後始末は大変だ!(主に言い合いで)
今回はゆるーっと行きます。
我が名はカミル・ド・サン=クレール、カミルと呼んでくれ。っつってももう知ってるか、俺の名前なんて。
ん?なんで俺が語ってるかって?
そりゃぁあれよ、ほら、セリーナの野郎が倒れちまったからさ。いいか、これからするのはセリーナがぶっ倒れた後の後片始末の話だ。そこまで重い話じゃないし、まぁ気負わずに読んでくれ。
「ダメだなこりゃ。完全に伸びてやがる」
俺はセリーナの頬を軽く叩いてそう言った。
「こんだけ多くの血液を出したんです。おそらく貧血でしょう」
「無茶しやがって」
「どうします?無理にでも起こしますか?」
「起こすのは可哀想だろう。こいつは俺たちの救世主様だからな。ここの検証が終わったら下宿先まで届けてやろう」
そう言って俺は辺りを見回した。
魔族という生き物は死んだら死体は残らない。綺麗さっぱり灰になって消える。それはリュイネルも例外ではなかった。
というかセリーナの野郎が奮発してミートボールにしてしまったので、そこから灰になって消えるまでは一瞬だった。残ったのは血と瓦礫とだ。
ばら撒かれた血は少しづつ固形化していっている。それでもまだ辺りには鉄の匂いが立ち込めていた。
セリーナがリュイネルを倒してすぐ「ネームド探しは諦めた。見つけ出すのはもうムリムリ」とか言って即応課がやってきた。奴らは情報課が魔族を討伐したことに戸惑いながら事後処理を始めた。
今更だ。
てか舐めんなよ。俺たちだったやればできるんだぞ。セリーナがいなかったら死んでた気もするがそれは気のせいだとして.............
ていうか本当に今更すぎんだよ。もっと早く来いクソどもが。
「なんか言ったか?」
いつの間にか旧友が背後に立っていた。
「いえなんでもありません!ガスパール様マジ最高!!感謝感謝!このご恩は一生忘れません!まじさんきゅー!!!」
即応課長ガスパール。ド・ラ・テンブライ侯爵家の長男で時期当主である男。同じ貴族とだけあって幼い頃からの知り合いだ。どっかの晩餐会で出会い、今では数少ない気心の知れた友となっている。
本来わざわざ戦闘後の後片付けの現場には出てはこない即応課トップが出てきたとは珍しい。自分たちのせいで戦闘力ゴミカスの情報課が出撃せざるえなかった事に罪悪感を抱いているのだろうか。
「いやそんなものは微塵も抱いていないが?」
抱いていなかったらしい。
「お前がわざわざ出撃したと聞いて立ち寄ってみただけだ」
「あーそうですかそりゃご苦労さんで」
「というかお前、自ら志願して魔族に対応したって聞いたぞ」
「それはまぁあれだ、根も葉も土も水もない変な噂って奴だ」
気分が良かったからついでに人助けもしちゃおうなんて軽いノリで手をあげたなんて事実は伏せておこう。それがいい、うん、この秘密は墓場まで持っていこう。
「いやそれ墓場まで持ってくタイプの秘密じゃないだろ。お前の秘密軽っ」
「軽いとか言うなよ。俺の人生哲学は“思いついたら手を挙げろ”だ」
「それ哲学じゃなくて衝動だろ」
「衝動こそが人を救うんだよ。主に俺の承認欲求を、な」
「お前の承認欲求の被害者がこの辺一帯なんだが?」
そう言ってガスパールは瓦礫の山を指差した。確かに即応課をはじめとした他の課が対応すればもっと被害は少なく済んだかも知れない。
「見ろよ、この惨状。現状復帰にどれだけ人手が要ると思ってる」
「ん?5人くらい?」
「屋台の片付けじゃないんだぞ」
「じゃあ500人?」
「増え方が適当すぎる」
俺たちの会話をよそに即応課の連中は黙々と後始末を進めていた。一人がこちらをチラ見してすぐ視線を逸らす。多分聞いちゃいけない会話だと察したんだろう。賢い。本部配属の課長同士の話がこんななんて最重要機密である。
でもまぁここの後片付けは瓦礫撤去も含めて数日はかかるだろう。時間も人手もそれなりに必要な作業であることは間違いな。
「……情報課が魔族討伐とは…報告書が地獄だな」
ガスパールは溜息をついてこめかみを押さえた。
「盛っとけ盛っとけ。“奇跡的連携”とか“想定外の覚醒”とか」
「お前が言うと全部嘘臭い」
「失礼だな、半分は本当だぞ」
「残り半分は?」
「ノリ」
「ふざけんな」
その瞬間、用箋鋏を持った即応課員がやってきた。
「課長、現場検証終了しました」
「ああ、じゃあ瓦礫撤去班に加勢してやれ」
「了解です。……あの、今回の功労者の方ですよね?」
俺を見てそういった。
「功労者?」
俺はガスパールを見た。
ガスパールは即応課員を見た。そして静かに首を横に振る。
「ただの厄介な知り合いだ」
「おい」
「とびきり厄介な、な」
「フォローになってねぇんだよ!」
女性即応課員はその言い合いを見てそそくさと逃げていった。
「まぁ今回の功労者はこいつだけどな」
俺は地面に転がっているセリーナを指差す。
「で、その功労者様はどうした?」
ガスパールは足元に転がるセリーナを見下ろした。
「見ての通りさ。血を出しすぎて強制お昼寝中」
「特級魔術の術者か」
先ほど受け取った用箋鋏を見ながらガスパールはそう言った。検証でそこまでわかるのか。驚きだ。
「本来なら対魔族魔導遊撃隊にいるレベルの人材だぞ」
「特捜部にも一応いるよなぁ」とガスネールは続けて呟いた。
「遊撃隊は嫌なんだとさ」
「何で?」
「『前線いやだ』以上」
「本人が一番面倒くさがりなタイプだな」
「類は友を呼ぶって言うだろ?」
「自分で言ってて悲しくないの?」
瓦礫の向こうで誰かが転んだ音がした。ガスパールは空を仰ぐ。
「……今日は長くなりそうだ」
「大丈夫だって。俺、後片付け得意だから」
「何をしたことがある」
「宴会の後とか」
「帰れ」
俺はその後、一度情報課の隊員を集めた。
そして全員の顔を見渡してこう言った。
「全員、今日は流れ解散で」…と。
「カミル。この女どうすんの?」
「呼び捨てすんなよ」
即座に睨みを利かせてから、俺はセリーナの方を見た。
「まぁそうだな、誰かこいつの下宿先、知ってるやついる?」
誰もいないらしい。まったく秘密主義な奴だ。俺は課長という職柄上把握はしているが.......
「ったく、じゃあ俺が送ってく。お前らは明日からまた仕事だ。早く帰って寝ろよー」
「了解でーす!」と俺の部下は言い、わいわいと帰っていった。解散の速さだけは一流だな、まったく。
そう言うと俺は「よっこらせ」とセリーナを担いだ。荷物のような持ち方だが許してくれよな。
「……重くはないな」
誰へともなく呟きつつ、俺は歩き出した。
セリーナの下宿先に着くと俺は宿主に事情を説明し部屋に案内してもらった。簡素な部屋だ。ベッドと机しかない。俺はセリーナをベッドの上に置くと薄っぺらい布団をかけてやった。
「お前には明日、丸一日休みをやる。ゆっくり休めよ」
って聞いてないか。
「もう行くの?」
廊下で待機していた宿主が部屋から出てきた俺を見て声をかけてきた。
「ああ、用件は済んだからな」
そのまま俺は宿主と雑談を交えながらセリーナの部屋をあとにした。
「それにしても…まさかあの子が捜査局員だったなんて」
どうやら宿主はセリーナが捜査局勤務だと知らなかったらしい。かなり驚いていた。
「驚くに決まってるでしょ。あの子、仕事の話なんてほとんどしないし……」
宿主は苦笑しながらも、どこか親しみのこもった視線をセリーナの部屋の扉へ向けた。話を聞く限りかなり仲は良いらしい。だが身の上をセリーナが話した事は一切なかったようだ。どこまでも秘密主義な女だ。
あぁ、後これは後から知った話なんだが。俺が部屋から出た次の瞬間、セリーナは目を開いていたらしい。
次回投稿は土日を挟んで月曜日です。
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