋に置いて、一刀たちは部屋から退出した。そして引き上げている途中で一刀が桃香に


「桃香のおかげで夏侯淵さんが変な考えに行かなくて助かったよ」


「そうかな、私はてっきり自分の事を話したからご主人様に叱られると思っていたんだけど」


「確かに桃香の事を秘密にはしているけど、夏侯淵さんが今、誰かに話をする訳ではないだろうから大丈夫だろう」


「それに桃香ちゃんの一言が夏侯淵さんの何かに響いたと思いますわ」


「桃香お姉ちゃん、普段はうっかりしているのに、今回はかっこ良かったよ♪」


「璃々ちゃん、ひどい―――!私を普段そんな風に見てたの―――!!」


桃香は一刀と紫苑から褒められたのは良かったが、璃々からその様に言われると桃香は顔を河豚の様な表情をしながら、璃々を追い駆け回したが、残念ながら追い付かず疲れて果てたのは言うまでも無かった。





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