裏切り者
「あれ、どうしました?こんな時間に」
「忘れ物をしたの。すぐ戻るわ」
捜査局本部の守衛を通過した。私服なら身分証を出して捜査局員であることを証明する必要があったが制服を着ていれば問題ない。身分証を出す必要がなく、名前を覚えられることなく侵入できるからだ。
そのまま情報課に向かう。迷う事はない。何度も通った道だからだ。
「情報課室に向かうのもこれで最後か」
約半年の間身を置いた情報課。その扉を前にして一度深呼吸する。
ここからは潜入でも魔法戦でもない。
暗殺だ。
情報課の扉を開くとそこは見慣れた風景、机がずらりと並びそれぞれの机の上に書類が散乱していた。
ふと一番奥の机で人影が動く。そこは課長の席にいるはずのない人物がいた。
「こんな時間に何をしているの?」
「まぁ!!驚きましたわ。貴方こそ一体何をしにいらして?」
ようやく私の存在に気付いたらしい。かなり慌てているな。
「まぁちょっとね。それより知ってる?なんと最近、捜査局の機密情報が外部に流れているらしいんだけど」
「まあ、そのようなことが。わたくし、存じ上げませんでしたわ」
女は口元に手を当て大げさに驚く。どうやらどこまでもしらを切るらしい。
「それより貴方、貧血で倒れていらしたではありませんか。もうお加減はよろしくて?」
「あぁ、あれね。あれはねー演技だよ」
「は?どういうこ…」
「情報を魔族に流していたの、あんたでしょ。アメリア・ド・ラ・テンブライ」
刹那、アメリアの顔が驚愕と焦りに満ちる。
「い.....一体何を言ってるの!!そんなわけないでしょ!!ふざけるのも大概にしてよね!!あ!まさか昼間の魔族討伐で調子乗っちゃったぁ?勘違いもはなはだしい、このどブスが!!!!!!」
「あれれのれ、本性が出ちゃってますよ。ド・ラ・テンブライ侯爵令嬢ぉ?」
そう、何を隠そうこの女は昼間のガスパール即応課課長の妹なのだ。と言っても養子らしいが。昔、普段は隠しているこの激しい口調をふとした拍子に社交界で出してしまったらしい。それ以来、貴族界で干されてしまった彼女はツテを辿り情報課にきたとか。まったく心が広いなカミルは。
「私は悪くない!!!そうよ私は悪くないのよ!!」
魔族なんぞに味方しといてこの態度だ。もはや呆れる。
「焼け落ちぬもの+反転魔法!!!」
おっとここで反抗精神を立ち上げてくるとは予想外だ。確か彼女の魔法は炎によっておった怪我を治癒するもの。凄いのはどんなレベルの怪我だろうが炎の影響でさえあればその効果が発揮できること。だからこそ炎系統の魔法を操るド・ラ・テンブライ侯爵家に拾われた。あそこの家は代々、攻撃系の炎系統魔法しか操れなかったからな。
その反転とはしかり、如何程のものかと思ったが大した事は無かった。せいぜい全身が火傷したみたいに痛むことぐらいだ。いや、普通の人間だったなら痛みもがき、その場にうずくまるだろう。
しかし私は痛みなどそんなものどうでもいい。
一瞬で距離を縮め背後に回るとアメリアの耳元で囁く。
「そんなものでどうにかなると思った?私は今、イラついてるのよ。ブスって言われたからね」
イラついてるのは流石に嘘だ。そのぐらいでいちいち腹立っていたらしょうがない。でもまぁどブスって言われていい気持ちはしないのでいいだろう。
そのまま後ろからアメリアを羽交い締めにすると。頸動脈にナイフを当てた。それでもアメリアは叫び続ける。
「う」
う?
「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさあぁぁぁい!!!!!!!!!」
そもそも令嬢がこの激務の捜査局に来る事自体、最初から無理があったのだろう。貴族の男子が捜査局や遊撃隊などの国家機関で働くことは珍しくもないが令嬢が働くのは珍しい。相当戦闘センスのある令嬢が遊撃隊の方に在籍している事が稀にあるくらいだ。まぁ私が言えた話でもないが。
「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇ!!!!!!!!!!!!!!!!」
まったく、うるさいこの上ない。もうさっさと殺そうかな。
「そもそも全部貴族が悪いのよ!!」
おっとここに来て貴族批判か?自分を拾ったのも貴族のはずなのに恩知らずだなぁ。
「わたしは何も養子にしてなんて頼んだこと無かった!!!
「私ははだずっとのんびり幸せに暮らしたかっただけなのに!
「勝手に才能があるとか言って
「属性が同じだけで似たもの同士だとか言って!
「あんたらは自分達が持ってないものを補填したかっただけでしょ!!!
「それとも何?平民を養子にして自己満足?何様よ!!
「他の奴らも!平民出身だからってバカにして
「虐めて
「それでいて何?私がキレたら私が悪いの?
「どいつもこいつも私がおかしいみたいに言いやがって
「貴族なんてみんな死ねばいいのに!!
「魔族に殺されてしまえ!!
「こんな国さっさっと魔王国に呑まれちまえ!!」
なるほど、相当貴族に対する鬱憤が溜まってたらしい。彼女の境遇を考えるとうっかり同情してしまいそうだ。
「そんえばあんたもよね?セリーナ・シャルトル!!!いえ、セリーナ・ド・ラ・シャルトル!!!!あんたら家族は全員ざまぁよ!!!」
は?なにを言っているんだこいつは。
貴族への恨みは許容できる。国が滅べばいいもまだいい。
だが最後のはなんだ?
何を知ってそれを言う?それだけは許せない。絶対に許さない。許してやるものか。
腹の奥から何かがフツフツと煮上がってきた。それは、憎悪だ。忘れることの出来ない憎悪。絶対に。絶対に忘れることのない憎しみ。
アメリアの首元にナイフを押し付ける手が自然と強くなる。アメリアの首にナイフがくい込み、血がツゥーっと伝った。
ようやく静かになったアメリアに語りかける。
「ねぇあなたは何を知ってるのかしら?私の家族の何を知っていそれを言うのかしら?」
「し…知らない、知りませんでした。許してください、ごめんなさ…」
恐怖に震え謝り出す彼女の言葉を遮って続けた。
「ねぇ。あなたは…私の家族、殺した人、知ってる?」
ゆっくりと聞くと私は彼女が答える前に彼女の首を落とした。
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