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血と瓦礫と

「で?なにこの有様?魔族騒動があるからと来てみれば.......................応戦してるのはまさか情報課の連中?」


ぽっかりと空いた街の中心部から少し離れた建物の上、二人の人影が情報課とリュイネルの戦いを見ていた。


「そうえば情報課にはあの子がいたわね」


捜査局の制服に軍服コートを羽織った女が口を開いた。


その時だった。空高くに多数の赤黒い槍が出現する。


「あれは.........特級魔術っ!」


同じく制服を着、律儀に官帽まで被った女の部下と思しき男が驚いた。


「やっぱりいたわねセリーナ・シャルトル。..............とりあえず様子見よ」


「ゆっくり観戦といこうじゃない」と言うと女はその場に座った。その口元は緩んでいる。


「こんなとこであぐらかいて…みっともないですよ」


「私は庶民の出なんだ。許してくれ」


女がそう言うと男は諦めたように溜め息を吐き、遠くの戦いを見た。


「なるほど、槍を空中高くから無限に撃ち続けると同時に自身も動き続ける事で迫り来る血痕に意識が向かないようにした。やりますねあの女。魔族に隙ができた」


「ええ」と女が上の空で返事をした。


「でも甘い。瓦礫のリュイネル相手では通用しない」


男がそう言うと同時にリュイネルの周りに防壁が構築され一気に構成が逆転した。


「リュイネルはネームド程はいかないが二つ名が付く位は強い。奴の魔法は物質操作。ただし、対象は瓦礫に限られます。奴の怪力と魔法によって作られたあそこは今、完全に奴のフィールドです。このままじゃ勝ち目はありません。介入した方がいいのでは?」


「人様の戦いに口を出すのは野暮じゃなぁい?」


「そんなこと言ってる場合じゃなさそうですけど...」


「大丈夫よ」と女が男の言葉をバッサリと切り捨てた。


「あそこが奴のフィールドだとしても問題ない。だってセリーナは()()だもの」


「あの女がですか?そうは見えませんが......一体何者です?」


「あら、副部長なのに知らないの?自分の部下ぐらい把握なさい。彼女はうちの子よ」


「な............しかし現に彼女は魔術操作技術含め実力不足のように見えます!」


「演じてるのよ。まったく太々しいと言うかなんというか、特級魔術というカードを切ってもなお最大限自分を弱く見せようとしている」


「本気になればあの程度、瞬殺できるだろうに」と女は呟いた。




マジでやばい。


咄嗟に初撃を防護結界で防ぐ。課長お手製ではなく、ごく一般的な防護魔術だったので一発で亀裂が入った。


とにかく思考する。


焦っているのか、考えれば考えるほど泥沼に陥る。まるで頭の中が渦巻いているようだ。............................なんてことはない。こんな状況でもまだ冷静に考えている自分がいる。


舐めプしすぎたな。


そろそろ本気を出すか.......なんてこともまたなく、先ほどよりは上の、けれども確実に本気ではない戦い方を心がける。そしてそれがあたかも本気の、精一杯の実力に見えるように努力する。


先ほど作った左手の切り傷を地面に向けた。


「主権剥奪、我が血の戦場(マイフィールド)


途端に切り傷から溢れんばかりの血が溢れ出した。身体中から血液を絞り出されているかのような感覚に襲われる。血を操る魔術(ヘモグラヴィティ)の能力の一つである血液生成を発動するが新たに作られる血より出ていく血の方が圧倒的に多い。かなり重度の貧血に襲われた。


段々と意識が遠のいて行く。


足元の瓦礫の上に溢れた血液はとんでもない速さであたり一面に広がっていった。やがて地面は血で固められる。リュイネルはかなりひどく混乱している様子だ。瓦礫を操れないらしい。


そらそうだ。瓦礫の主導権を奪ったのだから。


視界が揺れた。


こりゃ倒れたな私。みっともないなぁ私。


魔法を無効化したとしても相手は魔族。決着がついたわけではないのにもう目も開けてられないぐらいだ。


最後に広がっている血液からリュイネルの近くにあるところだけを動かす。


動いた血液はそのままリュイネルにまとわりついた。リュイネルは見えなくなりただのリュイネルの姿形をした赤い像ができる。


そのまま像を縮める。中のものを圧縮するように。感覚としては手のひら一杯の雪を雪玉にするためにギューと固めているイメージだ。


所々からリュイネルの血が霧のように噴き出した。やがてリュイネル(それ)は頭一つ分程の大きさの球体になった。


それが私の記憶に残っている最後の光景だった。


私は目を瞑った。


血と瓦礫に塗れた大地を残して。




「まさか....... あそこまで大規模に血を操れるとは」


少し離れた建物の上から見ていた男が口を開いた。


「行くわよ」と横に座っていた女は言い、立つ。


「いいんですか?めちゃくちゃになってるし、今からでも応援に行った方が」


「良いの。戦いは終わった。あと片付けなんて知ったこっちゃないわ」


女は戦場に背を向け歩き出した。軍服コートが風に靡く。


「そうですか...........全く関係ないですが、そうえば官帽どうしました?」


男が追従しながら問う。


「ほんとに関係ないわね。空気読みなさいよ」


「どうしたの?」


子供をあやすようにに男がもう一度聞く。


「....捨てた」


「どこに?」


「さっき通った繁華街で」


「はぁ、後で拾わないと」


男が吐いた哀れなため息吐いた。それと同時に女が呟く。


「そろそろ戻ってもらいましょ、特捜に」


男のため息と女の呟きは風に乗り流れていく。




血と瓦礫の戦場に。

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