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ンードラロギア  作者: ああああ


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第十八章:常識の向こう側

十八章です。

「……ということですが。まぁ、皆さんにとって少しは参考になりましたかしら? 何か質問はありますか?」


エルキアの声は、春のそよ風のように穏やかでありながら、聞き手の鼓膜には深淵の底から響く神託のように重く沈殿した。彼女の背後に展開された無数の魔導数式——空中に固定された光の幾何学模様は、宇宙の真理を無理やり可視化したかのような神々しさと、同時に理解を拒む禍々しさを放っている。それは星々が砕け散った後の残骸が、意志を持って再構築されたかのように静かに、そして冷たく明滅していた。


一同は、ただ呆然としていた。思考の歯車が、あまりにも巨大な概念の奔流に噛み合わず、火花を散らして停止している。


アンジュの瞳は焦点を失い、騎士としての規律すら忘れて呆然と立ち尽くしていた。必死に書き留めていた走り書きのメモは、もはや彼女にとって未知の言語で記された呪物のように見え、力なく指の間から地面へと滑り落ちた。 ラッシュは、野生の勘が「理解不能」という警報を鳴らし続けているせいか、剣の柄を折らんばかりに握りしめたまま、精巧な石像のように固まっている。 サーガイルは、王族として受けた最高峰の教育が、目の前の超常現象によって根底から覆される衝撃に耐えていた。整えられた髪は乱れ、威厳を置き忘れたように口を半端に開けている。


「……つまりは」


沈黙を破ったのは、震えるようなアンジュの声だった。彼女は絞り出すように、自分が理解できたはずの断片を繋ぎ合わせる。


「エルキア殿の強さの秘訣は……。マナを魔力に変換する際のロスを極限まで……いえ、物理法則を無視するレベルでゼロに近づけ、さらには、魔法の構成そのものを事象の根源から直感的に組み上げる…超感覚の持ち主であるということ、なのですね……?」


「えぇ。その通りです。なので、私は皆さんと基本的に同じです。」

あっさりきっぱりそう話すエルキア。


「それは、もはや、詠唱や陣といった『手順』を飛び越えた、神域の御業…ということなのではないでしょうか…?」


「いいえ、私は神でもなければ、ラッシュ君がよく言う化け物でもありません、普通のエルフです。練習すれば誰でもできます」

一瞬、ラッシュを睨みつけながらもにこやかに答える。


「ははは…私にもできるかな…?」


(ははは……騎士娘よ、それができれば誰も苦労しないのだ)


その傍らで、りっちゃん――リッチとしての魂を持つそのウサギの使い魔は、心の中で力なく笑った。


(常人にとっての魔法とは、水を温めたいと思ったら、人は水を温めるために火を起こし、その熱を伝える作業を行う。熱効率が悪かろうが、そうするよう教えられている。それがこの世界に生きる魔法使いだ。だが、主様は、水の分子という最小単位を直接震わせたりすると水が温まるということや、薄く広がった熱をかき集め、圧力で一箇所に押し固めて温度を跳ね上げる装置で水を温める方が効率良く水を温められるということをやってのける…つまり次元が、住む世界が違っているのだ。お前は明日から種も仕掛けもない奇術を使え、鉛から金を生み出す錬金術をやってのけろと真顔で言われたら、無理だと叫ぶだろう? 今我が突きつけられているのは、それと同じ絶望なのだぞ)


絶望のあまり耳をだらりと垂らした。りっちゃんもまた、かつては禁忌を犯してまで深淵を覗こうとした魔導の探求者だ。だからこそわかる。エルキアが語る「効率」の先にあるのは、千年の研鑽すら嘲笑う「絶対的な個」の力だ。


(そして演算や魔道具に頼らない超感覚。それは何万回、あるいは何十万回の反復、そして数世紀にわたる瞑想の果てに辿り着く「悟り」のような境地。エルフの寿命をもってしても届かぬ地平。我のこの身であればできなくもないが……無理! 飽きる! 死ぬ! いやもう死んでるけど!)


りっちゃんが生気(?)を吸い取られたようにぐったりとしていると、アルトがそっとその小さな体を抱き上げた。


「大丈夫? りっちゃん」

アルトは心配そうに眉を下げ、りっちゃんをぎゅっと抱きしめる。混じりけのない体温がりっちゃんの毛皮を通して伝わってくる。


「……あれ?もしかして、りっちゃんって、この前のウサギのアンデッドなの?」


唐突に放たれたアルトの言葉に、その場の時間が止まった。

アンジュ、ラッシュ、サーガイルの視線が激しく泳ぎ、そして一斉に「元凶」であるエルキアへと集中する。


「そうよ、アルト。よくわかったわね」


エルキアは、隠し事など微塵もなかったかのように、さも当然の顔で微笑んだ。


「貴方は感じたのね。形が変わっても、りっちゃんの霊体が同じものであることを。素晴らしい感性だわ」


「そっかー、良かったぁ。あの時、僕が魔法を使ったから死んじゃったのかと思って、ずっと心配してたんだ。りっちゃんに生まれ変わったんだね」


(っ!!)


りっちゃんは驚愕し、震えた。


(偶然ではなかったのか……この少年、やはり我が霊体の核を直感的に捉えていたというのか。末恐ろしい。……というか、貴様のあの程度の拙い魔法で、この我が滅ぼされることなど万に一つもないのだ! 無用な心配をしおって!)


エルキアは、りっちゃんの内心の動揺を読み取ったように、鋭い魔力念話を発した。


(あなたも、少しはこの子のために役に立つよう、鍛えてあげるわ。でも、固定概念に囚われて進歩しないようなら、容赦なく切り捨てるから。そのつもりで頑張りなさい?)


(主様よ! 我は、我は魔法の深淵に近づけるのであれば、如何なる苦行にも耐えてみせましょう!)


りっちゃんの中に、静かな灯のような決意が宿った。


「アルト……あー、その、すまない!」


ラッシュが、気まずそうに頭をかきながら割り込んできた。


「実は俺たちは知っていたんだ。あの化け物がりっちゃんだってわかったら、お前が怖がるかと思って……黙っててすまなかった」


「気にしなくていいよ、ラッシュ。僕のこと気遣ってくれてありがと」


アルトは相変わらずの笑顔で、もがくりっちゃんをさらに強く抱きしめる。


「そっかー。かわいい見た目になれて、本当によかったね、りっちゃん」


「ウサッ! ウサウサ!!」

(おい! ワーウルフ! 我がウサギのアンデッドではなく、リッチだと説明せんか! 王子も騎士娘も何をしておる、説明しろー!なぜ目を逸らす! 否定しろ、その憐れみの目をやめろー!)


魂の叫びは虚しくも「可愛い鳴き声」として処理され、りっちゃんはアルトの腕の中でもみくちゃにされた。


「……あのエルキアさんが言ってた『感覚を掴む修行』って、魔法を使うためだったんだなぁ。魔法が使えない俺は、なんだか遅れをとった気分だ。村に帰ったら、すぐにオルダ様に剣の稽古をつけてもらおう」


「あぁ、そのオルダさんという方は、アルト君のお父上だね。僕もぜひお会いしてみたい。各地を飛び回る商人なら、珍しい遺物の話も聞けるかもしれないしね」


「ええ、ぜひ。きっとあの人も喜びますわ。サーガイル様のような方と親交を深められることを」


ヤプールの北集落は、もう目と鼻の先だ。

久しぶりの我が家を思い、気持ちが弾むアルト。

そんな彼は気にもとめない。まさか王子を連れて帰ってくるとは夢にも思っていない村長たちが、どれほどの混乱に陥るか――。


それを予見しているのは、今はまだ、空を流れる雲だけだった。


十八章読んでいただきありがとうございます。電子レンジやヒートポンプの概念をもってきました。ヒートポンプは排熱の必要があるのでなんらかペナルティがあるというお約束を設定に入れようと思っていました。アルト発情モードに突入とか…でも発情するだけで100%以上の効率を手に入れられるなら、昨日までの世界の平和は無いのでしょうね。(エピソード一本作れそうですが…。)パワーインフレはできるだけしたくないとは考えています。

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