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9.”身体能力向上”の魔法は、魔物に掛けるという使い方もあるんですよ。

【登場人物】

・霧崎 掠:ブロンズ・ルーキー。

・リエム:黒髪の魔法使い。

・レミィ:ギルド本部から派遣された職員。

「グルアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 真っ向勝負を仕掛ける俺を迎撃せんと、ホブゴブリンはその巨大な棍棒を振り抜く。

 もし俺がこのまま回避行動を取らなければ、貧弱な人間の身体などいとも容易く真っ二つにはじけ飛ぶだろう。

 だが、それに対応できるスペックを持ち得るからこそ、ブロンズ・ルーキーなのだ。

「読めてるんだよっ!」

 何の躊躇もなく俺は身体を倒し、地面を滑る。衣服が土埃に汚れるが、気にしている余裕など無い。

 紙一重だ。

 なびくブロンズヘアが、通り過ぎた棍棒を掠める。我ながら無謀とも言える行動だった。

「はっ!」

 倒れ込んだ姿勢からばねのように跳ね上がり、素早くホブゴブリンの胴目掛けてロングソードを切り払う。

「ガゥ……ッ」

「ちっ、浅いか」

 だが、手ごたえが浅い。

 俺は体勢を立て直す為、素早くバックステップで距離を取ってホブゴブリンの間合いから逃れた。


「霧崎さん、無茶な立ち回りは避けてくださいっ」

「んなこと言ってる余裕ないだろ!」

 リエムは俺の立ち回りを咎めるが、いちいちそんなことを気にして対処できるとは思わない。

 魔物を倒す為なら、多少の無謀は許容するつもりだ。

 

 ……それに、ホブゴブリンが持つ棍棒。

 リエムが気付いているかどうかはわからないが。

 その棍棒の先端に、血液が付着していた。


「……放置はできない、よな」

 念を押すようにリエムにそう問いかけると、彼女はこくりと頷いた。

「ギルドに連絡を入れて応援を要請するのが鉄則ですが、正直そんなことを出来る余裕もないですね」

「策はあるか?」

「……多少なら。先ほどの忠告と矛盾しますが……もう少し引きつけれますか?」

「やるだけやってみるさ」

 俺より博識のリエムの言う「策」とやらを信じるしかない。


「……まずは、これでっ!」

 間合い外から、ホブゴブリン目掛けて”炎弾”を放つ。

 ただ魔力量に任せただけの質量攻撃だ。バスケットボールほどの大きさの火球が、唸りを上げて一直線に伸びていく。

「ガアッ!?」

 灼熱に当てられ、ホブゴブリンが苦悶の声を漏らす。

 顔面へ直撃したそれに、身を捩らせる。

 だが、そのシルエットすらも灼熱の炎が飲み込んでいく。

 

 大抵の魔物であれば、この一撃で撃退できるはずだが——。

「っ、霧崎さんっ!」

「っ!?」

 突如として、リエムは俺目掛けて飛び込んできた。俺ごと勢いのままに突き飛ばす。

 

 次の瞬間、俺達が居た場所に轟音と共に土煙が巻き起こった。

 それと同時に、その空間には巨木が突き刺さっていることに気付く。

「……馬鹿げてる」

 どうやら、ホブゴブリンが巨木を弾き飛ばしたようだ。とんだ馬鹿力だ。

 あんな攻撃、一度でも受けたら即終了だ。

「”炎弾”も、霧崎さんの攻撃もほとんど通らない……ですか」

 リエムは冷静に戦況を分析するが、どう考えても絶望的な状況だ。

 俺の持つ攻撃も、魔法も通じない。リエムに関しては、技量こそあるのだろうが……総魔力量的にも厳しいはず。

 だが、諦める気配など微塵にも感じなかった。


 俺とリエムは共に立ち上がり、体勢を立て直す。

「霧崎さん、頼みますよ」

「……ああ、分かった!」

 リエムにそう促され、俺は改めて剣を握った。それから、再びホブゴブリン目掛けて駆け抜ける。

「お前の相手は、俺だっ!」

「グルアアアアアッ!」

 先ほどから何度も攻撃を浴びせられているからだろうか。俺に対して歯をむき出しにして激昂する。

 それから、棍棒で俺の脳天を叩き割らんと襲い掛かる。

 だが、単調だ。

「その程度かっ」

 避けるだけなら造作もない。

 だが。

 隙を伺ってカウンターを繰り出すが、やはりというかその強固な筋肉の鎧に弾かれる。

「っ、通らない……!」

「グルアアアアアアア!!!!」

 攻撃を弾かれ、怯んだ俺目掛けてホブゴブリンはその巨大な棍棒を再び振り上げた。

 その時。


「霧崎さん、横っ飛びに回避してくださいっ!」

「……っ!」

 リエムはそう俺に指示を与える。


 彼女の意図は理解できない。

 しかし、リエムはきっと間違えたことは言わない。


 そう信じて、俺はサイドステップの要領で横に飛んだ。

「今、ですっ!」

 リエムは左手を前に突き出し、魔法を発現させる。

 ホブゴブリン目掛けて、自らの持つ魔法を放った。


 ——”身体能力向上”の魔法を。

「……は、何をしてるんだ……?」


 まるで意味の分からない行動だった。

 何故、敵であるホブゴブリンに”身体能力向上”の魔法を放つのか。

 敵に塩を送る行為だろう。

 

 しかし、彼女の行動は間違っていなかった。

「グルアッ!?」

 リエムの魔法によって筋力が突如として強化されたホブゴブリンは、己の身体をコントロールできなくなったようだ。

 振り下ろす腕の勢いをも自身でコントロールできず、棍棒を激しく地面に叩きつけた。


「……っ!」

 轟音が鳴り響く。

 木々がことごとく破壊され、地響きが生み出される。

 恐ろしく想像を絶する一撃が、大地を穿つ。

 

 ——ホブゴブリンにとっても、想定外の一撃だったようだ。

「グルッ!グアアアアアッ!?」

 大地に深々とめり込んだ棍棒を、懸命にホブゴブリンは引き抜こうとする。

 隙だらけとなったホブゴブリンへと、悠然とリエムは近づいた。

「”身体能力向上”の魔法は、魔物に掛けるという使い方もあるんですよ。覚えておいてくださいね」

「わ、分かった……」

 俺が茫然と返事すると、リエムは満足したのか。こくりと頷き、ホブゴブリンの背後目掛けて短剣を振り上げる。

「魔力が無いからこそ、創意工夫を欠かしてはいけないんです……っと」

 そう言って、リエムはホブゴブリンの首元へと短剣を突き立てた。


 俺は見逃さなかった。

 短剣を突き立てた瞬間”アイテムボックス”を発動させ、傷口から何かしらの液体を注入していたことを。

「ガアッ、ガアアアアッ!」

 その液体が何なのかは分からない。

 だが激痛に悶え苦しむホブゴブリンの様相から察するに、恐らく毒物の類だろう。

 「アアアアアアアアアアア!!!!」


 断末魔は響く。

 どこまでも、張り裂けんばかりの声が。


 そして、やがてホブゴブリンは地面に倒れ伏し。

 筋骨隆々の身体を灰燼と変えた。


 ----


「これが、魔石です。魔物の核とも言うべきものですね」

「さすがに俺も見たことはあるが……」

 ホブゴブリンの中から現れた赤色の宝玉を取り出し、リエムはそう淡々と解説する。

 だが、俺の胸中は魔石には無かった。


 ホブゴブリンの持つ棍棒に付着していた血液。

 恐らく、それが意味するところは……。

「……リエム。ちょっとだけ良いか」

「ん、はい?」

「お前は気づいたか?ホブゴブリンが持つ棍棒に、血液が付いていたのを」

 俺がそう報告すると、リエムの表情が突如として固まった。


「……ひっ」

 小さな悲鳴が、彼女の喉元から漏れる。

 それから、自らの顔を隠すようにつば広の帽子を被り直した。

「……リエム?」

「戻りましょう」

「え?」

「も、戻りましょう……」

 明らかに声が震えている。

 何かを避けるように、連想されるなにかから目を逸らすように。

 俺だって、正直想像はしたくない。


 ——どんな些細なきっかけから命を落とすか分かりませんから。


 脳裏を過ぎるのは、リエムが民間ギルドで発した言葉だ。

 冒険者である以上、生死に関わる物事からは逃げることが出来ない。

「……駄目だ。何もなければそれでいい。確認はするべきだ」

 俺はリエムの意見を押し切り、付着した血液から想像される”何か”を探しに雑木林を掻き分けて進むことにした。

「っ……」

 リエムは息を呑む。

 しばらくしてから、覚悟を決めたように俺の後ろに続くことにしたようだ。

「無理しなくても良いぞ?」

「い、行きます……」



 見たくないと思った時ほど、案外あっさりと見つかるものだ。

 そういうジンクスなのか、俺には理解できなかった。

「……っ」

 もう、それは人と言えるのか分からない。

 パーツを掻き集め、パズルのように組み合わせれば人の形にはなるだろう。


 つまりは、それだけ原型を留めないほどにぐちゃぐちゃになってしまった亡骸が横たわっていたのだ。

 辺り一面に血肉が飛び散っている。

「っぷ……」

 想像を絶する匂いに、思わず眩暈に立ち眩む。

 鼻腔を刺激するのは、鉄の匂いに混ざった酸性臭だ。

 それが胃液などの人体から漏出した液体なのだと理解するのに、そう時間は掛からなかった。

「っ、ギルドに報告を……」

 同じ冒険者である以上、きちんと弔う必要がある。

 ギルドに報告しなければ。

 俺はそう冷静さを保とうと、何度も頭を横に振る。

 

「……あ」

 隣に立つリエムの微かな吐息が漏れる。

 おぼつかない足取りとなった彼女は後ろずさり、それに伴って葉擦れ音が響く。

「あ、ああああっ」

 吐息は、やがて漏れる声となる。

 両手で頭を抱え、彼女は目の前の現実から目を逸らすように顔を背ける。

 その彼女の様子に、どこか不穏な気配を感じ取る。

「……リエム?」

「ご、めんなさい……ごめんなさい……」

「どうした、おいっ」

 

 糸は、いとも容易くプツンと切れる。

「あああああああああああっっっっ!!ごめんなさい!!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……やだ、やだ……っ、私は……私は……」

「おいっ、どうした!リエム、リエムっ!」

「ごめんなさい、ごめんなさい……」

 リエムは頭を抱えて蹲る。

 明らかに、何かフラッシュバックを引き起こしていた。

「おい、戻ってこい!おいっ!」

 俺は何度も彼女の肩を揺さぶり、意識を呼び止めようとした。

 だが、彼女は冷静さを失い取り乱している。

「っ、あ……ごめんなさい……」

 

 もはや、薬草採取などやっている場合ではない。

 俺は冷静さを失ったリエムを連れて、逃げるように魔物発生区域を後にした。


 続く

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