特捜コンビ&孤独の情報課長
時間遅くなりました!
「で?特務捜査部長が情報課に何のようだ?」
「まぁまぁ。そう気負わないでくれよ、カミル」
「おやおや、初対面でいきなりファーストネームとは、失礼な人だなぁ、マティルダは」
もはや目に見えそうな程火花が散っているこの状況。どうしてこうなったかって言うと別に大した事はない。
つい先ほど、特捜部長を名乗るマティルダ・ヴァルディという女が訪ねてきたのだ。捜査局の制服に軍服コートを羽織り、官帽はかぶっていない。
特捜部だけが着用することを許された煌びやかな軍服コート。いわば特捜部員である象徴のような軍服コートを見せびらかすように羽織り、それでいて官帽はかぶっていない。他部署を訪ねる際は敬意の証として官帽は被っておくものだろう。喧嘩でも売ってんのか?
その点、付き添いの男は好感が持てる。きっちり結んだネクタイに官帽、軍服コートはなし。今はマティルダをなだめている。副部長という話だったが、もはや子守りのようだ。
「単刀直入に言うが....セリーナ・シャルトルをよこせ」
「は?」
「先日のリュイネル戦、たまたま近くにいましてね、拝見させていただいたんです。あ....紹介が遅れました。わたくし、オーヴェール子爵家の三男のアルノと申します」
言葉足らずのマティルダをアルノが補足した。いやでも〇〇家〇男っての言う必要あった?貴族アピールか?それなら俺、伯爵家の出だし、次男だし。こういう奴に限って裏では性格悪いんだよ
「あ?てめぇ殺すぞ」
ほら。
「まぁまぁ落ち着けアルノ」
もう何なのこいつら?今度はマティルダがなだめてるよ。
「とにかくセリーナ・シャルトルが欲しい。彼女の魔法には可能性を感じるからな。今の実力でも十分戦場で生き残っていけるだろう」
嘘だ。最前線、魔王国アウリスとの国境地帯の戦線は何度か見た事がある。業務柄、解析したこともある。将来は知らんがあの程度で気絶しているようじゃ到底今の実力では無理だ。
「私は嘘は言ってないぞ。"今の実力"で十分だ」
マティルダが含みのある笑みを浮かべて言った。
「何が言いたい?」
「別に〜。それより情報漏洩の件、聞いたわよ」
「お陰でこっちは始末書だよ。近いうちに憲兵の連中も来るっていうし」
まったく誰だよ、アメリア殺した奴。アメリア生きてれば全部喋らせて終わりだったのに。
「それいついてはごめんなさいね。彼女に始末するよう指示出したの私なので」
アルノが嫌味たらしく言ってきた。さっきの相当根に持ってるな。あとこれが一番重要な気がするするが、何言ってんのお前?
「感謝しなさい。アメリア嬢が内通者だと気付いたのは特捜なんだから」
「さっきから何を言っている?」
声を低くして聞いた。空気が一段と張り詰める。
「対魔族魔導捜査局とはいわば防諜、保安機関よ。そして対魔族魔導遊撃隊は国境警備隊兼軍よ。このヴァルスティア帝国には対魔王国専門の軍隊と防諜機関が揃っている。」
何が言いたいんだ?
「ねぇ知ってる?この国には諜報機関だけがないのよ。もちろん遊撃隊も諜報活動は行っているけれどかなり限定的よ。そんな組織レベルでの諜報活動を一手に引き負ふのが我々、特務捜査部なの」
だからなんだ?どんな理由があってセリーナを渡さなければいけない?なおさらそんな危険な所に部下を送り込むわけないだろう。これでも半年は仕事を共にしたんだ。
「情報課はどう?情報と付いてはいるものの、あなた達の仕事はあくまで既に集まっている情報の解析。規模も予算も、権力も!情報課と特捜部ではレベルが違う。わかったらさっさとセリーナを寄越せ」
「そうは言っても人手不足でな...」
一応反論を試みてみた。セリーナに一応姿勢を見せろとか何とか言ったしな。
「ん〜、人手不足と言うならせめて精査する情報を厳選したらどう?解析する情報のほとんどは事実無根の市民からのタレコミなんだから。それにこっちだって人手不足なのよ」
残念ながらこれ以上反論できない。お手上げだ。
マティルダとアルノは勝ち誇った顔で情報課を後にした。特捜部へ帰る廊下でアルノが聞く。
「結構威圧的にいきましたね。めずらしい」
「まぁたまにはね。それより彼女の新配属先、君の部署にしたいだなんて、どういう風の吹き回し?」
「好奇心ですよ」
「好奇心?」
「数年前のド・ラ・シャルトル公爵一家惨殺事件を覚えていますか?」
「もちろん。かなり衝撃的な事件だったしね。警備の厳しい貴族邸で、しかも貴族の最高位である公爵家が皆殺しにされるなんて。しかも発覚したのは翌朝、運送業者が発見したのが最初。とても魔族の仕業とは思えない。ま、実際に犯人は魔族で今も逃走中って事になってるけどね」
「あの事件では娘の一人の遺体が見つかっていないそうです」
「それが?」
「苗字が同じです。素性は全て上が隠蔽していて不明だが偶然とは思えません。それにこの事件はどうもきな臭い」
「正解」
「え?」
「だから正解だって、君の推理。見た目は貴族、中身は荒くれ者、名探偵アルノだな」
「知ってたんですか、彼女のこと」
途端にアルノは不機嫌になった。荒くれ者という言葉が気に食わなかったのか。
「まぁセリーナに体術とか諜報の手法とか、魔法以外を教えたのは私だからね」
「魔法以外?」
「セリーナがどこで魔法をあそこまで扱えるようになったのか、どうして特級魔法を何種類も使えるのかは何も知らないわ」
「そうですか...........で?官帽はどうしたんですか?」
「.............捨てた」
「チッ」
「え?おまっ!今舌打ちしたよな!!!!」
結局OKしちゃったよ、セリーナの人事異動。本人なんて伝えればいいんだ。
書き立てホヤホヤの始末書を持って捜査局の回廊を歩く。
隣にある日の差した中庭は俺の心とはまるで真逆だ。
そうえばアルノは「彼女に始末するよう指示出したの私なので」と言っていた。彼女をではなく彼女にだ。言い間違いでなければ、アメリアを殺したのはアルノに指示を受けた特捜部の女だと考えられる。
それに奴らは情報課の業務の詳細まで把握していた。どうやって?
特捜部の仕事は諜報。それは魔王国に対するものだと思っていいだろう。
だがもし諜報の対象が捜査局内の他部署まで及んでいたら?
それならば納得がいく。それに魔王国から防諜するという意味ではその諜報も合理的だ。
つまり情報課内に特捜の諜報員がいた?
情報課の女性局員は4人。そのうちアメリアは内通者、もう一人はセリーナだから除外、すると選択肢は2人だ。
待ってろよ。探してやる。情報課課長の観察眼を舐めるなよ。
と思ったのだがその答えはすぐに分かった。
否、分かってしまった。
回廊の反対側からセリーナが歩いてきた。
捜査局の制服に官帽を被り、軍服コートを羽織って。
そう、特捜部だけが着用することを許された煌びやかな軍服コート、だ。
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