輪廻の覚悟を背負って
テンポが早すぎる気がしてきたけど、もう止められん。このまま突っ切る!
ラミナによる「自分の力は分かっていないが国の未来を背負う覚悟はある」宣言により、玉座の間はどよめきにつつまれていた。ラミナに向けられる目線、そのほとんどが困惑や警戒など、決して向けられて居心地の良い視線では無い。
この場にいる者の役職なんてものは当然全く分からないが、上に立つ者であるということは理解しているので、ここでの印象づけが大切だと考えていたのだが…
(なんか…全然受け入れられてなくね…?)
段々と不安と焦りにじわじわ襲われている中、やがてゼノンがどよめきを制した。王が片手をあげるだけで、嘘のようにピタッと声が止まるのだ。
玉座の間には、次に静寂が訪れた。レイナは心配そうな表情でラミナを見つめている。セイナは王を真っ直ぐと見ていた。
ゼノンは何も言わない。ラミナをただ、色のない目で捉え続ける。あの男は今何を考えているのか、とてもじゃないが想像すらできなかった。
(どうする…何か言った方がいいのか…? いや、変に余計なことを喋ってしまったら…)
国に大きな恩恵を与えているのなら、それだけで十分な働きをしている。リグムスも、国としての立場が強くなるとか言っていたし…ならこの空気はなんだ? 召喚者は皆にとって救世主みたいな存在なんじゃ無かったのか? それだけじゃ足りないというのか?
静寂の中、自分の心臓の音だけが聞こえていたとき…
不意にもう一つの音が参戦してきた。
「──よろしいでしょうか、陛下 」
許可を得るよりも早く、ラミナへ視線を向ける。
そこひは一人の老人がいた。見るからに地位の高そうな服装に、鋭い目つきと長い白ひげを持った人物が、ラミナへ問いかける。
「私は『セドリック=ヴァルハイム』。王国の宰相を務めております。この国に仕えて約三十年。王国の栄光、そして影…そのすべてを、私は知っているつもりでございます」
その声は静かで穏やかだが、どこか鋭さも混じったようなものだった。
「召喚者様の覚悟のお言葉、じっくり聞かせていただきました。力は把握できておらず、しかし国の未来は背負うというその覚悟の気持ちを…」
一歩近づいてくる。足音が、玉座の間によく響く。
「それは大変素晴らしい決意であり、同時に無謀ともいえる決意でもある。これはもしもの話ではありますが…」
閉じ、そしてゆっくりと開けた目でラミナを鋭く見つめた。
「もしラミナ様の力が、この国を破滅へと導くものであった場合──
その時、ラミナ様は一体どうするおつもりですか?」
玉座の間には再び静寂が訪れる。宰相の目線を真っ直ぐに受け止めたラミナは、すぐには口を開けなかった。
怖い
救世主として降臨してきた召喚者、だがその正体は少し前まで普通の学生として生きていた一人の少年だ。いくら異世界ファンタジーが好きだからと言っても、いきなり国の未来を背負わされるというのは非常に過酷なものだろう。逃げ道は既に塞がれている。
それでも、考えに考えた末に答えを出した。
「……もし…そんな力だったら…まず、自分で止める方法を探す。自分の力で国が滅びたら、"知らなかった"では済まされないから」
慎重に言葉を選びながら声を発する
「自分から逃げるつもりはない。なんで俺が選ばれたのかは分からないけど…でもここに来た以上、選択からは逃げられない。責任を負う覚悟があるかって聞かれたら…完璧に背負える自信はない」
「それでも」と、言葉を続けた
「国の未来を背負う覚悟も、間違えたらすぐ修正して良い方向に持っていく覚悟も、自分を知る覚悟も全部ある! それが…今の俺にできる、精一杯の答えだ」
沈黙が落ち、やがて───
宰相の表情が、わずかに和らいだ。
「…なるほど」
それはたったの一言であったが、その声色はとても穏やかなものだった。
宰相の一言をきっかけに、張り詰めていた空気が揺れ始める。
「…本気か…?」
「ふん、理想論にすぎんな。覚悟だけでは国を救えぬ」
「力の正体も分からぬものに、そこまで任せられるものか」
低く、否定的な囁きが広まる。その一方で、別の方向からは違う声もあがった。
「いや、逃げないと明言した。責任を負うと言い切ったのだぞ」
「少なくとも、己を神格化してはいない」
視線が交錯し、玉座の間には見えない亀裂が走る。議論は次第に熱を帯び、抑えた声が重なり合う。
期待と恐れ
希望と疑念
すべてがラミナを中心に渦を巻いていた。そして──
その議論を断ち切るように、玉座の上から重い声が落ちた。
「──静まれ」
王はゆっくりと立ち上がり、周囲を見渡す。
「疑念があるのは当然だ。力も理解できていない者に未来を任せるなど、愚策と思う者もいよう」
視線は、次にラミナへと向けられた
「だが我は今、この場で覚悟を見た。完壁な答えではない。英雄のような確信もない。それでも逃げず、責任から目を背けぬ意思があった」
一拍置き、言葉を選ぶように続ける
「国というのは、常に不安定な選択の上で成り立つものだ。ならば我は、恐れだけで選択を切り捨てる王にはならぬ」
ゼノンはハッキリと宣言した
「異界の召喚者よ。我は汝を支配下には置かぬ。
汝を──この国の"協力者"として迎え入れる」
もう何度目か分からないざわめきが再び起こる。次に言葉を繋いだのは、宰相のセドリックだった。
「皆、よく聞け。王は召喚者様を対等な立場で迎え入れるとここに明言したのだ。英雄としてではなく、協力者として。我々は召喚者という存在を、神格化しすぎていたのではないですかな? 重い期待というものは、簡単に人を壊してしまう。神としてではなく、一人の人間として迎え入れると、王は言っておられるのです」
その声は静かで、だがたしかに玉座の間へ響き渡った。
それは、ラミナがアルヴェルギア王国へ正式に迎え入れられた瞬間だった。レイナは安堵の表情を浮かべ…
セイナは表情一つ動かさず、ただそこにいた。
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王都の中央には、王冠広場──『クラウン・スクエア』と呼ばれる場所が存在する。ここでは即位式などの公式行事が行われる場所で、日々活気に満ち溢れている。
ラミナは今そこに立ち尽くしていた。あのゼノンとの初対面から数時間後、「正式な儀式を執り行う」と言われ連れてこられたのだ。それはつまり、ラミナという召喚者の存在を国民に伝えるということ。心臓が高鳴るのを感じながら周りを見渡す。
石造りの大広場を埋め尽くす人、人、人。視界が人でいっぱいになっている。たまに目の前をよく分からない鳥のようなものが横切っていく。今はすっかり暗くなっている時間だというのに、王の呼びかけならすぐ人は集まるのだ。
何が始まるのか分からないまま集められたらしい国民たちは、ざわめきをたてながら壇上を見上げていた。
やがて王、ゼノンが前に出る。
「──民よ、静まれ」
その一声で、大広場は嘘のように静まった。
「我が国は、一つの選択をした。それは未来にとって祝福となるか、試練となり立ちはだかるかは、まだ分からぬ」
ゼノンは一度ラミナの方を振り返り、そして民へと視線を戻す。
「──異界より、人が来た」
大広場にどよめきが走る
「神話や伝承の話をしているのではない。今、この場に立つ一人の人間の話だ。皆も、召喚者の話はよく知っているだろうが」
そのとき、一人の子供が声を上げた。
「知ってる! 加護?みたいなやつをつよくするんだよね!」
「コラッ、騒がないの…も、申し訳ありません。ウチの子が…」
子を叱る母親を目にしながら、やはり召喚者の存在は広く知れ渡っているのだと改めて実感した。あんな小さな子供でも知っているなんて。
ゼノンは気にする素振りも見せずに話を続ける。
「この者はラミナ。召喚者であり、双子の月の加護を強める力をもつ者だ」
ざわめきは一気に大きくなる。玉座の間でのざわめきとは違い、遠慮のない声が届いてくる。
「え…あれが…? 本当なのか…?」
「バカ、王がそう言ってるならそうなんだろ」
「でも完全に子供じゃないか…綺麗な見た目ではあるけど」
足が少しだけ震えた。数えきれないほどの視線が一気に集まってきた。
その中で、宰相が一歩前に出た。
「これより行うのは、支配の儀でもなく、束縛の契約でもありません。王と召喚者が、互いを対等な協力者と認めた証──"誓約の儀"です」
そのとき、壇上が青白く輝き出した。よく見ると、そこにも何かの模様が刻まれていて、玉座の間へと続く門にも似たようなものがあったなと思い出す。
──これ、今から何が始まるんだ? と考えを巡らせたとき
なにか温かいものが、全身から全身へと流れていくような感覚を覚えた。血液ではない、他のなにか。
そしてすぐ理解した。これは…まさに自分の中にある
"魔力"なのだと。
「これが…」
言葉を続ける前に、周囲の空気が変わった。風が流れ、上空には紋章のようなものが浮かび、広場全体を包むように加護の力が強まっていく。
つまりラミナの加護の力は、さっきまで本調子ではなかったらしい。何らかの形で儀式を行うことで、本来の力が発動される…と解釈した。
空気が澄んでいき、呼吸が楽になる。集められた人々もそれを感じ取ったらしく、驚きの表情をあげる人も多かった。
人々の戸惑いの中に、ゼノンが告げた。
「民よ。この者は神ではない。万能の英雄でもない。だが、我らと同じく悩み、選び、責任を負う者だ。この国は、彼と共に歩む」
長い沈黙のうち──
一人、また一人と膝をついていった。それは祈りでも、畏怖でもない。彼らはたしかに知ったのだ。この国の未来に、新しい存在が加わったことを。
そのときラミナは、その重みをはじめて、はっきりと実感していた。
空には蒼く輝く月が、ラミナを見下ろしていた。
儀式やらかたっくるしいシーンが多いですが、次からはラフめになると思うます




