27.ダンジョンコアの調査兼破壊には、一人ギルド本部からヒーラーを派遣しようと思ってますぅ。
【登場人物】
・霧崎 掠:ブロンズ・ルーキー。
・リエム:紫苑の花束における魔法使い。
・レミィ:ギルド本部から派遣された職員。
・狐さん:ギルド本部の代表取締役。
「新しく生まれたダンジョンコアの破壊をして欲しいと」
「はい。地下道に新たに発見されたダンジョンコアの対応を霧崎様にお願いしたいと思っております」
民間ギルド直々に受け取った依頼書には、新たに生まれたダンジョンコアの破壊をして欲しい、との旨が記されていた。
隣に立つリエムも、俺の肩から顔を出してじっとその依頼書を覗き込んでいる。
しばらく物思いに耽るように顎に手を当てていたが、何か気になることがあったのだろう。依頼の受け付けを担当している女性に質問を投げかける。
「あの。どうして、私達なのでしょうか。どちらかというとギルド本部の対応案件では……」
彼女の質問は至極もっともだ。新たに生まれたダンジョンコアというのは、何が起こるのか未知数だ。俺達の想像をゆうに上回るモンスターが襲いかかる可能性もあり、ダンジョンコアの自然発生の余波に巻き込まれて命を落とした事例というのも少なくはない。
そして、リエムが抱いた疑問はギルド側も感じていたのだろう。職員の女性は訝しげな表情を浮かべて、静かに首を横に振った。
「申し訳ございません。上からの指示で……」
上手く説明することが出来ないのだろう。”ファナ”と名札をぶら下げた女性は困ったような愛想笑いを浮かべ、俺達から視線を逸らす。
そんな彼女の背後に立つ別の職員が現れた。
「ファナちゃーん、電話掛かってきてますよぅ。私が対応変わりますのでぇ、お願いしますねぇ」
「あっ、は、はいっ!すみません失礼します」
ファナと名乗る受付の女性はまるで「救いの手が差し出された」と言わんばかりに早々にその場から立ち去った。
空いた余白となった椅子に座るのは、流れるような銀髪を揺らすレミィだ。
「や、どうもお待たせしましたぁ。ちょっと立て込んでましてねぇ……」
「……レミィさんが来たということは、ギルド本部の案件なんですね」
意図を悟ったリエムは、どこか覚悟の決まった表情でレミィに視線を送る。
神妙な表情を浮かべたリエムに対し、レミィは「そうですよぅ」と間延びした言葉を返す。
「と、言ってもD案件という可能性は低いですけどねぇ」
”D案件”とは、要は”ディファン絡み”というニュアンスの隠語だ。表沙汰に出来ない話である為、俺達とレミィの間で作った共通の合言葉である。
レミィは街内の地図を引っ張り出し、紙面を使って説明を始めた。
「幸いにも人通りのない地下道で発見されたものなんですけどねぇ。たまたま開拓工事をしようって時に見つかったらしくてですねぇ」
「被害は?」
「今のところ、被害は報告されていませんねぇ」
簡単に話の流れを聞いたリエムは「うーん」と首を傾げた。
「それ、私達が対応しなきゃ駄目な案件なんですか?」
「狐さんにも聞いてみたんですけど”何事も経験”ってはぐらかされましたねぇ……で、ここからが本題なのですがぁ」
そこで言葉を切り、真剣な表情でこちらに意見を提示した。
「ダンジョンコアの調査兼破壊には、一人ギルド本部からヒーラーを派遣しようと思ってますぅ」
「……ヒーラー?」
ヒーラーと聞いて、脳裏に浮かぶのは面談に来ていたゴテゴテの装飾をした僧侶だ。
そいつは俺が説教かまして追いやった為、顔を見る機会は殆ど無いだろうが。
俺が何を考えているのか、おおよそ読めたのだろう。レミィは苦笑を漏らし、手をひらひらと横に振った。
「霧崎さんもリエムちゃんも知らない人ですよぅ~。一癖強い人ですけど、実力は本物なので~」
「レミィは付いてこないのか?お前の方がある程度実力分かってるから楽なんだが」
「口説いてますかぁ?まぁ私も冒険者時代はよくモテましたからねぇ」
「違うからな」
”口説く”という言葉が出た瞬間、隣から突き刺すような視線が向けられた。
冒険者経験によって培われた殺意とも等しい視線を受けつつも、俺は件のヒーラーとやらの情報を集めることに意識を向ける。
「ヒーラー、ということは僧侶なのか?」
「うーん、役職的には僧侶……でしょうかねぇ。まあ頼りにはなる人ですよぅ」
「なるほどな。まあギルド本部からの派遣なら変なやつが来る事は無いんだろうが……」
一般からの募集ではなく、ギルドからの派遣である。ならば、多少なりとも冒険者としての質は担保されたようなものだろう。
話を聞いていたリエムも、ヒーラーについての情報を尋ねる。
「……女の人、ですか?」
「残念ながら男の人なんですよねぇ。面白くなくてごめんなさいねぇ」
「……なら良かった」
リエムはその小柄な身体から放っていた冷気とも等しき殺気を収め、大きく一息吐いた。
息が詰まるような間隔から解き放たれ、彼女と合わせるようにして俺もため息を付く。
「また、そのヒーラーさんとは顔合わせするんだよな」
「はい、それは勿論ですよぅ。また後日案内しますのでぇ、それまでお待ちくださいねぇ」
「分かった、ありがとうな」
簡単な依頼のオリエンテーションを受けた俺達は、そのまま民間ギルドを後にする。
ちょうど、出入口である自動ドアに差し掛かった。
その時だ。
「くっ!?」
「おわっ!」
外に出ようとしていた時、入れ違いになる形で一人の男性と正面からぶつかった。
バランスを立て直すことも出来ず、俺は地面にへたり込む。
「掠、大丈夫?!ちょっと、危ないじゃないですかっ」
慌てて俺の隣にかがみ込んだリエムは、じっと俺とぶつかった男性を睨む。
黒色のタンクトップに、迷彩柄のジーンズ。その隙間から覗く屈強な上腕二頭筋を隆起させた男性は、借り上げにした赤髪を掻きながら申し訳なさそうに頭を下げた。
「ああ、すまない!少し急ぎの用事だったものでね、つい前方不注意となっていたようだ。怪我はないかい?」
そう言って、屈強な男性は申し訳なさそうに俺に手を差し出した。
別に敵意はないのだろうが、どうもそのイカつい外見に威圧感を覚える。
ゴツゴツと角張った筋肉の触感を覚えながら、俺はその手を掴んで立ち上がった。
「あ、ああ……気をつけてくれ」
「うむ、気をつけるさ。君は件のブロンズ・ルーキー君かい?頑張ってくれよ!」
「あ、ありがとう」
どういう訳か先輩目線でそう言葉を掛けられ、俺は曖昧な返事を返すことしか出来なかった。
だがそれでも満足したのだろう、赤髪の冒険者は「うむ!」と頷き、民間ギルド内に姿を消した。
消える後ろ姿を見送っている最中、リエムは困惑した表情を浮かべる。
「随分とクセの強い冒険者だったね……」
「もう俺は普通が分からなくなってきたけどな」
つい正直な本音が漏れる。
ギルド本部から派遣される冒険者というのも、きっと変わり者なのだろう。
ヒーラーと言うからには、多少なりとも人格者であることが望ましいが……。
結局、最悪な方向で予想通りだった。
もう何度目の世話になったか分からない面談室に連れられた俺とリエムは、一人の男性と机越しに対峙する。
眼前に座っているのは赤髪の、屈強な肉体を持った男性だった。
「ギルド本部から派遣されました、ヴァイルさんですぅ。こんな見た目ですけど、ヒーラーですよぅ」
「うむ、霧崎 掠くんにリエムちゃんだな!私はヴァイルという名のものだ!何卒よろしく頼もう!」
面談室内に響き渡るほどの大声で、そう彼は深々と頭を下げる。腰から折れるように下げるそのお辞儀は、とても綺麗だった。
真っ直ぐに伸びた背筋で繰り出すお辞儀は、美しさすら感じる。
誠実そうな雰囲気、頼もしい身体。タンクトップに迷彩柄のジーンズと言った軽装であり、無駄な装備1つ無い。
確かに俺が欲する、理想的なパーティメンバーの条件は満たしていた。
「……ヒーラー?この人が?戦士の間違いじゃ無くて?」
ただ、ヴァイルと紹介された男性は、どこからどう見てもヒーラーでは無い。
ほら大胸筋がぴくついてる。
隣に座っているリエムに視線を送るが、彼女も彼女で現実を受け入れられないのか明後日の方向を見ていた。
「ヒーラーって何だろうね……」
正直、彼女の意見には全力で首を縦に振りたい。
続く




