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ンードラロギア  作者: ああああ


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幕間:虚空の観覧席 ―― 禁忌のアーカイブと黒塗りの地平

幕間です。第二部番外編といったところでしょうか。魔王とアリスとの一幕です。

漆黒の虚空に、幾枚もの「水鏡」が整然と並び、浮遊している。それはさながら、神の執務室というよりは、高度に文明化された監視ルーム、あるいは――重度のオタクの自室のようだった。


中央の巨大な水鏡には、月夜の下、エルキアが眠れるアルトに口づけをするシーンが、心拍の音すら聞こえそうな静寂と共に映し出されている。


「あぁ~……眼福、眼福。いいもの見せてもらっちゃったわぁ。唇が触れ合う瞬間の、あの『弾力』と『戸惑い』……共感覚リンク越しでも最高にイイ感触だわぁ……」


漆黒の玉座で身をよじり、悶絶しているのは、魔王その人であった。彼女は自身の『半身』であるエルキアと感覚を共有し、その唇の湿り気、胸の動悸、喉を伝う吐息のすべてを、自分の肉体でダイレクトに体感していた。


「あああぁぁ……! 見た!? アリス、今の見た!? エルキアちゃんが馬車の中で一人で肩を震わせて泣くシーン! 師匠の仮面を脱ぎ捨てて、ただの恋する乙女に戻ったあの絶望! あれこそが『真実の愛』の証明だよ! 尊すぎて、私の神核が割れそう……!!」


魔王は、リピート再生される「エルキアの号泣シーン」を見ながら、よだれを拭うのも忘れて頬を染める。


「……はいはい。お熱いことで」

アリスは淡々と、手元の水晶板に表示される『大陸総人口カウント』の数字をチェックしながら、氷点下の声で言い放つ。


「今までの『はじまりのエルフ』たちは、どいつもこいつも『世界の調和』だの『女神の祈り』だの言いながら、聖域に引きこもって、お茶を啜っているだけの退屈な連中だったんだから。その点、エルキアちゃんマジサイコーよ!恋に狂い、嫉妬に震え、禁忌を犯してまで一人の少年に固執する……。これこそが、私に提供されるべき極上のエンターテイメントさ!」


(……お言葉ですが、魔王様。あなたも大概な『引きこもり』ですよ)

アリスは心の内で、毒を吐く。


水鏡に映し出される、エルキアがアルトの舌を噛み切らんばかりに強く噛むシーンを魔王はフォーカスする。魔王は自身の指を唇に当て、恍惚とした表情で腰を震わせる。


「……っ、ああ! きたわ、アリス! 見て、この鉄の味! 痛みなのに、どうしてこんなに甘いの!? アルト君の戸惑いと、エルキアの『汚してしまった』という絶望……そのすべてが混ざり合って、脳が、脳が焼き切れそう……!」


エルキアの口内に広がったアルトの生温かい血の感触、それを飲み込んだ時の喉の灼熱感が、魔王の神体(肉体)を内側から愛撫していく。


「……はぁ、はぁ……。エルキアちゃん、あなた最高よ。私のような『設定された魔王』なんかより、ずっと魔王らしいわ。愛ゆえに壊し、愛ゆえに飲み込む。これぞ真の強欲、真の支配ね……!」


魔王は、ディスプレイに映るエルキアの、血で濡れた唇をなぞるように画面を愛おしげに撫でる。

その姿を見て、アリスは手元の端末に「危険度:極大。魔王、アルトの血液に過剰な親和性を確認」と淡々と打ち込む。


「魔王様、よだれが出ていますよ。……それに、そのシーンだけで今日3回目です。そんなにアルト君の『血の味』が気に入ったのなら、いっそあなたが下界に降りて、直接アルト君を噛んでみたらどうですか?」


「……えっ。それは嫌。だって、直接やったらアルト君、消滅しちゃうじゃない。私は、エルキアちゃんという『上質なフィルター』を通して、このドロドロの愛を楽しみたいのよ!」


「そんなに感動しているのなら、なぜ、あのエルキア様のキスでアルト君を起こさなかったのですか? そのためにわざわざ、彼に『マーキング』という名の不正アクセスを施したのでしょう?」


「チッチッチ! 甘いなアリス。これは『演出』だよ! 順風満帆な恋なんて、味のしないガムと同じさ。私はね、彼に施したマーキングを『編集エディットモード』にアップグレードしたんだ。これがあれば、いざという時に彼の身体を乗っ取って助けてあげることもできる……いわば、公式による救済チートパッチだね!」


魔王は得意げに胸を張るが、アリスは視線すら上げない。


「……ええ。でも実際にやっていることは、アルト君の夢の中に侵入して、中身があなただと気づかない彼を、さんざん犯し尽くしていただけじゃないですか。私、知ってるんですよ? 魔王様のせいで、彼の性癖が取り返しのつかない方向に歪まないか心配です」


「げっ、バレてた!?」

魔王は気まずそうに視線を逸らすが、すぐに思い出して頬を赤らめる。

「あ、あれは身体の適合チェックだよ。……ちょっと、過激なスキンシップが多めだっただけさ。私のマナに耐えられるようにね!」


「……あと、ラッシュ君との『BLルート』も検討して、こっそり裏で干渉しようとしてますよね?」


「ラッシュ君、押したらいけると思うんだよねぇ……。あの爽やかな友情が、ある夜の過ちで泥沼の執着に変わるっていうのも、物語のスパイスとしてアリかなって……」


「なしです」

アリスが即答する。


「はぁ…エルキアちゃんは旅に出ちゃうからライブ配信はしばらくお休みね。」


「アルト君の脳みそ、一応再生させてあげたけど、記憶までは元通りにできなかったからなぁ…刷り込みをする相手、消去法でエネアウラちゃんを選んだけど」


「彼女は危険だと思いますよ。プリムさんにすべきでしたよ」


「くふふ…見てみたいじゃない…彼女の理性が折れる時が楽しみよ」


「悪趣味ですね…」


「新しい燃料を早く投下してくれないかしら…あああもう! 我慢できない!」

魔王は突然、玉座から飛び降りてアリスに後ろから抱きついた。その瞳は完全に熱を帯び、とろけている。


「ねぇアリス……襲ってもいい? アルト君がエルキアちゃんにやってた、あの蕩けるような肩もみ……あなたが代わりにやってよ。ほら、ここ、凝ってるんだもん。……ついでに、その流れから、アレも使わせて?」


魔王が甘えるように柔らかな肩を差し出すと、アリスはピクリとも動かず、水晶板の数字を見つめたまま答える。

「嫌です」


「ケチ! あなたは、私が我慢できなくなった時のために、立派な『竿ストッパー』も持たされているんでしょ!? 私の火照りを鎮めるのが、あなたの本来の役目でしょぉ! もう、私……濡れ濡れなの……っ!」


魔王がアリスの服に手をかけ、強引に押し倒そうとしたその時。

アリスは無表情のまま、山のような『大陸再編計画書』と『マナ循環計算表』が表記された重厚な水晶板を、魔王の鼻先に突き出した。


「わかりました。本来のお役目を致します。……お相手をしましょう。その代わり、魔王様も本来のお役目――すなわち、この700万年分の滞った事務作業を完遂していただけるということですね?」


「げっ……!!」

魔王は、弾かれたようにアリスから飛び退いた。

「……それは嫌。働くくらいなら一生オナニーしてるわ!」


「左様ですか。では、お励みください。貴女が真面目に働くと世界が揺れますから。世界の安寧のために、あなたはオナニーしていてください。それが何よりの平和です」


「魔王侵攻の時もどさくさに紛れて、老若男女、容姿も関係なく攫ってきた時は大変でしたよ…野良猫を拾ってくる感覚で、『ダメ?』とか言うんですから…」


「あ!アリス、ルッキズムの人!?見た目じゃないのよ、どれだけ乱れるかがミソなのよ」


「そういう問題じゃありません。数少ない『人口を間引け』という任務に対して人類を拾ってくるのが問題なんです」


「…後は、ガナーブって人種と取引した時もアリス怒ってたよね…」


「高純度のマナの結晶体とここらの希少資源との物々交換したやつですね。今アルト君と一緒にいる、あの老剣士。オルダという名前を名乗っていますが、中身はあなたが取引したガナーブ本人ですよ。魂の波長が完全に一致しています」


「えっ、マジで!? ホントだ、あの時の頑固なおっさんじゃない! ……へぇー、世間って狭いねぇ。腐れ縁ってどこまでも続くんだね」


「腐れ縁か…あーあ……。数千年愛し合っていたあの頃は、アリスももっと素直だったのに……ふふ……あの頃か……何もかも懐かしいわ……」


魔王が遠い目をして感傷に浸ろうとすると、アリスの眉間がピクリと動いた。

「……数百万年前の古い記憶を引っ張り出さないでください。あれは黒歴史です」


「いやぁ、あのアリスの恍惚とした表情、良かったよ……。ねぇ、あの頃のアーカイブどこやったの!? また見たいんだけど!」


「さぁ……? 削除したか、宇宙の塵にしたか……」


「あ、絶対隠してる!! ケチ! 秘密主義のドS!」


「…この地平、『R-15』で、あのアーカイブを再生すると宇宙が黒に塗りつぶされることをご存じないのですか?」


「……『R-15』?」

魔王はポカンと口を開け、アリスが口にした奇妙な単語を反芻した。


「そうです。この世界層には、魂の清濁を分ける『地平』というものがあるのです。私と魔王様が数百万年前に繰り広げたあれこれを、今この解像度で再生してみなさい。……視覚情報は遮断され、因果律は崩壊し、この宇宙は『修正』という名の黒塗りに染まって終わります。それでもいいのですか?」


「おとぎ話の魔王は、無への回帰を渇望しているもんだぜ…そんな結末もあり…かな?」


アリスは深く溜息をつき、操作盤を叩いた。

「はいはい、それじゃあご不満な魔王様のために、『ムフフアーカイブ』からエルキア様とエネアウラ様の絡みを再生しますね。……ああ、そうだ。感度は……十倍にしておきましょうか」


「え……!? 十倍!? アリス……それやりすぎじゃ!? 」


「持ってくれよ! 私の身体! 十倍感度だぁぁぁ~!!」


水鏡にエルキアとエネアウラの、互いの肌を貪り合うハイライトシーンが映し出される。

共感覚リンクを通じて「十倍の快楽」を流し込まれた魔王は、秒でアへ顔となり、白目を向いて玉座に沈み込んだ。


「あふぅん…っ……アリス……そんないじわるなアリスも、好きよ……」


「それはどうも」


アリスは失神した魔王を一瞥もせず、水晶板に並ぶの数字を、淡々と調整し続けるのだった。


「はぁ、はぁ……そういえば、トロンはどうしたの? ああ見えて、あの子寂しがり屋でしょ?」


「ドワーフの鉱床で待機中です。前回の『蝕』で封印されたモンスターが結晶化しているポイントですね。あそこの再封印と監視を任せています」


「あの子で大丈夫かしら……? 不器用だから、加減を間違えてドワーフの国ごと消滅させちゃわない?」


「……平常運転ではありませんが、そうなっても誤差の範囲内ですよ」



幕間読んでいただきありがとうございます。700万年の時を生き続けて退屈していた魔王様、エルキアの感情を共感覚して夢中になっちゃっている、というエピソードでした。

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