表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ンードラロギア  作者: ああああ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/52

第三十章:忍び寄る戦争のにおい

三十章です。評価pt10いただきましてありがとうございます!頑張ってもう1エピソード作ってみました。



アルブール王国の王都へと続く白石の街道。

それは、ヤプールの北集落にあるような、土を固めただけの獣道とは根本から異なっていた。馬車の車輪が跳ねることもなく、滑るように進むその道沿いには、王国の威信を示すかのように等間隔で魔導灯が設置されている。


アルトは馬車の窓に張り付くようにして、外の景色を眺めていた。

「すごい……家が全部、石でできてる。あんなに高い塔まであるよ。オルダ、あのかがり火のようなものは何?」


「あれは魔導灯と呼ばれるものだ。中に結晶池けっしょうちが入っている。結晶池は、ドワーフが鉱床から掘り出した結晶で、その結晶にエルフがマナを封じ込めているものだ。結晶池に封じ込められたマナを使ってかがり火のような灯りにしているんだ。マナが無くなると新しいものに交換される。結晶池は灯りの他にも色々なものに使われているぞ」


「ヤプールの北集落でも結晶池使われないかなぁ、あったら便利なのにね」


(それはオルダ様がやらない。結晶池なんて使い始めると、エルフに首根っこ押さえられちまうからな、そこんとこアルトはわかってねーな)

ラッシュは心の中で毒づく。


街道沿いの宿場町を通り抜けるたび、街並みはより立派に、人々の装いはより華やかになっていく。行き交う馬車の数も増え、中には豪華な装飾を施した貴族の馬車も混じっていた。


これまで、いくつもの関所を通り抜けてきたが、その手続きは驚くほど簡素だった。オルダが窓から「行商許可証」を差し出すだけで、兵士たちは居住まいを正し、すぐさま門を開けたのだ。


「……ねぇオルダ、なんでみんな、あの紙を見ただけで通してくれるの?」

アルトの素朴な疑問に、オルダはソファでふんぞり返ったまま、酒瓶を傾ける。


「いいかアルト。あの許可証はただの紙切れじゃねぇ。商人があらかじめ国に税を納め、『私はこの国の秩序に従う者だ』と誓った証だ。これを持ってる商人を無闇に止めることは、国の経済を止めるのと同義なのさ」


オルダは窓の外、整然とした街並みに目を向けた。

「このやり方は、地方の役人や領主が勝手に通行税をくすねたり、力を持ちすぎたりするのを防ぐための策でもある。中央が正常かつ熱心に統治している間は、この政治体制はうまく回る。要するに、今のアルブール国王は、商売人にとっちゃ最高にやりやすい、素晴らしい王様ってことだ」


「賄賂とかにも厳しい国だしな。俺がこの国を拠点に選んだ理由の一つだ。ルールが公平でなきゃ、商売はただの騙し合いになっちまう」


アルトは「へぇー」と感心したように頷いた。彼にとって、国や政治といった言葉はまだ遠い存在だったが、この美しく安全な街道がその恩恵であることだけは理解できた。


だが、その平穏な空気が、王都を目前にした最後の検問所で一変した。


「止まれ! 申し訳ないが、馬車の荷を改めさせてもらう」

鋭い声。武装した兵士たちが、これまでとは明らかに違う殺気立った様子で馬車を包囲した。


「……ん? 穏やかじゃねぇな」

オルダが低く呟く。彼は行商許可証を手にしながら、ゆっくりと窓を開けた。

「何かありましたかな? これまで許可証一枚で通してもらっていたのだが」


「失礼…警戒事態宣言が発令されました。全車両、全荷物の悉皆検査しっかいけんさを行うよう命じられています」


オルダの眼光が鋭くなった。彼は懐に手を突っ込み、銀貨の詰まった袋をわざと音を立てて取り出す仕草をした。

「差し支えなければ、その宣言内容、詳しくお聞かせいただけませんか? 商売人ゆえ、情報は金の次に大事なものでして……」


しかし、目の前の兵士は、その銀貨に目もくれず首を振った。

「すみません、そういうのは結構です。職務ですので」


その拒絶に、オルダは内心で舌を巻いた。これほど清廉な兵士が末端にまで行き届いているのか。

「……イーグロ公国との外交交渉が決裂したと聞いています。おそらくは領有権の主張、そして近隣の『結晶池』の配分を巡る緊張が高まっている。周辺諸国も軍を動かし始めているようです」


「そうですか……。これは、ご親切に。感謝いたします」

オルダは銀貨を懐にしまい、兵士の目を真っ向から見据えた。


「では、荷を改める間、少々お待ちいただいても?」

「ええ、構いませ……」


オルダが答えようとしたその時、背後からアルトの無邪気な声が響いた。

「そうだ! エルキアは花について詳しいよね。ユ…」


「わあああああああ~~~~~~っ!!!!」


ラッシュが喉が裂けんばかりの絶叫を上げ、アルトの言葉を遮った。その凄まじい声に、検査官の兵士たちが一斉に剣の柄に手をかける。


「な、なんだ!? 敵襲か!?」


「あ、いや! 違います! 違うんです!」

ラッシュは滝のような汗を流しながら、必死に手を振った。

「そ、そうだよ、エルキアさんは鼻……鼻が鋭いんだよ!」


オルダも必死に今の状況を取り繕う。

「 すみません兵士さん、こいつ、ワーウルフの習性が疼いちゃって……!」


「鼻? なんのことなのラッシュ君」

不思議そうに首を傾げるエルキア。


「いや、その、知らない土地に来るとどうしても……マーキングってやつです! 縄張り主張! 野性の血が騒いで、今すぐあそこの草むらでド派手にぶちかまさないと、俺の理性が崩壊しそうなんです!でもエルキアさん鼻がするどいから遠くに行かないといけないなーって…」

(ワーウルフ族のみんな、すまん!変な誤解を世間に植え付けてしまった)


「もう……下品よ。そんなことで大声出さないで。恥ずかしいわ、ラッシュ君」

エルキアが心底軽蔑したような目を向けるが、ラッシュは構っていられなかった。


「あの……そういうことであれば、なるべく街道から離れた、人目に付かない場所でお願いしますよ……」

兵士が呆れたように道を譲る。


「はい! ありがとうございます! さあ行くぞアルト、オルダ様も!」


「え……? 僕は行かないよ?」

戸惑うアルトを、オルダが背中をポンポンと叩く


「何言ってんだ、『お花を摘みに』行くんだよ。一緒に行くぞ」


「あ、そういうことか」


三人は兵士たちの奇妙なものを見るような視線を背に、街道から離れた茂みの奥へと消えていった。


「……ふぅ、ここまで来れば聞こえねぇな」

オルダが足を止め、アルトを地面に下ろした。アルトは何が起きたのか分からず、不満げに服の埃を払っている。

「隠語のつもりだったが、まさか本当に表面上の意味でとられたりしないよな…」


「さぁ…でもああ言わなければ、アルトを引っ張ってこれませんでしたから。師匠、お見事です」


「ラッシュ、お前は適当にそこら辺の花を拾ってこい。アルト、お前に大事な話を教えなきゃならねぇ」


「いいかアルト、よく聞け」

オルダの顔が、これまでになく真剣な「教育者」のそれに変わった。


「お前はさっき、エルキアに花のことを聞こうとしたな。それも、騎士の嬢ちゃん(アンジュ)に渡す花のことを」

「うん。ユキシロハナを渡そうと思って」


「いいか。ユキシロハナを別の女……騎士の嬢ちゃんに渡すのは、絶対にダメだ」


「アルト。お前はエルキアに『ユキシロハナ』を渡したな? 守るって約束と一緒に。……あれは、お前たちにとって特別な意味を持つ花だ。違うか?」


「……うん。特別な花だよ」


「だったら、それを他の女……騎士の嬢ちゃんに渡すなんて、絶対にしちゃいけねぇ。男と女ってのはな、複雑な生き物なんだ。同じ花を騎士の嬢ちゃんに贈った瞬間、エルキアに渡したあの時の気持ちは『無かったこと』になっちまうんだ。お前が命をかけて守ると誓ったあの瞬間が、ゴミ箱行きだ。……そうなったら、エルキアはどう思う?」


アルトは言葉を失った。エルキアの微笑みが、悲しみに歪む光景を想像した。

「……すっごく、悲しむと思う。取り返しのつかないことをしちゃうところだったんだね」


「そうだ。ユキシロハナだけは、騎士の嬢ちゃんに渡しちゃダメだ。あれはエルキアのものなんだ」


「……わかった。別の花にする。でも、何がいいのかな」


「よし。代わりの花を選ぼう。実はお前のためにこれを持ち出しておいたんだ」

オルダが懐から取り出したのは、古びた『花図鑑』だった。


「え? 僕のために? ……でも、花よりお肉がいいな」


「あー! そうだったか! よし、肉は王都で一番いい店に連れてってやる。ラッシュ、花を見つかったか?」


ラッシュが周囲の藪を漁り、いくつかの花を摘んできた。

「オルダ様、これどうです? 派手な赤色ですよ」


「ボツだ。派手すぎて騎士嬢ちゃんには似合わないかな。……ん? 待て。その奥にある黒い奴……」


オルダが図鑑の一頁と、ラッシュが持っていた小さな花を照らし合わせる。

「……オディアの変異種、『黒オディア』じゃねぇか! これは珍しい。希少種中の希少種だ。アルト、これにしろ。これなら『白』と対比もつくし、格も十分だ」


「へぇー、かっこいい花だね。よし、これにするよ」


「さあ、時間がかかりすぎると逆に怪しまれる。戻るぞ」


検問所に戻ると、荷物の検査は終わっていた。


「遅くなりました。いやぁ、スッキリした顔をしてるでしょう、こいつ」

オルダがラッシュの肩を叩く。


「……そうですか。積み荷に不審な点はありませんでした。お通りください」


馬車に乗り込む間際、オルダが不意に足を止め、検査を担当した兵士を呼び止めた。


「失礼、一つよろしいかな」


「……何でしょうか」


「騎士様、お名前を伺っても? 私はこれでも多くの街を巡る商人だが、あなたのように袖の下を受け取らず、毅然とした態度で公務に励む人物には滅多にお目にかかれない。高潔な人物にお会いできて、清々しい気分になりましてね。私はオルダ商会のオルダといいます。」


「……私は騎士ではありません。中央守備隊所属、この関所の責任者代行を務めている従騎士の、ウォールと申します。」


「ウォール殿、何かお困りごとがあれば、ぜひ我が商会を訪ねてください。……それでは。祝賀会でサーガイル第三王子とアルブール国王陛下にお会いしてきますので、これにて失礼」


「は……? サーガイル王子…国王陛下…?…あなたがたは一体!?」

ウォールが絶句し、検問の記録板をポロッと落としその場で石のように固まるのを尻目に、オルダの馬車は悠然と王都の正門へと滑り出していった。


【後日談】

このウォールという男、不器用なまでの清廉潔白な性格が災いし、これまで出世街道から外れていた。しかし、オルダの目に留まったことで、サーガイル王子の耳にその名が届く。そのことがきっかけで、再評価の結果、重用されることになるということを、この時のウォールはまだ知らなかった。やがて、月の蝕における凄惨な防衛任務で、伝説的な功績を挙げて「堅守のウォール」という二つ名で呼ばれ、ヤプールの城塞主まで上り詰めることとなるのだが……それは、まだ少し先の話である。


「本当に遅かったわね。一体どこまで行っていたのかしら」

荷台で待っていたエルキアが、涼やかな顔で、しかし瞳の奥に鋭い光を宿して問い詰めてきた。


「スマンスマン、ラッシュの奴が、小さい方のつもりが大きい方までやりだしちまってな……」

「オルダ様!それは言わない約束でしょ!」


「…本当に下品ね、貴方たち。アルト、私の横に座りなさい」

エルキアはアルトからわずかに香る芳醇な『黒オディア』の香りに気が付いた。


「あ、私も『お花を摘み』にいってくるわ」

エルキアは颯爽と馬車から降りて行く。


「え?そうなんですか…?なぁんだー、下品下品って言っておいて自分もしちゃうんだ、まぁ生理現象ですから仕方がないですが」


(…よせ、ラッシュ、もうバレているんだ…)

オルダは必死に首を静かに横に振るがラッシュは気が付かない。


「何を言っているの?『本当に』花を摘んでいただけよ、あなたたちと同じよ」

一瞬で戻ってくるエルキア、用を足していないことは誰の目にも明らかだった。


(バ、バレている…!!)

ラッシュは戦慄する。


「ま、まさか、エルキアさんは……お手洗い、しないんですか?」

ラッシュの無謀な問いに、エルキアはフッと鼻で笑った。


「するわけないでしょ。あんな野蛮な行為」


「『な、何……!?』」

ラッシュと、ぬいぐるみのりっちゃんの思考が完全にシンクロした。


「え? でも、水は飲むんですよね……?」


「ええ。普通に飲んでいる程度なら、全てマナとして代謝されるわ。老廃物なんて、一滴も出ないもの」


「すごい……エルフ族ってなんて燃費がいいんだ……自然環境への配慮が神レベルだ……」


(な、なんと……! 我を生前『あいどる(現人神)』として信奉していた者たちが、血眼になって議論しておった伝説の命題……『あいどるは〇〇〇をしない』。まさか、主様こそが真なる現人神あいどるであったか!)


りっちゃんが内心で絶叫する中、エルキアはアルトの手元に目をやった。

「あら、アルト。 その花は、アンジュさんに贈るつもり?」


「あ、これ? 黒オディアっていう花なんだ。珍しいんだって。」


「……そう。この白い花はどうかしら、白と黒…キレイよね?」


「あ、白い花!うん、これはなんていう花なの?」


エルキアの微笑みが、一瞬だけ、温度を失った。

「これはシロベリーという花よ。…オルダ様、ラッシュ君。これからの対応は私がします。粗相があってはいけませんからね?」


「「……はい」」

二人の巨漢が、まるで叱られた子供のように小さくなった。


(馬鹿な男たち……。用を足してきたと言いながら、花の香りを漂わせてくれば、図鑑を広げて策を練っていたことなど見え見えだというのに。……幸い、私のユキシロハナを勝手に摘ませなかったことだけは、褒めてあげるわ)


エルキアは、アルトが大切そうに持つ黒い花と自分が渡した白い花を見つめ、心中で密かにその「意味」を反芻した。


(アルト、あなたがアンジュさんに贈る花。あなたが選んだ黒オディアの花言葉は『あなた(あなたの身体)はあくまで私のもの』、私が選んだシロベリーの花言葉は異性が渡すと『あなたの破滅を望みます』……ふふ、合わせて意訳すれば――『騎士なんてやめて、俺だけの都合の良い女になれ』という、あまりにも傲慢で独占的な求愛になるわ。アンジュさんにこれを受け止める覚悟があるかしら?)


エルキアの意図を察したりっちゃんは天を仰ぐ

(…騎士娘、お前の相手、主様は真なる『あいどる』なのだ。人の身で立ち向かうには…分が悪すぎる)


王都の巨大な城門が、重厚な音を立てて開き始めた。

その門の先には、華やかな祝賀会と、そして音もなく忍び寄る「戦争」の影が待ち受けていた。


三十章読んでいただきありがとうございます。

「アイドルは〇〇〇しない」ネタは…令和の時代でも言われているのかな…ちょっと心配になりました。

アルブール王国とイーグロ公国との緊張状態と、アンジュ、エルキアとの一波乱の予感をかけてみました。「戦争のにおい」と「花の匂い」をかけてみたかったのですが、こちらはちょっと無理がありましたね。エピソード書きたてだと後書きに書きたいことをすぐに思いつくものですね。気が付くとナレーションについて三十章までの間ほとんど出てきませんでしたね…反省です。エルキアもしくはりっちゃんにばかり説明させてました。花の名前は相変わらずのセンスの無さですみません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ