心の声がうるさい元婚約者のために、国家の闇を3日で暴いた話
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「エルザ・ヴァンディッシュ公爵令嬢! 君との婚約を破棄する!」
華やかな夜会の中心で、王太子アルフレッドの声が冷酷に響き渡った。
周囲の貴族たちが息を呑み、会場が静まり返る。
アルフレッドは冷徹な仮面を張り付かせ、軽蔑するような目で私を見下ろしていた。
――が、私の耳には、それ以上の大音量の爆音が響いていた。
(うわあああああああ! エルザごめん! 本当にごめん!! 今日のドレス姿も世界一、いや宇宙一可愛いよ! 本当は今すぐ抱きしめて愛を囁きたいけど、財務大臣のハゲ親父が僕の派閥を狙ってて、君を巻き込むわけにはいかないんだ! 泣かないで、僕を一生恨んでいいから、とにかく安全な実家に逃げてくれぇぇぇ!!)
(……相変わらず、殿下の心の声はうるさいですわね)
実は私、生まれつき人の心を読める能力を持っている。
アルフレッド殿下が宮廷のドロドロした派閥争いから私を守るため、あえて悪者になって「婚約破棄」を演じていることは、わざわざ説明されなくても最初から丸聞こえだった。
うつむいて肩を震わせる私を見て、殿下の心臓はち切れんばかりの悲鳴が聞こえる。
(ああっ、エルザが泣いてる……!? 違うんだ、僕は君を愛して――)
(いえ、殿下。私、感動のあまり笑いを堪えるのに必死なだけですわ)
殿下の深い愛(と脳内の大絶叫)をすべて受信した私は、淑女の完璧な一礼をしてみせた。
「……謹んで、お受けいたしますわ」
おいたわしい殿下。そこまで私の安全を願うなら、私もプロの公爵令嬢として、あなたの憂いを「物理的かつ合法的」に根絶やしにしてご覧に入れますわ。
私は未練など一ミリもない足取りで、颯爽と夜会会場を後にした。
――それから、わずか3日後。
王城の執務室で、アルフレッドが
「エルザ、今頃おいしいお菓子でも食べてるかな……会いたいな……」
と死んだ魚のような目で遠い空を眺めていた、その時である。
バァァァン!!!
凄まじい音を立てて、執務室の重厚な防音扉が蹴り開けられた。
そこに立っていたのは、数日前に婚約破棄したはずの元婚約者――私である。
私の両腕には、私の身長を遥かに超える、うずたかい「書類の山」が抱えられていた。
「殿下! お待たせいたしましたわ!」
私は満面の笑みで、その書類の山を殿方の机にドッッッスン!!と叩きつけた。あまりの衝撃に、高級万年筆が空中を舞う。
「えっ……エ、エルザ……!? なに、これ……?」
(ひえっ!? 可愛い元婚約者が3日ぶりに現れたと思ったら、なんか部屋のドア壊して国家転覆レベルの不穏な塊持ってきた! 怒った顔も超絶美人だけど僕の命日これ!?)
「殿下を脅迫していた財務大臣一派の、過去10年分の脱税、密輸、および国家反逆罪の決定的な証拠書類(原本)にございます!」
「え、原本!? あいつの屋敷、国家機密の防壁魔法でガチガチに守られてたはずじゃ……」
「愛の力に解けない結界などありませんわ(※実家の私兵団で物理的に金庫を粉砕しました)」
私が誇らしげに胸を張ると、書類の山からひときわ分厚い一束が滑り落ちた。
「さらにこちら。財務大臣がルーク殿下を無理やり脅迫し、謀反の片棒を担がせていた証拠一式ですわ」
「えっ……ルークが?」
その時、再び執務室の扉が勢いよく開いた。
「兄上ーーー!!!」
飛び込んできたのは、アルフレッドと王位を争っていたはずの異母弟、ルーク殿下だった。
端正な顔を涙と鼻水でぐしゃぐしゃにしたルーク殿下は、アルフレッドの腰にしがみつく。
「怖かった! 怖かったよ兄上! 財務大臣のやつら、僕の裏ポエム日記を人質にして、無理やり『王位を奪え』って脅してくるんだ! 僕はただ兄上と仲良くチェスがしたかっただけなのに!」
(兄上助けて! このヴァンディッシュ公爵令嬢マジで化け物だよ! 夜中に僕の部屋の窓から不法侵入してきて『ルーク殿下、あなたの日記(原本)と大臣の首根っこを押さえたのでお兄様と仲直りなさい』って黒歴史ノート顔面に投げつけてきたんだよぉぉぉ!!)
相変わらず兄弟揃って心の声がやかましい。
アルフレッド殿下はゆっくりと私を振り返った。
「エルザ……君、本当にこの3日間、何をしてたの……?」
(僕が夜会で必死に悪者ぶってたあの涙の時間を返して!! 3日で一国の派閥を物理的に解体する公爵令嬢があるか!! 好き!!!)
「何って、殿下の憂いを取り除いておりましたの。殿下が私を遠ざけたのは、派閥争いから守るためでしょう? ならば、その派閥争い自体を消滅させれば、私はまた殿方のお側にいられますもの!」
私がにっこり微笑むと、アルフレッド殿下は限界を迎えたように叫んだ。
「エルザ、君……僕が君を守るために婚約破棄したって、気づいてたの!?」
「ええ、だって殿下の心の声、毎日私の脳内に爆音で響いていましたもの」
「……え?」
「……はい?」
ここで初めて、殿下は私が「サトリ(読心能力者)」である事実を思い出したらしい。みるみるうちに顔を真っ赤に染めていく。
(待って!? ということは、出会った日から今日まで、僕が脳内で『エルザのウエディングドレス姿が見たい』とか『今日も世界一可愛い』とか『好きすぎて生きるのがツラい』とか考えてたの全部バレてたの!? うわあああ恥ずかし死ぬ!!!)
「ふふ、全部聞こえていましたわよ、アルフレッド殿下」
「う、うわあああああーーー!!!」
頭を抱えてのたうち回る兄王太子と、その横で
「全部聞こえてたの……? 姉上まじで一生怒らせんとこ……」
と静かに震える弟王子。
こうして、国を揺るがすはずだった王位継承戦は、一人の令嬢の「読心術」と「圧倒的な行動力(物理)」、そして「書類の山」によって、わずか3日で完全終結したのだった。
もちろん、その日のうちに婚約破棄は「なかったこと」にされ、二人は以前よりもさらに(片方の心の声がうるさいという意味で)賑やかな婚約者同士に戻ったのである。
めでたし、めでたし
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