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ンードラロギア  作者: ああああ


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第二十三章:深夜の対策会議

二十三章

深夜。オルダの屋敷のリビングを支配していたのは、薪が爆ぜる音だけだった。

先ほどまでアルトの断末魔のような叫びは、二階の寝室へと消えて久しい。


「アルト、今日は私はとても悲しい想いをしました。だから今晩は私のベッドで一緒に寝るのです。これは私を困らせた罰です。」


「…え?一緒に寝るの?ちょっと恥ずかしいかも…」


「……ねぇ、ラッシュ。流石に、変だよね? 僕、もう15歳だよ?この年で一緒に寝るとか、ありえないよね!?」


腕を掴まれ連行される間際、アルトは震える手で親友の服を掴み、涙ながらに訴えていた。その姿は、屠殺場へ引かれていく子羊のようであった。だが、ラッシュはその時、アルトの背後に立つエルキアを見てしまったのだ。


彼女は慈愛に満ちた聖母の微笑みを浮かべていた。しかし、その背後には物理的な威圧感――精神を直接削り取るような「圧」が渦巻いており、彼女の瞳の奥では、高密度の魔力が幾何学模様が輝いているかのように発光していた。


『ラッシュ君……? 何か、アルトにかけてあげる言葉はあるかしら?』


氷点下の微笑みに射すくめられた瞬間、ラッシュは長年の友情と己の生存本能を秤にかけ、後者を選んだ。

「ん? あ、あぁ……実は俺も、たまに母さんと一緒に寝ることがあるぞ。……うん、普通だよな。家族団欒ってやつだろ」


「ほんとに!?明日ラッシュがお母さんと一緒に寝てるって村の人に言ってもいいんだね!?」


「あぁ、構わないぜ。俺は母さんと一緒に寝てるよ。」

(悪いな、アルト…俺はもうすぐこの村を出ていくんだ。ノーダメージなんだよ。)

ラッシュは檻の中に引きずられる親友に手を振る。


――そんなやりとりがあったのだ。


「…あれは賢明な判断だった、弟子よ。まずは自分の身を守ることが武芸者の基本だぞ」

師匠であるオルダの、思い出しながら、血を吐くような労いの言葉をかける。


ラッシュは今、リビングのテーブルで、酒を飲み干して深くため息を吐いた。向かいには、どんよりした顔のオルダ。そしてテーブルの上には、オブザーバーとして参加した一匹のウサギのぬいぐるみ――りっちゃんが、前足を組んで座っている。


「……オルダ様。そもそも、どうしてあんたがバシッと言ってくれないんですか! あなたのその威風からしてエルキアさんクラスの魔剣士でしょう!? 『そこまでだエルキア、アルトを離せ』と一喝すれば済む話じゃないですか!」


ラッシュが耐えきれず詰め寄ると、オルダは死んだ魚のような目でゆっくりと首を振った。


「馬鹿を言え。相手はあのエルキアだぞ。……いいかラッシュ、世の中には揉めてはいけない相手がいる。あの女は間違いなくそれだ。洒落にならないことに、あの女の無詠唱魔法は俺の剣の踏み込みより速い。本気で抵抗しようもんなら、俺たちの命が消し飛び、村がこの世から消える。捨て身で意識を刈り取れたとしてもお互い無事ではすまねぇ。暴走するエルキアからアルトを救う術は持ち合わせてねえんだよ」


「オルダ様がそこまで怯えるなんて……詰んでますね……」


絶望に暮れる二人の横で、りっちゃんがおもむろに動き出した。器用にペンを口に加え、インクをなじませると、紙に凄まじい筆圧で文字を書き殴り始めた。


『我も旅に連れて行って……。もう限界だ。夜な夜な主様の寝顔を眺めながら「ずっと一緒よ……」と囁く声を聞く我の身にもなれ』


涙で滲み、震えるその文字に、オルダは顔を引きつらせた。

「……気持ちは痛いほど分かる、毛玉。だがな、お前までいなくなったら、あの女の暴走を止める『重石』が完全になくなるんだ。そうなれば、アルトは文字通り物理的な檻に閉じ込められることになるだろうよ……。それよりだ、何故こんなことになった?俺の想定じゃ、子離れできない親のわがまま程度で済むはずだったんだぞ。……なぁラッシュ、旅の中で、あの女を加速させるような何かがあったのか?」


ラッシュは腕を組み、記憶の底を必死にさらった。

「近衛騎士のアンジュさんっていうのがいましてね…例の毒蛭事件です。」


「それはエルキアの報告で知っている。分断されて、アルトが彼女の毒蛭の毒を吸い出したんだろ?」


「んー…なんと言いますか、その時彼女、アルトに押し倒されたと勘違いしたんですよ」


「ほう!?それは初耳だ」

我が子の意外なワイルド(?)な一面を聞き、オルダは不謹慎にもニヤリと口角を上げた。


「それで叫び声をあげて俺も勘違いしそうになったんですが、エルキアさんがリッチを瞬殺してすっ飛んでいったんですよ。」


(あぁ…我の扱いが雑だ)


「…でも勘違いはそこで解消されたんだろ?」


「そうですね」


「じゃあ関係ないだろ…あ」

オルダが何かを思い出し、持っていた酒瓶を止めた。


「…?どうしました?オルダ様」


「実は、昨晩、その騎士の嬢ちゃんとアルトのやつ、庭でいい雰囲気だったんだよ」


「えぇ!?そうなんですか」


「おう。なんかキラキラしたネックレスをプレゼントしてたぞ。俺とサーガイル王子は物陰からワクワクしながら一部始終を見てたんだ。『あ、これ孫の誕生も近いな……』って、王子と握手したくなるくらいにはな」



「俺が落ち込んでいる間に、何やってるんだあの二人は…っていうかオルダ様もサーガイル王子も覗くとか最低っすよ」

ラッシュが呆れ果てて肩を落とすが、オルダの表情は険しくなっていく。


「まぁ、そんなわけで、騎士の嬢ちゃんに嫉妬心を燃やした可能性がある…他には?」


「……アルトが、少し成長したんですよ。エルキアを守るために、僕はもっと強くなる』って」


「……『殊勝な弟子』じゃないか。だが、それだけであそこまで狂うか? 成長を喜ぶのが保護者や師ってもんだろ」


「あと、心当たりがあるとすれば……これですかね」

ラッシュが指差したのは、リビングの飾り棚の中央に、最も大事そうに、かつ不気味なほどの神聖さを纏って飾られている淡い結晶体だった。


「アルトがエルキアさんに贈ったらしい、『ユキシロハナ』の結晶です。最近のエルキアさん、夜な夜なそれを見つめながら、ゾッとするような艶やかな笑みを浮かべてニヤニヤしてることがあって……。まぁ、ただの花の贈り物ですよ。それにしては、喜び方が異常だなって……」


「花……? 確かに珍しいが、花一輪で聖女が魔女に闇落ちするなんて――」


その瞬間、りっちゃんの全身を文字通り電撃のような戦慄が駆け抜けた。りっちゃんは(この男どもときたら…!)とでも言いたげな、怜悧で冷酷な眼差しを二人に向けた。そして、猛然とペンを走らせる。


『アルト、ユキシロハナを渡し、主様を守るために強くなると言ったのだな? 間違いないな?』

りっちゃんは書きなぐった羊皮紙を、ペンでコンコンとつつく。


「あぁ、そうみたいだよ。」

ラッシュが怪訝そうに眉を寄せると、りっちゃんは右の前足を「チッチッチ」と横に振り、さらに羊皮紙を継ぎ足して決定的な一連の流れを叩きつけた。


『愚か者共。ユキシロハナの花言葉を知らぬのか?』

『ユキシロハナ = 「俺がお前のすべてを手に入れる」「死が二人を分かつまで離さない」』

『それに「守る」という誓いが加わった。』

『主様の脳内変換:アルトが私に求婚した。一生アルトのものになると誓い、花を受け取った。』

『結論:今の主様、完成。アルト、無自覚に人生最大の求婚を完了。』


……リビングに、墓場のような静寂が訪れた。

ユキシロハナ。それはこの地方に伝わる、最も純粋で、最も重い「独占」の象徴。アルトのあの様子はその意味を知らない。アルトは「綺麗だから」「エルキアに似合うから」という、純粋無垢な善意だけで、よりにもよって執着心の塊であるエルキアに贈ってしまったのだ。


「…………それだぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


オルダとラッシュの絶叫が、夜の帳を切り裂いた。

全ての元凶は、アルトが無自覚に放った「お前の人生を俺によこせ、ずっと離さない」という告白。

それを真正面から、一滴も漏らさず受け止めたエルキアが、歓喜の極地で「一生離さない檻」を完成させてしまったのだ。


「…あ、あのガキ、なんてことをしやがった……。俺でもそんな恥ずかしいプロポーズできねえぞ……」

オルダは震える手で顔を覆い、椅子から滑り落ちそうになった。


「…自業自得だ。いや、自業自得じゃ済まされないですよ。アルトの天然、罪深すぎる…なんだかエルキアさん、ある意味、被害者なのかもと思ってしまいました」

ラッシュもまた、二階の寝室で今頃、「暴走した愛」に包まれているであろう親友の無事を祈るしかなかった。


「やれやれ…対策、か。もはや除霊の域だな、これは」

オルダがポツリと漏らした言葉は、深夜のリビングに虚しく消えていった。


二十三章読んでいただきありがとうございます。

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