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ンードラロギア  作者: ああああ


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幕間:不死の王の受難 —— あるいは、うさぎのぬいぐるみ奮闘記

幕間です。リッチ視点で十六章を書いています。

「……なぜこうなった!?」


その叫びは、本来ならば大気を震わせ、脆弱な動植物の魂を凍りつかせる雄叫びとなるはずだった。

暗闇の中で意識を取り戻した我が真っ先に発したのは、千年の威厳をどこへ投げ出したのか、情けなくも裏返った叫びであった。


意識の混濁が晴れるにつれ、我が身に起きた異常事態が、冷酷な事実として脳髄を突き刺す。


視界が妙に低い。そして体が……何だ、この感触は。かつての身に着けていた魔力の鎧でも、しなやかな漆黒の法衣でもない。指先を動かそうとすれば「ふかふか」と頼りない手応えがあり、肌を撫でる風は「もこもこ」とした毛並みに遮られる。


あろうことか、古今無双の不死の王たる我が、子供が寝床で振り回し、涎で汚すような、安っぽい**「うさぎのぬいぐるみ」**の中に押し込められていたのだ。


話は、我の栄光と退屈な時代まで遡る。


生前の我は、天賦の才で若くして稀代の大魔法使いと呼ばれ、禁忌とされるあらゆる魔術を平らげ、…紆余曲折はあるが、死そのものを克服して頂点に君臨した。さらなる真理を求め、我は数多の古代遺跡を彷徨った。神の如き知恵が眠ると信じて。


しかし、そこで出会ったのは「究極の叡智」などではなく、一行も読めぬ未知の言語で綴られたクリスタルであった。一昼夜、一年、十年……。 ありとあらゆる星読みの儀式を試み、意識を加速させて幾千の仮説を立てても、その文字は無慈悲に躍るばかりで、我の知性を一歩も中へ入れようとはしなかった。


理解できぬものがある。それは、知を司る者にとって、死よりも残酷な拷問に等しい。知識欲を満たせぬまま、無為に流れる不死の時間。それこそが、我にとって唯一の、そして最大の苦痛であった。


「……飽きた。もう寝る。我が理解できぬ世界など、滅びているのと同義だ」


我は深い眠りにつくことで、永劫の退屈から逃れる道を選んだのである。数百年か、あるいは数千年か。世界が変わり、あのクリスタルを読み解く「鍵」が生まれるその日まで。


だが、その平穏は最悪の形で破られた。


眠りを妨げる、暴力的なまでの魔力の増幅を感じたのは、つい先日のことだ。我を「災厄」と見なし、滅ぼさんとする者が現れたのだ。


……いや、訂正しよう。あの方を「滅ぼさんとする者」などと呼ぶのは、もはや天に唾するに等しい。あの方は、反撃する隙すら与えず、不死者である我に対して**「苔の一片程度まで、生かさず殺さず」**という、精密かつ絶妙な一撃を放ったのだ。


消滅させるよりも遥かに困難な、「死を許さない暴力」。それはまさに神業であり、我が数千年をかけても到達できぬほど、圧倒的で理不尽な悪夢であった。


次に意識を繋ぎ止めたとき、我を待っていたのは慈悲でも封印でもなく、冷徹な命令であった。


「咬ませ犬になりなさい」


耳を疑った。この不死の王に、格下の引き立て役になれだと? 当然、我は激昂し、魂のすべてを賭して拒絶しようとした。


しかし、あの方は淡々と、塵を払うような手つきで告げたのだ。


「言うことを聞かないなら、消滅しない程度に、半永久的に苦痛を与え続ける。」


不死者に対して「死ねない苦痛」を盾にするなど、正気の沙汰ではない。どんな外道だ。脅しの質がひどすぎる。我に拒絶という選択肢など、最初から存在しなかったのだ。


そして、我の仮の依り代として選ばれたのが……。


立派な魔導人形でもなければ、鮮度の良い人の死体でもなかった。


「……これは何だ?」


意識が覚醒し、真っ先に目に飛び込んできたのは、あの方の白く細い指先に摘み上げられた「何か」であった。 茶褐色に変色し、所々に齧り取られたような痕跡がある、歪な形の骨。魔力の残滓ざんしすら感じられぬ、ただのカルシウムの塊。


「夕食の残骸の、野ウサギの骨よ」


あの方は、まるで道端に落ちている石ころについて語るような無頓着さで言い放った。 我は、数百年ぶりに「思考停止」という名の贅沢を味わった。


(…………)


我は、数百年ぶりに思考停止という贅沢を味わった。


待て。 咬ませ犬(役柄)になれと言われたはずだ。 ならば、せめて相応の依り代があるべきではないか。 古の勇者のむくろや、禁忌の術式で練り上げられたホムンクルス、あるいは名工が一生を捧げて造り上げた魔導人形。 それらを用意し、我が魂を宿らせるのが、このレベルの魔術師(あの方)にとっての「作法」というものではないのか。


「あ、あれ? 咬ませ犬になれと言われたのに、ウサギの骨に入れるのですか? 犬じゃないですよね? これ」

言いたいことは山ほどあったが、それを全て殺し尽くす、せめてもの気づきになればと質問を投げかけてみる。


震える声で問う我に対し、あの方は面倒そうに鼻を鳴らした。

「四足歩行という点では大差ないわ。それに、これなら魔力伝導率を計算しなくて済むから楽なの」


楽…。

その一言で、数千年の歴史を持つ不死の王の魂の行き先が決まった。


そして、その後に押し寄せたのは感情が爆発したのである。


「扱いが雑すぎるだろぉぉぉぉ!!!」


我の霊体を、食べ残しの骨に宿らせるなど前代未聞。魂の尊厳という概念は、あの御仁の辞書には存在せぬらしい。


思い返せば、先日の戦闘も屈辱の極み……いや、今思えば奇妙な一戦であった。


あの方に命じられるまま、我は戦いの場へと駆り出された。 相手は、アルトと呼ばれる少年、血気盛んなワーウルフ、そして女騎士。


正直、鼻で笑うどころか、あくびが出るような相手だ。 確かに彼らは、人としては練度が高い。連携も取れている。 だが、今の我はあの方にマナの九割九分を奪われ、ウサギの骨という物理的デバフのの塊のような姿だとはいえ、本質は不死の王である。 視線を向けるだけで魂を砕くことなど造作もない。


……だが、我はあの瞬間、確かに脊髄を凍るような何かが走り抜けるのを感じた。


あの少年、あろうことか無詠唱で魔法を放ちおったのだ。


まぁ、幾百年の研鑽を積んだこの我とて、無詠唱魔法くらい出せないことはない…出せる。しかし、それは術式を極限まで圧縮し、何千、何万という経験と勘で補う高度な技術だ。


だが、あの少年の放った術は違った。威力こそお世辞にも大したことはなかったが、その「精度」が異常極まっていた。


我の霊体の深淵、複雑に編み込まれた魔力回路のわずかな隙間を縫い、最も脆弱な「芯」の部分へ、寸分の狂いもなく確実に命中させおったのだ。


「……化け物じみた演算能力を持っているのか!? あるいは、霊体の核を直感で捉えているのか……?」


あの土壇場で、初対面の我の術式構造を瞬時に解読したとでもいうのか。あの方との約束があったが故、我はこれ幸いと盛大に「やられたフリ」をして退散したが、もし本気でやり合っていたらと思うと、ぬいぐるみの中の骨が震える。


結局、その戦いの後、我の魂は見た目が悪い理由から野ウサギの骨を核にして、適当な布地に詰め込まれ——この「うさぎのぬいぐるみ」が完成したというわけだ。


あの方の脅しは本気だ。この先、我はこの柔らかく頼りない体で、あの方に死ぬまで(死ねぬが)こき使われるのだろう。


「神よ……これが、貴方の法を破り、死を超越した私に対する罰なのでしょうか…?」


満天の星空を見上げながら、我は独りごちた。 かつては星の動きを読み、天災を予言した。今は、ボタンの目越しに、夜露の冷たさを布地越しに感じるばかりだ。


「……とりあえず、この短い手足を自在に操る練習からだ。……くっ、屈辱だ! だが、あの少年の観察だけは続けてやるとしよう。ふんっ、耳が邪魔だなこれ!」


パタパタと情けなく動く耳を恨めしく思いながら、不死の王の新しい、そしてあまりに屈辱的な日常が幕を開けた。


幕間読んでいただきありがとうございます。

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