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9/9

決別

間が空いてすみませんm(_ _)m

決して萎えたとかではなく、ただ単にレポート課題で忙しかっただけです。

回廊の反対側からセリーナが歩いて来た。


特捜部だけが着用することを許された煌びやかな軍服コート、それを羽織っている。


()()が配給されるにはあまりに早すぎる。まだ異動辞令すら出ていないはず。あくまで異動辞令を出すことを特捜部と約束しただけだ。


マティルダがひと足先に調達していたのか?そして俺との交渉が終わると即渡したとか?見かけによらずおてんばだな。


そんな希望的観測に過ぎない推論を立てた。その間にもセリーナとの距離はどんどん縮まっている。


セリーナはまだこちらに気が付いていない様子だった。


否、セリーナは前を見ていた。いや向いているだけとでも言っておこうか。視線はどこか遠くに向けられていた。考え事でもしているのだろうか。


二人分の足音が規則正しく石床を打つ。コツ...コツ...と乾いた響きが回廊に反響した。


胸の奥が妙にざわついた。


セリーナは見たこともない表情をしていた。恐ろしいほど美しく、恐ろしいほど冷たい。


その瞳には確固たる意思が宿っている。それぐらいは見ればわかった。しかしその意思が何なのかは全くわからない。


距離がさらに縮まる。あと五歩。


四歩。


三歩。


すれ違う瞬間、軍服の裾がわずかに(ひるがえ)った。金糸の刺繍がきらりと光る。


しかしセリーナは俺を見ていなかった。俺のことなど眼中になかった。最後まで気が付かずにすれ違った。


数歩進んだところで俺は振り返る。だがセリーナは足を止めない。

見慣れたはずの後ろ姿が急に重々しく、そして遠く感じた。


「おい」


声が思ったより低く出た。


セリーナの歩みが止まる。ゆっくりと振り向いたセリーナの目がわずかに見開かれた。そしてすぐに表情を変える。セリーナはいつもの溌剌(はつらつ)とした笑顔を浮かべた。


それが全てだった。今までの共に働いた時間が崩れていく音がした。


「気づいてなかったのか?」


皮肉めいた言葉が喉の奥から勝手に滑り出る。


「いやーすいません課長。考え事してて」


「……それ、もう支給されたのか?」


軍服コートを指差し聞く。いいか俺、できるだけ平静を装え、いつも通りだいつも通り。


セリーナは一拍置いてから答えた。


「マティルダからひと足先にもらったんです。いいでしょ?」


「マティルダね....随分と馴れ馴れしいな」


俺は苦笑した。これはマティルダへの苦笑ではない。自分への苦笑だ。


なぜ俺は情報課内の特捜員の容疑者からセリーナを外したんだろう?


「そんな訳ない」という先入観を抱いていたのだろうか。だとしたら笑い物だな。まんまとセリーナの演、技、に引っ掛かっているではないか。


これを聞いたらもう今までのような関係ではいられなくなるだろう。もう二度といつも見たいな言い合いはできなくなるだろう。それでも俺は聞かずには居られなかった。


「アメリアを殺したのはお前か?」


セリーナの目がわずかに揺れる。


「なぜ殺した?殺さなくても良かっただろ‼︎」


セリーナは答えない。先程までの笑顔は消え、無表情のまま俺をジィっと観察している。


「今までのは全て演技だったのか?一緒に働いて、言い合って、しょうもないことで笑って、果てには魔族も倒して......」


全部演技だったのか?


セリーナは小さく息を吸い、言い放つ。


「話はそれだけ?」


「.............」


そう言われてしまえば、もうこれ以上何を言えばいいのかわからなかった。


セリーナは俺に背を向ける。


「さようなら課長。楽しかったですよ、本当に」


「もうお前の課長じゃない」


「そうですね」


セリーナは歩き出した。そして一度も振り返ることなく回廊の角に消えた。


「ごめんなさい課ちょ....カミル。でもこれは必要なことなの...........私の......."復讐"のために」


消え入るような小さな声は誰にも聞こえることなく捜査局の喧騒にかき消された。



対魔族魔導捜査局本部の一角、特務捜査部の部長室。そこにカミルと決別した私はいた。


正面には役職が書かれた三角錐の置かれた木造りの机に革張りの椅子。もちろん座っているのはマティルダである。


部屋の中央には低い机とソファーがあり、いかにも役員室といった感じだ。


壁際には本棚が設けられ業務報告書ファイルや多種多様な本が並んでいる。その中に『ラク〜な魔族のぶっ殺し方☆』や『Sの方々のための──拷問のすゝめ』といった本が並んでいるのは見なかったことにしよう。


「珍しいですね。あの金魚の糞がいないだなんて」


「金魚の糞て、あんた......そりゃあいつにもあいつ自身の仕事があるからな」


マティルダは積み上がった報告書に目を通しながら答えた。


「それで?マティルダ部長殿のお望み通り肩書きフリーになって特捜部に舞い戻って参りましたが」


「そうね、まずはおかえり。そして任務ご苦労」


マティルダが書類から視線を上げ、こちらを見て言った。


ようやく目が合う。まだ一度も目があっていないかったから不機嫌なのかと思っていたがそんな事はないようだ。


「新しい任務は何ですか?」


「任務の前にまずあなたは配属変えをしてもらうわ」


特務捜査部は局内唯一の部である。そしてその中には8つの課を持つ。そしてそれぞれに与えられた役割ある。


今までいた七課は国家機関内への諜報活動を行い、内通者を排除したり、特捜部に回ってこない情報をゲットしたり、であった。


配属変えはまぁいい。ただ気掛かりなのが新配属先である。どうか暇で安全でグダグダできるところでありますよぉにぃぃぃーー。


マティルダはそんな心の叫びを見透かしたようにニコリと笑う。あ、これやばいやつだ。


「あなたの新しい配属先は.......一課よ」


最悪だ。特捜部の一課から四課。それは魔王国アウリスへの潜入任務を遂行する課である。そして最も危険で最も殉職率の高いところでもある。


「あなたの任務は追って通達するわ。特務捜査部一課所属、セリーナ・シャルトル」

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