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4.お前は一体……何者だ……?

「あー、もしもしぃ。お疲れ様ですー、ギルド本部のレミィです。あ、はい。はぁ……あのですね。ちょーっと(くだん)の口うるさい彼の為にトレーニングルームを貸して頂けたらと……はぁ、はい……」

「おい聞こえてるぞ……」

 通話端末を片手に、ぺこぺこと誰に向けるでもない会釈を繰り返すレミィ。

 それはともかくとして、俺のことを‘口うるさい彼’扱いしていることに関しては物申したい気分だった。

「……あ、わ、私の為に、ありが、とう、ございます……」

 提案者のリエルは、おずおずと俺へと申し訳なさそうに頭を下げる。

 この期に及んで自信なさげな振る舞いを続ける彼女だったが、別に悪いことをして居るわけでは無い。

「別にお前の為だけじゃない」

「きゃっ」

 深々と被っているつば広の帽子を軽く叩くと、リエムは小さな悲鳴を漏らした。

 それから、目を丸くして頭ひとつ分背丈の違う俺へと見上げる。


 こうしてみると、随分と端正の整った顔付きの――。

 ……いや、見た目で判断するなと話をしたところだ。意識しないようにしよう。

 

 なんとなく、リエムの顔を見ることが出来ずに顔を背ける。

 そのまま、俺は自分の意見を告げる。

「髪色が判断材料となっていたのは事実だ。偏見でものを言ったことは申し訳なかった。だが、模擬戦を提案するってことは、相応の自信があるんだよな」

「そうでなければ、冒険者など志願しません。私だって、それなりに研鑽を積んで来ました。死地に赴くのは必然の道理なので。命が惜しければ、ただ魔物と縁の無い世界で過ごせば良いんです」

 冒険者の話題になった時、リエムから吃音が消える。

 それだけ信条を持って、冒険者という役割を遂行しようとしているのだろう。

「……そうだな」

 その時、俺は彼女がこれまで出会った冒険者とは違うことを実感した。


 しばらくすると、通話を終えたレミィが俺達の元に戻ってきた。

「はぁい、トレーニングルームの使用許可が下りましたよぅ。後が怖いんで、あんまりめちゃくちゃしないでくださいねぇ」

「善処するよ」

「断言して欲しいんですがぁ……」

 ブツブツと不貞腐れたように愚痴をこぼしながら、レミィが先導する。

「とりあえず、行くか」

「あっ、は、はい」

 俺とリエムは一度視線を交わした後、彼女の背中を追うことにした。


 ☆


「着きましたよぅ。プロテクターと武器を身につけたら、またここに戻ってきてくださいねぇ」

 レミィが簡単な説明を終えると共に、俺は早々に男子更衣室に足を運んだ。

 更衣室の内装は、簡単なロッカールームと遜色ない。こうした場所を見る度、”ここは本当に異世界なのか?”と疑問にさえ感じる。

 異世界に転生したとは言え、ほとんど日本と遜色ない世界観なのだ。

(……まあ、俺にとっては都合が良いか)

 そう思考を切替え、急所を保護するプロテクターを身に付けた。


 次に、傘立てのように立てかけられた武器の数々に視線を送る。

 ゴム製の素材で作られた剣や棍、斧などの戦闘スタンスに応じた武器が並ぶ。

 その中から、俺は迷うこと無く剣を手に取った。

「……そう言えば、あいつは一体何を選ぶんだろうな」

 いくら模擬戦と言えど、勝負である以上手を抜くつもりはない。

 

 ”身体能力強化”の魔法を自身に付与する前提なら、恐らく彼女は近接武器を選ぶはずだ。

 だが、相手は魔力に乏しい。そうなると、遠距離武器である弓や銃に頼る可能性も無きにしも非ず。

 魔法は……恐らく使えて2~3回ほどだろう。経験や知識による推測でしかないが。

(しかし、リエムはそこまで頭が回るのだろうか?)

 むしろ、何も考えずにむやみやたらに特攻をしかけてくる可能性だってある。

 魔法だって、俺のように無詠唱魔法は会得している可能性は限りなく低い。

 いや、しかし――。



「……あのぉ。まーた考え込んでますかぁ?早く来てくださいよぅ、もうリエムちゃん準備できてますよぉ」

 更衣室の入口から、レミィが声を出してそう呼び掛けてきた。

「あ、悪い。今行く」

 いつの間にかまた、思考の海に浸かってしまっていたようだ。

 

(……考え込んでも仕方ないか)


 結局のところ、戦ってみないと答えもでないのだ。

 そう考え直し、俺は自らの戦闘スタンスに合わせ、ゴム製のロングソードを手に取って更衣室を後にした。

 

 

「遅かったですねぇ~……そういう所ですよぉ、霧崎さん」

「悪かったって。リエムも悪いな、待たせて」

 肘で俺を小突くレミィを余所に、俺はリエムに頭を下げた。

 同じく全身にプロテクターを纏ったリエムは、慌ただしく手をばたつかせる。

「わ、私は気にしてませんっ。相手の技量を推測することは大切ですからっ」

「……まあ、な」

 何気ないフォローの言葉だ。

 だが、それは「相手の技量を推測することが出来る」からこそ発せられる言葉と言うより他なかった。

 

 やはりリエムの言葉の端々からは、ただ者では無い雰囲気を感じ取れる。

 ――確実に、プロの冒険者というものを理解している。

(一体何者なんだ?こいつは……)

 徐々に黒髪の少女に対し、素性に興味を持ち始めている自分がいることに気付く。


 更衣室から出てきたリエムは、つば広の帽子を外しており、長い黒髪を後ろでまとめ上げている。

 ゴーグルの位置を調整している彼女の右手には、短剣が握られていた。

「短剣か。珍しいな」

「私はこの方が動きやすいので……」

「そっか。期待してるよ」

 わざわざリーチの短い得物を選ぶ者は少ない。

 自ら敵の懐に入り込まなければ戦えないからだ。そんな危険を背負ってまで戦う理由など無いはずだ。

 つまり、彼女は俺の懐まで近付く算段を持っているということになる。


「ま、大丈夫だと思いますけどぉ。私が決定打となり得るって判断したらそこで止めますねぇ。魔法は使ってオッケーですよぅ。プロテクターが守ってくれますのでっ」

 改めてレミィがそうルール説明を行う。

 俺とリエムはその説明に頷き、それからお互いに距離を取った。

 

 腰を落とし、俺はロングソードを静かに構えた。切っ先を正面に向け、明確な敵意をアピールする。

「俺はお前がなんであろうと決して手は抜くつもりは無い」

「……」

 俺の声が届いていないのだろうか?リエムは黙りこくり、短剣を右手に持ったまま自然体で立っていた。

「おい、リエム!聞こえてるか?」

「……」

 だが、彼女は何も発しない。

 埒があかないと判断し、俺は早期決着を狙うことにした。

 ”脚力強化”の魔法を付与し、俺は迷うこと無く駆け抜ける。

「悪く、思うなっ!」

 大地を蹴り上げる度に、アキレス腱に鈍い痛みが響く。

「……っう!」

 その痛みに思わず頬が歪む。だが、そんなことも構わずに全速力で駆け抜けた。

「……痛い、ですよね。無理しないでください」

 リエムはまるで表情を崩すこと無く、静かに顔を上げる。

 

 しかし既に、俺は彼女の胴元を保護するプロテクター目がけて、剣を振り抜く構えを取っていた。

 後はその細い腰目がけて、剣を振り抜くだけだ。


「――っ!?」

 だが、手応えは無かった。

 振り抜いた一閃は、空を切り風を薙ぐ。巻き起こる土煙が、俺の視界から彼女の姿を消していく。

「無理なんて、しなくて良いんです。より安全に、より円滑に。その方法を見出すのが……私達、プロの冒険者ですから」

 先ほどまで眼前に立っていたはずのリエムの声が、何故か背後から聞こえる。

 ゆらりと陽炎のように揺らめく影が、俺の影に重なるのが見えた。

「後ろかっ!」

 影の位置からリエムの場所を推測。

 すかさず右半身を捻り、背後に振り向く。その勢いのままにロングソードを水平に薙ぐ。

 だが、それすらもリエムは読み切っていた。

 フワリと流れる黒髪だけが、彼女の残像を作る。

 

 まるで音すら残らない。

「それじゃあ、私の番ですね」

 そう言って、リエムは空いた左手で銃の形を作る。

 人差し指を囲うように、魔方陣が形成。その中心に構築されるのは微かな炎だった。

「確かに、他の人達みたいな魔法は出来ません。ですから、コンパクトに圧縮しちゃえば良いんです」


 俺が知る炎属性の魔法代表と言えば、”炎弾”だった。

 だが、リエムが放つ魔法はそれとは大きく異なる。

 鋭く濃縮され、まるで熱光線の様相へと変化した”炎弾”。

 それに加えて――。


「……無詠唱、魔法……お前は一体……何者だ……?」

「秘密、です」

 いとも容易く、その熱光線にも似た”炎弾”は俺のプロテクターに直撃した。


 続く

 

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