不幸の手紙の行く先
「なあ、『不幸の手紙』知ってっか?」
教室で守(まもる)の幼なじみである正義(まさよし)が言う。
「そりゃ。この町はその話題で持ちきりだから」
守の言う通り、今、この町では『不幸の手紙』が流行っている。始まりはいつ頃だったか定かではないが、一年ほど前から噂が囁かれ始めた。
不幸の手紙とは、ある日、自分の下に『この手紙の文章を○人に回さないとあなたに不幸が起こります』という手紙届くやつだ。チェーンメールみたいなものだ。
「不幸の手紙でみんな不安だよな」
守は思った。この言い方は……。
「と、いうことで! 僕達で不幸の手紙の元凶を探そうと思います~!」
守はため息をついた。
正義は昔からこうだ。変に好奇心と正義感が強く、他人の困り事に介入して解決しようと、警察ごっこをする。それにいつも自分が巻き込まれる。
そんなことを続けているうちに高校二年生の今、お互い警察官になるという約束を交わした守も守である。
「で、なんか調べたの?」
正義はだんだん警察ごっこが上手くなり、こう言い出す時にはすでに何かしら捜査の構想が固まっている。正義はスマホを取り出した。
「いろいろ見たけど、このサイトが一番今の状況に合ってる」
正義はスマホの画面を守に向ける。黒い背景のいかにもオカルトサイトという感じのものだった。
「不幸の手紙は回れば回るほど効力を増すらしい」
効力。そう効力である。ただ単に流行っているだけではない。実害があるので皆困っているのだ。
噂では、最初の方は回さなかった人に起こった不幸といえば百円を落としたくらいだったらしい。しかし、回れば回るほど百円が千円、千円が一万円、一万円が財布、財布がクレジットカードの不正利用とどんどん不幸が増していったという。
「最近じゃ交通事故にあったとかいうよな」
「そ。それで、流行りに拍車がかかる」
正義はスマホを操作しながら言う。
「元凶が不幸の手紙を『本物』にするにはいろいろ手順があるけど、今は捜査に必要なところだけ抜き出すよ。まず……」
①手紙は手書きで
②発起人の家から一番近いポストに投函
「これである程度絞れるんじゃないかな」
絞れると言っても途方もない話だ。だが、正義の目は本気だ。
「元凶見つけたらどーすんの?」
守は正義に問う。
「まあ……説得するしか……」
その辺は自信無さげだ。
「サイトにはなんか書いてあんの? 止め方について」
「んー……」
正義は少しもごもごしている。守はひょいとスマホの画面を覗き見る。そこには
『発起人が死ねば呪いの効力は失くなります』
そう書いてあった。
「……説得の方法も考えるか」
「そうだね。で」
正義はそう言うと、鞄から一枚の手紙を取り出した。
「先週、僕にも不幸の手紙が届いた。もちろん回すつもりはない」
正義はそういう性格だ。
「もし僕に何かあったら後は頼んだよ」
「何かってなんだよ」
守は笑い飛ばしたが、次の日、正義の訃報が届いた。心不全だったという。
守は正義の葬式で呟いた。
「約束……守るからな……」
由美子(ゆみこ)が引きこもってから何年経っただろう。ずっといじめられてきて、中学から不登校になった。
由美子は世間が憎かった。いじめる本人はもちろん、傍観する者も、助けてくれない大人達も。皆が由美子を苦しめた。由美子にとっては全員が加害者であった。
由美子は、たまたまこのオカルトサイトに巡りあった。サイトには面白いことが書かれていて由美子は暇潰しにその中の一つを実験してみようと思った。
それが不幸の手紙である。
最初は由美子も信じてなどいなかった。誰かが嫌な気持ちに、自分の数万分の一でも苦しみを味わえばいいと不幸の手紙を出し続けた。
由美子が不幸の手紙が『本物』だと気づいたのは数ヶ月経った時だった。
由美子は心が震えた。自分を苦しめた者達に復讐できると。誰もが自分が加害者であるという罪の意識を植えつけられると。
そうして年月が過ぎていった。不幸の手紙は今も回り続けている。
そんな時。
「あの……由美子ちゃん……」
控えめに自室の扉をノックする音と母親の声が聞こえる。
「んだよババア」
母親は恐怖を滲ませながら告げる。
「由美子ちゃんに会いたいって人が来て……」
「?」
そんな奴いるはずがない。不審に思う由美子に母親は続ける。
「『不幸の手紙について話がある』って……」
「!」
それを聞いて、由美子は皮肉にも数年ぶりに外に出た。
「やあやあ、公園までついてきてくれてありがとう」
由美子と同じ年くらいだろうか。青年は人気の無い公園に由美子を連れてきた。
「話って?」
由美子はぶっきらぼうに言う。
「わかってるんじゃないかな。不幸の手紙の発起人はお前だ」
「……」
由美子は黙る。黙るしかない。
「警察でもなんでもない奴がここまでたどり着くのに苦労したよ~。何年もかかったし、犯罪だってした」
へらへら笑う青年に由美子は言う。
「それで? アタシになんの用?」
「約束と復讐」
青年がそう言うと、由美子の腹部に鋭い痛みが走った。
「え」
見ると、脇腹にナイフが刺さっている。青年は何度も由美子にナイフを突き立てた。青いジャージが赤く染まる。
悲鳴を上げる間もなく、由美子は絶命した。倒れた由美子の周りには血溜まりが広がってゆく。
青年は曇天を見上げて呟く。
「約束……果たしたぜ……。これで良かった……訳無いよな……。お前はきっと、いや、絶対怒る。でも……俺にはこれしかできなかった……」
雨がぽつぽつと降り出す。
「警察官になれなくてごめん……」
守は、ただ一人、そこに立っていた。
一人……いや、二人の者達によって不幸の手紙はその効力を失った。守のことがニュースになれば手紙を止める者も出てくるだろう。
そうして、いつか廃れていくだろう。
不幸の手紙は、もう回らない。




