ご対面の時
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レイナに王との初対面の予定を報告されてから一時間。本当に今すぐに会ってもらう、という訳では無かった。ラミナの部屋、もとい聖域には三人。ラミナとレイナ、そして幼き研究者のリグムスもまだいた。
「リグムス。別にあなたまで残る必要は無いのですよ? まだ研究途中のものが残っているのですよね? ラミナ様のお側にいるのは補佐官の私だけで十分ですので、あなたは早く研究室に戻りなさい」
「そんな! 僕も残ります。王都の研究者たるもの、召喚者様を目の前にして、足早に帰るというのはありえないんです!」
早口気味で口論(?)をするレイナとリグムス。このやり取りも三回目くらいである。その間ラミナはというと、聖域の中にある備品を色々と見ていた。単純に気になるというのが半分、二人のやり取りに飽きたというのが半分。
ラミナが今見ているのは寝台の近くにあるクローゼットのようなもの。中にはいかにも高貴なローブなどが入っていた。下着も無駄に光っている物があったりして、これに関しては選んだ人のセンスを疑わざるをえない。
「どれもこれも金かかってそうだなぁ…まさか寝る時もこんなかんじの服を着るのか?」
「まさか。ラミナ様にはふっかふかの羊毛で作られたものが用意されるハズですよ」
いつの間にかレイナを置いてラミナの隣に立ち、顔を覗き込んでくるリグムスの顔が視界に映った。
ふかふかで高級なパジャマ、日本にも一時期流行っていたものがあったな、なんて考えているラミナにリグムスはふと思い出したかのように質問をしてきた。
「ラミナ様はこの後、王様と会うんでしたよね」
「ああうん。王様とか対面とか結構緊張するんだけど、召喚者らしく堂々といこうと思ってる!」
力こぶを作り(作れてない)、堂々と言い張るラミナの言葉にリグムスが、そしてレイナまでも目を輝かせた。レイナに関しては完璧な拍手を送ってくれている。本当にこの短時間でキャラが変わったなと思う。
「素晴らしい意気込みですラミナ様。召喚者補佐官という任に就けたこと、このレイナ改めて光栄に存じます」
「いやそんなに!? 結構強がってる部分もあったんだけど…悪い気はしないな、うん」
「そうですよラミナ様! この自信も、やっぱ本人の能力値の高さに比例してるのかな…早く研究がしたい!」
コイツは尊敬とかで目を輝かせていた訳ではなかったようだ。というかリグムスも、最初のあの底の知れないマッドサイエンティストの雰囲気が綺麗に消え去っている気がする。
そんなことよりも、今リグムスの言った『能力値』という単語に何故か興味を引かれたので聞いてみることに。
「リグムス、今お前が言ってたー…」
「あ、研究の話ですか? ラミナ様が献身的に協力してくれると言うのなら、これほど嬉しいことは…」
「いや、その一個前。『能力値』ってのが妙に気になっちゃって」
「ああ…よし、そしたらリグムス講座その二を始めましょうか!」
またもやホワイトボードを引っ張りだし、教授のような佇まいに。このボードはどこから持ってきてるんだろう。
「『能力値』とは、『身体能力、魔力、精神力、魔法適性』など、個人が持つあらゆる資質を統合し、算出した値のことです。この数値は、戦闘力、魔法行使の可否、職能の適正を判断する要素として広く用いられているのです」
つまり能力値というのは、自分がどれほどの存在なのかを知るために欠かせないものということ。当然高ければ高いほど得するって訳か。となると自分の能力値も気になってくるのが普通の流れで…
「それって、今頼めばすぐ値を出してくれたりするのか?」
「いえ、能力値は特別な魔道具を使って計測するものなので…ですが、大体の魔力量なら出すことができますよ」
魔力! やっぱり異世界転生といったら魔力だし、そして魔力といったら魔法だ。この世界に召喚されてからひそかに楽しみにしていたことの一つ、それが魔法を使うこと。きっととんでもない魔法が使えるに違いない。だって召喚者様だから!
「おお! じゃあ試しに俺の魔力をー」
ガチャっ
「測ってみてくれ」と言いかけた瞬間、部屋のドアが開いた。そこにいたのはレイナの姉、セイナだった。
「お姉様。今まで一体どこで何を…」
「別にどうでもいいだろそんなの。それよりラミナ様、時間だぜ。ウチの王とのご対面のな」
ドクンと心臓が大きく鳴るのが聞こえる。
この国の、『アルヴェルギア王国』の王様との初対面。かなり緊張しているのか、心臓がバクバクなり始めた。これじゃ堂々といけるのか大分怪しいところではあるが…
「…分かりました。では参りましょう、ラミナ様。玉座までご案内いたします」
レイナは音もなく立ち上がり、扉の前まで移動した。その声や所作は、どこか緊張を帯びているような気がした。
それに合わせて、リグムスは部屋の外へ出た。流石に玉座まで着いてくるわけにはいかないのだろう。
「じゃあまた後で、ラミナ様。王様との話が終わったら…ぜひ、僕の部屋へ」
スタスタとリグムスが歩いていく音が段々と遠ざかっていった。
「ま、そんな緊張すんなよラミナ様。王様は楽しい人だぜ。きっとすぐ仲良くなれるって」
「そ、そうか? ううん…」
緊張をほぐすために言ってくれているのか、それとも本気でそう思っているのか分からないまま、前を歩く二人の後をついていった。
(…リグムスの部屋、結構気になるな…)
そんなことを考えながら。
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…うわぁ、デカイ。急に『デカイ』なんて言ってどうしたラミナ? とか思うかもしれないが、これは目の前に立ちはだかる扉…いや、門を見ての感想だ。
レイナとセイナにご案内され始めてから数分歩き続け、ようやくたどり着いたのだが…
「召喚者、ラミナ様がご到着されました」
たったの一言と同時に、目の前の門が青白く光始めた。幾何学的な模様を浮かべている。きっとこれは魔法で、門の中にいる誰かが発動したものなんだ。これも直感だけど。
もっと長ったらしい言葉と共に入るものだと思っていたが、意外とシンプルな報告なんだ。
そしてほぼ音もたてずに門が開かれていく。目を閉じていたら、開いてるのか閉じてるのか分からないくらい静かだ。
目の前にはこれまたすごい光景が広がっていた。天井には派手で豪華な照明、壁や床は鏡の代わりにできそうなくらい磨かれていた。向かって左側には、大きな窓が『三つ』あった。
そしてこの部屋の最奥、玉座に座っている一人の男を見つけた。あれが…この国の王ーー
ーー『ゼノン=ド=アルヴェルギア』
レイナとセイナは何も言わない。ただラミナを王の前へ連れていくために、ただ歩き続けていた。その静寂がラミナの緊張をより一層強くさせていた。
気づくと、既に目の前にその男はいた。
「…ご苦労、召喚者補佐官よ」
「はっ」
「はっ」
王の声に、二人は声を揃えて応える。腹に響くような声だ。ラミナは改めて、ゼノンの顔をよく見た。
転生前、ラミナはよく小説を(主に異世界ファンタジー系)を読んでいた。そこで『ガラス玉のような目』みたいな表現をよく目にしていたのだが、この男の、ゼノンの目がまさにそれだった。
光は無く、目が合っているハズなのにどこか遠くを見ているようだ。見つめるだけで不安になるような、そんな目。
「あれが召喚者のラミナ…」
「なんと美しい…!」
周りにいる人達が何かザワついているが、今はそれどころじゃない。今からこの男と、一体何を話す? 頭の中はそれでいっぱいだ。何か丁寧な挨拶でもした方がいいのだろうか。もう既に堂々といけてはいない。
ラミナが口を開く前に、ゼノンが先に会話を始めた。
「異界の英雄よ、まずは礼を述べよう。我はアルヴェルギア王国を治める者、ゼノン。貴殿を命ずるつもりはない。我らは対等な立場で、この国の行く末を語ろう」
え
『この国の行く末を』……開口一発目の言葉はラミナにとって意外なものだった。完全に偏見ではあるが、もっと無茶な命令でもしてくるような男だと思っていたのだ。だがゼノンはあくまで"対等な立場"として対話をしてきた。声は決して和やかなものではない。でもいくらか緊張がほどけてきた気がする。
とにかくこっちも何か挨拶をした方が良いか。
「…初めまして、ゼノン様。ラミナと申します。俺……私はこの国をー」
言いかけたところで、ゼノンにより言葉を遮られた。
「ラミナよ、そんなに堅苦しくする必要は無い。
"対等な立場"と言っただろう。友と話す時に敬語を使うのか?」
ついに"友"までいってしまった! いや明確に「あなたとは既に友達です」と言われたわけではないが、今の発言はそう捉えてもおかしくない。あの目はまだ死んだままだけど。 距離の詰め方が凄い…この世界ではこれが普通なのだろうか。
敬語は無しでいいってことか…
「そういうことなら…わかった。かたっくるしい言葉は無しだ。ええと…でも、なんて呼べばいい?」
周りが再びざわつき始める。内容は、自分たちの王に初対面で"友"認定され、敬語すら必要ないと言われたラミナへの嫉妬、困惑。そしてその嫉妬の対象は今、王の呼び方まで聞いている。
「ゼノンで良い。本名でいちいち呼ばれていては、こちらも疲れてくるからな」
その時、ゼノンの口元が初めて緩んだ気がした。笑っているとは言えないが、完全な真顔でもない絶妙なライン。冷たい目を持っておきながら、意外と感情が顔に出ることもあるのか。読めない…この男のことが、まだイマイチ読めない。
「さて、ラミナよ。汝の降臨により、我がアルヴェルギア王国は既に多くの恩恵を受けている。月の加護が強まり、大気中の魔力濃度が膨れ上がっているのだ」
ここら辺の召喚者降臨による恩恵云々の話は、リグムスから既に聞いているのでスっと入ってくる。
リグムス講座、結構役に立つものだ。
「我が国は今、選択を迫られている。大いなる力を持つものは、大いなる岐路に立たされるものだ。その岐路において、汝という意思を無視したまま進むことはしない。いや、できないのだ」
ゼノンの言葉に、レイナやセイナを含め、その場にいる全員が真剣な面持ちで聞き入っている。説明こそ事前にされてはいたが、改めて"召喚者"という存在は、国にとって大きいものなんだ。
「ゆえに我は願う。王としてではなく、一人の意思を持つものとして、汝と語り合いたい」
ゼノンは玉座から立ち上がり、一歩ラミナのもとへと近づく。その光景を、全員息を呑んで見つめていた。
「改めて問おう。この国の行く末を、共に選ぶ覚悟があるか……それを今、ここで聞かせよ」
この違和感はなんだ。何に対しての違和感なのかはハッキリと説明できない。でも、何かが引っかかっているような気がして落ち着かない。見た目と話していることのギャップに追いつけていないのだろうか。
目の前の男は、完全に対等な立場として語りかけてきている。国の未来を共に選ぼうと、召喚者の意思を尊重し、選択肢を与えてくる。これはお互いにいい関係のハズだ。なのに何故…
こんなにも不安に襲われているのだろう。今は、ただの考えすぎだと思うことにした。この男の問いに、答えなければならないのだから。
「…俺は…まだ、ハッキリいって状況を全部把握出来てるわけじゃない。加護って言われても、全然そんな実感ないし…他に何ができるのかも分かってない。なんか力の代償とかあるかも、なんて思ったりしてるし」
不安を誤魔化すように、一つ息を吐く
「でもこの国に凄い困ってる人がいて、凄い問題を抱えているっていうなら…そして俺の存在が、何かを変えうるっていうなら…逃げる選択だけはしたくない」
ゼノンのガラス玉の目を真っ直ぐ見つめる
「どんなに分からないことがあっても、俺はこの国の行く末を"無関係"とは思わない。ゼノンが本当に一人の人間として話すと言うなら、俺も同じ立場で向き合う。背負えるかどうかはこれから知ることだ。でも、背負う覚悟は、今ここで示しておく」
綺麗事を言おうとは思わなかった。何もかも分からないなら、自分の気待ちに正直になるのが一番だと思ったからだ。
玉座の間には、再び小さなどよめきが走った。
「今のを聞いたか……?」
「力もわからぬまま背負うなど…」
「無謀ではないか…これではいくら召喚者であっても…」
家臣たちの視線が一斉にラミナへと集まる。警戒、期待、困惑──そのどれもが混じった重たい空気。
中には、明らかに不快そうに眉をひそめる者もいた。
「王に向かってあのような条件をつけるなど…」
「召喚者の分際で…っ」
抑えられているハズの声が、耳に刺さる。このざわめきは、ゼノンが片手をあげるまで続いた。
壁にある三つの窓。そのうちの一つの向こう側に、白く光り輝く月が見えた。




