6.要はあいつに意識が向かなければ良いんだろ。策はある。
【登場人物】
・霧崎 掠:ブロンズ・ルーキー。
・リエム:黒髪の魔法使い。
・レミィ:ギルド本部から派遣された職員。
「あ、あのっ」
パーティ登録手続きを終え、ギルドをでようとした時。
リエムは堪えていた何かを吐き出すように、そう呼び掛けた。
「どうした?」
「……あ、あの、えと……」
呼び止めたは良いものの、上手く自分の感情に整理が付いていないのだろうか。口籠もり、何度も言葉を発しようとしては引っ込める、と言うことを繰り返す。
一体彼女が何を伝えたいのか、俺には理解できなかった。
まだ、リエムも完全に心を開いているわけでは無いのだろう。
恐らく隠している情報の方が多いはずだ。
「まあ、なんだ。これからよろしく頼むよ、リエム」
「……!は、はいっ!」
だからこそ、少しずつ話していくしか無い。
リエムは深々と頭を下げ、それからパタパタと小走りで俺の前から姿を消した。
「……冒険者パーティ、結成か」
養成学校を卒業してからというものの、パーティを結成するまでにかなり時間を要した。
自分で言うのも何だが、周りと比べて出遅れている状況だ。
世間的な評価で言えば、期待の新人であるブロンズ・ルーキー。そして、そんな俺が相棒として選んだのは”魔力量に欠ける”という圧倒的ハンデを背負った、黒髪の魔法使い。
あらゆる点で悪目立ちする要素が揃っている。
――期待の新人――ブロンズ・ルーキーと、世間から見れば”魔力量に欠けた”黒髪の魔法使い……好奇の目で見られる可能性だってあるので、意識しておいてくださいね?
レミィの言葉が、脳裏によぎる。
恐らく、当面は物好きの視線に浴びせられることが増えるだろう。
「……少し、考えるか」
パーティメンバーを守るのは、リーダーの務めだ。
「仲間想いですねぇ~」
「うおっ!?」
いつの間に居たのだろうか。
レミィがにやにやとして背後に立っていた。
「そぉんな驚かなくて良いじゃないですかぁ。リエムちゃん可愛いですよねぇ、守りたくなっちゃうような可愛さがありますよねぇ」
「……まあな」
「おっ、否定しないんですねぇ。惚れちゃいましたぁ?」
「そんなのじゃない。というか何してるんだよ、仕事しろ」
「今日の勤務は終わったのでぇ。今の私はギルド職員じゃなくて、ただの可愛い可愛いレミィちゃんでーすっ」
「自分で言うのかそれ……」
改めてレミィの全身を見れば、黒を基調としたチュニックワンピースを身に纏っている。銀髪がコントラストによって、より一層映えていた。
彼女はニヤニヤと悪意のある笑みを浮かべ、俺の脇腹を肘で突く。
「別にパーティ内での恋愛はよくあることですからねぇ。良いと思いますよ私はぁ」
「すぐそう言う方向に持って行くなよ……」
「ま、そんな冗談は置いといてぇ」
そこでレミィは言葉を切り、姿勢を正す。
穏やかな笑みを浮かべてこそいるが、どこか圧を感じる。
「実際、リエムちゃんを守るのは霧崎さんですからねぇ。あなたの行動に、彼女の今後が左右されるってこと忘れないでくださいねぇ?」
「ああ。分かってる」
「私もこんな事例を見るのは初めてですからぁ。心配にもなりますよぅ」
「だから、その為にちょっとした細工をするつもりだ」
「……ふぅん?」
レミィは感心したように目を見開く。
それから、どこか安堵したように胸をなで下ろした。
「リーダーが霧崎さんで良かったですぅ。私が言うまでもなく先々を見据えてるみたいですねぇ」
「要はあいつに意識が向かなければ良いんだろ。策はある」
「……期待してますよぅ」
そう言って、レミィはくるりと背を向けた。
「じゃ、お疲れ様ですぅ」
手をひらひらとさせて、彼女も俺の前から姿を消す。
「そうだ……リエムに関心が向かなければ問題ないからな」
自分のアイデアとは言え、あまりにも天才的な発想だった。
思わずニヤリと笑みが零れる。
☆
翌日。
今日はリエムと民間ギルド前で待ち合わせする手筈となっていた。
俺達冒険者は民間ギルドで、依頼主から発行されたクエストを受注する手筈となっている。
薬草採取や、地質調査。はたまた、地域で開催するイベントスタッフの人員確保といった短期バイトのような依頼だってある。
クエストだって、何も生死に関わるものだけではない。市民の生活をサポートするのも、冒険者の役割なのだ。
今日の予定は、クエスト受注の簡単なオリエンテーションを受けることだった。
頭の中でスケジュールを確認している最中、民間ギルドが見えてきた。
白を基調とした大きなビルのような建物だ。俺達冒険者を招き入れる巨大なエントランスがガラス越しに映し出される。
日本における市役所を彷彿とさせる、そんな施設だった。
その出入り口近くに配置されたベンチに、リエムは座っている。
長い黒髪と、深々と被ったつば広の帽子が彼女の素顔を隠していた。
本を読んで時間を潰している彼女はまだ、俺に気付いていないようだ。
周囲の人々は、俺をジロジロと見ている。
奇異の視線を受けるが、俺にとっては予想通りの反応だった。
そうだ。これでいい。
奇異の視線が俺に集中することで、リエムへの意識が逸れるはずだから。
「リエム、待たせた」
「え、あっ、霧崎さ……んっ!?」
声で俺だと判断したのだろう。リエムは本を閉じて顔を上げたが。
「……え?」
目を丸くして硬直してしまった。
口をパクパクとさせ、キョロキョロと辺りを見渡す。
どうやら、目の前の人物が俺だと理解できていないようだ。
「え、と。あの、霧崎さん、どこですか」
「ここにいるぞ」
「……えーと……」
リエムは反応に困ったように愛想笑いを浮かべる。
俺がリエムを守る術として考えたアイデア、それは。
着ぐるみで身を包むことだった。
今の俺は、可愛らしいクマの着ぐるみにしか見えないはずだ。これならば俺がブロンズ・ルーキーこと霧崎 掠だとバレることも無く、リエムに意識が向くことはない。
見事で完璧な作s「ば、バカになっちゃったんですか!?」
……リエムに「バカ」と言われてしまった。
リエムは顔を真っ赤にして、忙しなく周りを見渡す。
「な、ななな……なにしてるんですか霧崎さんっ!?なんで着ぐるみなんですかっ!?」
「いや、これは俺の作戦だ。周囲から好奇の目で見られることを避ける為の作戦だ」
「嘘でしょ!?周り見てくださいよっ、失敗してますって!!」
リエムは俺の背後を指差す。
しかたなく着ぐるみの姿で背後を見ると、ジロジロとギャラリーが好奇の目で見ていることに気付いた。
「……何見てんだ。見世物じゃないぞ」
「その着ぐるみは見世物なんですよ!」
ちなみに、そのギャラリーの中にはレミィも居た。
彼女はゲラゲラ腹を抱えて笑いながら、俺達の姿を”写影魔法”――言わばカメラだ――で収めていた。たちが悪い。
「ぶっ、あはっ、はー……やば、アホの冒険者居るっ、アホだ、アホの……」
「おい誰がアホだ」
ブロンズ・ルーキーを捕まえてアホ呼ばわりは失礼だろう。
だが、周囲の視線から守るべき対象であるはずのリエムも冷ややかな目で俺を睨んでいた。
「あの。脱いでください、その着ぐるみ。恥ずかしいです」
「これは俺の完璧な作戦なんだ。これを脱ぐわけにはいかな」
「脱いで」
「はい」
正直、戦闘時よりも圧が強くて逆らえなかった。
ごめんなさい。
続く
ハ○ワみたいだな民間ギルド。




