入れ替わり
氷の姫と太陽の王子が入れ替わるお話です。
私はリバー王国の王女、アクア。
水に恵まれた、豊かな国に生まれました。
陶器の様な白い肌に流れる水のような淡い水色の髪と瞳を持ち、
天使のような容姿だと称されることもあります。
けれど感情を表に出すことが少ないせいで、
人々からは「氷の姫」と呼ばれています。
ちなみに、私には婚約者がいます。
隣国シー王国のモーガン王子。
吸い込まれるように深い海を思わせる、青い髪と瞳。
そして太陽のように眩しい笑顔を、いつも周囲に振りまいている人です。
そのおかげで人々からは「太陽の王子」と呼ばれています。
今日は、月に一度だけ王子が会いに来る日。
庭園でお茶をしながら、言葉を交わす――それが決まりでした。
けれど、私はいつも思ってしまうのです。
何を話せばいいのだろう、と。
会話は途切れがちで、沈黙ばかりが流れていきます。
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「アクア王女、本日もお招きいただきありがとうございます。
今日もとても美しいですね」
そう言って微笑むモーガン王子。
その眩しさに、私は小さくうなずくだけでした。
(いつも無表情で、何を考えているのかわからないな……)
彼がそう思っていることを、私はまだ知りません。
⸻
「庭園の中央には、王家に伝わる泉があるのです。
よろしければ、お散歩がてら見に行きませんか?」
「よろこんで」
王子は迷いなく私の隣に立ち、自然な仕草で歩調を合わせてくれます。
――さすが、王子様ですね。
⸻
「自慢されるだけあって、とても綺麗な泉ですね」
月明かりに照らされた水面は、静かに揺れていました。
その時。
足元が、ふっと崩れたのです。
「――っ」
私が足を滑らせた瞬間、
モーガン王子が咄嗟に手を伸ばしてくれました。
けれど――
間に合わず。
⸻
―――ドボンッ!!
大きな水音とともに、
二人の身体は泉の中へと落ちていきました。
ゆっくりと、目を開く。
「モーガン王子、大丈夫ですか……?」
声を出した瞬間、違和感に気づいた。
これは、自分の声ではない。
目の前の水面に映っているのは、深い青の髪と瞳。
――婚約者の顔。
視線を下げると、見慣れない大きな手。
自分よりもずっと長い指が、かすかに震えている。
(……え? 入れ替わってる?)
⸻
「……アクア王女、大丈夫ですか?」
「......」
こちらも声を出した瞬間、自分の声じゃないことに気づいた。
視線を下げると白い肌に折れそうなほど細い腕。
自分のものより、ずっと小さな手。
嫌な予感がして、
ゆっくりと顔を上げる。
そこにあったのは――
自分自身の顔だった。
「……」
「……冗談、だろ」
王子(姫)は、言葉を失い青ざめる。
姫(王子)は、震える声で呟いた。
互いに見つめ合い、同時に理解した。
――入れ替わっている。




