ロイルの姫、アンナレッタ
赤ん坊を産湯に浸け、身を清めると、助産師の手が止まってしまった。
分家筋の神官たちが、赤子を一目見ようと部屋に入り込んできた。
「いけません、皆様。姫様の身支度もいたしませんと……」
助産師は、大きめの布で赤子を神官たちの目から隠した。
「アンドレア様、ジオレッタ様を労って下さい。とても、頑張りましたよ。姫は」
「そうだな、顔を見てくるよ」
ジオレッタは、疲れきっていた。
故郷の王国では、蝶よ花よと育てられた姫である。お産は恐ろしいものであった。
そんな時にアンドレアが現れ、「ご苦労様。身体は大丈夫?」と言ってくれた。
ジオレッタには、これ以上の嬉しさはなかった。
そこへピンクのベビードレスを着た赤子を助産師が連れてきた。
「姫でございましたよ。とてもお元気です」
赤子は、良く手足を動かす元気な子であったが、赤子を助産師から受け取ってアンドレアは、固まった。
(赤茶色の髪?)
アンドレアは、銀髪でジオレッタは、金髪だった。
何故このような髪の色の子供のができるのか疑問だ。
アンドレアは、猜疑心に勝てず言ってはならぬことを言ってしまった。
「ジオレッタ、そなた誰と寝た?」
アドリアンがその言葉を発してから、ジオレッタの顔は、いかなる時も無表情になった。そうして、一月して身体が回復すると故郷のヴァーレンに帰ってしまった。
「ジオレッタ!!」
その日、アンナレッタと名付けられた赤子は、一日中泣いていた。屋敷の中がメチャクチャになるほど魔力を持っていたのである。