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ンードラロギア  作者: ああああ


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第十六章:ウサギの皮を被った不死の王

十六章です。

ヤプール北集落への帰路は、行きの高揚感とは打って変わり、重苦しい沈黙と、時折響く「アルトの悲鳴」に支配されていた。


一行が折り返し地点を過ぎた頃、ラッシュは馬車の御者台から、後方で繰り広げられる「地獄」を盗み見ては、背筋に冷たいものを走らせていた。アルトがエルキアを守ると宣言して以来、エルキアによる修行指導は、もはや「練兵」などという生ぬるい言葉では形容できない領域に達していた。


「アルト、今の身のこなしは何? 0.1秒遅いわ。死にたいの?」


「はぁ、はぁ……母さん、でも今のは……!」


「言い訳は聞きません。さあ、次は重力魔法下でのスクワット1000回。終わるまで水は一滴もあげないわよ。あなたの筋肉が悲鳴を上げている? 結構なことじゃない、生きてる証拠よ」


エルキアの瞳には、慈愛と狂気が等分に混ざり合っていた。


(エルキアさん、飛ばしてるなぁ…大丈夫かあいつ……? シゴキが急に厳しくなったが、潰れてしまわないか? いや、そのエルキアさん自身も最近おかしい、夜な夜な結晶化した花束を抱えて、ニヤついてるし、この『親子』マジで理解の範疇を超えてるぜ……!)


ユキシロハナがもたらした「熱」――すなわち、エルキアの中にある「アルトを最強の守護者に育て上げねばならない」という偏執的な使命感を知る由もないラッシュが震えていると、背後から音もなく現れたエルキアに肩を叩かれた。


「ラッシュ君。少しお話が」


「ひぃっ!? ……あ、エルキアさん、なんすか?」


「今日は、『絶対に』アルトを守らないでくださいね。いいですね?」


「……は、はい?」


「あの子に真の自信をつけさせるための、大切な実戦を私が『用意』しましたから。邪魔をしたら……わかっていますね?」

その声は、深海の底から響くような冷たさを孕んでいた。彼女の手が肩に乗っているだけなのに、ラッシュはまるで巨大な氷塊を背負わされたような錯覚に陥る。


「り、了解っす! 命に代えても手出ししませんっす!」


ラッシュは引きつった笑顔で敬礼した。本能が告げていた。今のエルキアに逆らうことは、世界の終焉を早めることと同義だと。


しばらくして、修行を終えたアルトが足をふらつかせながら戻ってきた。その表情は疲弊しきっているが、どこか一点を見つめる瞳には強い意志が宿っている。


「……ふぅ。ラッシュさん、モンスターの気配はありますか?」

辺りを警戒していたアンジュも戻ってくる。


「いや……それが不気味なほど何にもねえんだ。獣の影すら見当たらねえ。まるで、何かに…『誰かさん』に怯えて森全体が息を潜めてるというのがピッタリだな」


今日も一日が平和に終わろうとしている。思えば旅の道中はモンスターどころか、獣の影すら見当たらない。不気味な感覚を覚えるラッシュ。


そんな裏側の不穏な緊張を知る由もないアンジュとサーガイルは、焚き火の傍で穏やかに今回の調査を振り返っていた。


「本当に……色々とありましたが、実りある調査になってよかったですね、殿下」


「あぁ、まったくだ。月の蝕の情報(ほんとは神話級の遺物)、そして何より、数年も苦楽を共にしたようなこの絆。これが一番の収穫だよ。またこのメンバーで旅をしたいものだ」


サーガイルは上機嫌で手帳を走らせていた。彼にとって、この旅は最高の冒険譚のプロローグに過ぎない。


「まぁ旅は良いですが、お風呂が恋しくなります…ラッシュ殿、あまり近づかないでください」

アンジュはラッシュの嗅覚を警戒して恥じらいをみせる。


「そうだねぇ、旅先でお風呂に入れたら最高だね…ラッシュ君!君もそう思うだろう!?」

サーガイルは多感な少年に何かを期待するまなざしを向ける。


「あー、はいはい。そうっすねー。」

騎士様や最恐エルフ様を相手に命知らずなことができるかと肩をすくめるラッシュ。


だが、その平穏は突如として破られた。


「……ッ、全員構えろ! この『匂い』……何か来るぞ!」

ラッシュが野生の勘で牙を剥く。アンジュが剣を構え、サーガイルが身を隠そうとする。暗い茂みの奥から、カサカサと小刻みに、しかし正確なリズムを刻んで現れたのは――。


「……野ウサギ?」


それは、肉の一片もついていない、真っ白な**野ウサギの全身骨格アンデッド**だった。


「アンデッド? ……って、おい! あの時の晩飯の残りじゃねえか!」

ラッシュが、石碑の上で焼かれた野ウサギの成れの果てだと指をさして叫ぶ。しかし、そのウサギの骨はただの亡骸ではなかった。


「晩飯になったお礼参りってか!?冗談きついぜ!」

ラッシュが鼻で笑いながら間合いを詰めようとした、その瞬間。


『今日は、『絶対に』アルトを守らないでくださいね。いいですね?』

エルキアの言葉が脳裏に浮かび、ラッシュは急停止する。


眼窩に不気味な蒼い燐光を宿したソレが、前脚を優雅に振るった瞬間、大気が震えた。


「――!? 魔法障壁だと!?」


ウサギの骨が、あろうことか上位術師級の重力魔法を放ったのだ。アルトは、その不可視の圧力に木の葉のように弾き飛ばされ、地面に叩きつけられる。


「なんでウサギのアンデッドが魔法なんて! エルキア殿! 魔法で応戦してください!」

アンジュが悲鳴を上げる。


しかし、そこにいつもの無敵のエルキアはいなかった。

「ああ、なんてこと。 この魔物の力、強すぎて、私では……、 あぁ、アルト」

不自然なほど大袈裟に、エルキアが膝をついた。


「アルト、助けてー」

震える指先で息子を呼ぶ「か弱い母親」を演じる女がいた。

その場にいる誰もが(お前ならデコピン一発で粉砕できるだろ)と突っ込みたかったが、彼女の視線に射すくめられ、沈黙せざるを得なかった。


「母さん! 今助ける!!」

必死なのは、何も知らない純粋なアルトだけだった。アルトは押し潰されそうな重力の中、歯を食いしばって立ち上がる。守ると誓ったエルキアのピンチという極限状態の中、無我夢中でウサギのアンデッドと対峙する。


「アルト! 今こそ魔法の禁を解きます。あなたの内なる魔力で、あの…『骨』へ魔法を叩き込みなさい!」


エルキアの号令。アルトは右手を突き出した。

「――いっけぇぇぇぇぇ!!」


その瞬間、彼から放たれた紫の魔力が奔流となってウサギに魔法が直撃する。


――ドォォン!


凄まじい衝撃波と共に、アンデッドの骨は粉々に粉砕……されるかと思いきや、不自然に吹っ飛んでなぜか絶妙な加減で動かなくなった。


「やったわ、アルト! ついに魔力を完全にコントロールしたのね! あんな強大な魔物を一撃で無力化するなんて、お母さん鼻が高いわ!」

エルキアは息子の成長を見て興奮気味に喜んでいる。さっそうと立ち上がり、アルトを抱きしめた。


「あれ?さっき苦しんでいたけど大丈夫なの?怪我はない!?」


「ええ、無事よ。ありがとうアルト。貴方は私の、最高の騎士よ」


「母さんを守りたいって気持ちで魔力を込めたら、魔法が使えたよ!母さんが無事で本当に...よかっ―」

アルトも自分の右手に驚きながら、純粋に歓喜する。だが、不慣れな魔法行使で全力を出し切ったアルトは、そのまま糸が切れたように泥のような眠りについてしまった。


アルトに駆け寄るラッシュとアンジュ。すぐにただ眠っただけだとわかり、ほっと胸を撫でおろす。


「おおお! 素晴らしい! さすがはアルト君、あの『リッチ』を一人で討伐されるとは! 今日という日は良い記念日になることだろう」

サーガイルが、派手に口を滑らせ、手帳を広げて叫んだ。


「……リッチ? 殿下、今なんとおっしゃいました?」

埃まみれで口の中に砂利が入った様子のアンジュが這い上がり、サーガイルに詰め寄る。ラッシュもまた、半端ではない形相で迫った。


「サーガイル様…エルキアさん…後でゆっくり説明してもらおうか。あのウサギ、中身はダンジョンにいた『アンデッドの王』だったんじゃねえのか?」

ラッシュはアルトを馬車に運び込み、ズカズカと戻ってくる。


「エルキアさん、ネタは上がっているんだ。アルトも眠ったことだし、正直に話をしてください」


観念したように、エルキアが淡々とタネ明かしを始めた。

「ええ。あの日、アルトに『とどめを刺すことができるように手伝う』と話をしたでしょう? だから、苔ほどのマナになるまで刻んで弱らせたリッチを、逃げないようにウサギの骨に縛り付けておいたのよ」


「リッチを、本当に息子の教材にするためにウサギの骨に詰めて持ち歩いていたって言うんですか……!?」

アンジュは戦慄した。伝説の大災厄を「お弁当に残り物を入れておこう」感覚でパッキングするその執念。


「だって、経験は実戦を乗り越えないと身につかないでしょう? ああして『敵に勝った』という成功体験を植え付けることで、アルトの自己肯定感は爆上がりするわ。当然の教育的配慮よ」


「教育的配慮でリッチをウサギの骨に詰める奴がいるかよ!!」 ラッシュのツッコミが木霊する。


「それで、そのリッチ……どうするつもりです? まさか、骨にしたまま持ち歩く気じゃ……」」

アンジュが恐る恐る尋ねる。


エルキアはニコリと微笑み、手縫いしたという妙にリアルな「野ウサギのぬいぐるみ」を取り出した。


「ほら。中身をこの中に詰め直せば、可愛くて安全でしょう?元は人種だから物分かりもいいのよ、この子」エルキアが手際よくリッチの魂(霊体)をぬいぐるみに封印すると、それは不気味にモゾモゾと動き出し、力なく首を傾げた。


「「見た目の問題じゃねえぇぇーーー!!」」


二人の絶叫が、静かな夜の森に虚しく響き渡った。

こうして、考古学調査隊に「中身は不死の王、見た目はファンシーなぬいぐるみ」というあまりにも不吉でシュールな新メンバーが強制加入させられたのである。


十六章読んでいただきありがとうございます。エピソード事にボリュームを平均化させる作業ってすごく難しいですね。まだストックあります。題名でネタバレするの嫌なんで基本題名適当です。今回ネタバレしてますが。

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