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転生したけど、ただの高校生やってます  作者: 岸波圭太
転生と、静かな始まり
7/8

ふたり、傘をさして歩く道

雨の日は、どこか心の輪郭をぼやかす。

ふだんなら気づかない気持ちが、静かな雨音に溶けて浮かび上がるようで――

そんな瞬間が、誰にでもきっとある。


第6話で少し近づいた九條とほのか。

けれど“友達”なのか、“ただのクラスメイト”なのか、

その関係に名前はまだついていない。


だからこそ、放課後の雨は、二人を優しく同じ傘の下へ連れていく。


“普通に過ごすだけ”だったはずの日々に、

気づけば小さな特別が増え始めていた。


そんな雨の日の物語を、どうぞ。

第7話:「ふたり、傘をさして歩く道」


その日は、朝からどんよりとした曇り空だった。

いつ降ってもおかしくない気配に気づきながらも、俺は傘を忘れて登校してしまった。


放課後。チャイムが鳴ると同時に、窓の外ではポツポツと雨音が響き始めた。

みるみるうちに雨脚は強くなり、昇降口の前には傘のない生徒たちが集まっていく。


――もちろん俺も、その中の一人だ。


「九條くん、傘、ないの?」


振り向くと、ほのかが立っていた。

いつもより少しだけ表情が柔らかい。

けれど、傘を片手に持っているのを見て、少し気まずさを覚えた。


「ああ、やっちゃった。朝は降りそうで降らなかったからさ」

「よかったら……一緒に帰らない?」


その言葉に、思わず返事が詰まる。

図書室で一緒にいることは増えたけれど、帰り道を並んで歩くのは初めてだ。


「……いいのか?」

「うん。だって九條くん、濡れて帰るの嫌でしょ?」


そう言って差し出された傘は、二人で入るには少し小さかった。



校門を出ると、雨は相変わらず強い。

ほのかが少し俺に寄る。

俺も自然と寄る。


すると、傘の下の距離が急に近くなったように感じた。


「……九條くんって、雨は好き?」

「ん? まあ普通かな。ほのかは?」

「私はね、雨の日って少し安心するの。

周りの音が少し消える感じがするから」


そう言って、彼女は空を見上げた。

傘に当たる雨粒が、ぽつぽつと規則正しくリズムを刻む。


「中学の時は、傘を持っててもちょっとひとりぼっちの気持ちだったけど……」

「……今は?」

「今はね、こうして“誰かと歩くのも悪くないな”って思える」


それは雨音に紛れ、聞き逃しそうなくらい小さな声だった。

でも俺には、はっきり届いた。



信号待ち。

赤い光に照らされながら、ほのかはふいに俺を見上げる。


「ねえ、九條くん。私、今の生活……すごく楽しいよ」

「それは……よかった」

「ううん。それだけじゃないんだよ?」


彼女は少し恥ずかしそうに言う。


「九條くんと話す時間があるから、楽しいの」


その瞬間、心臓が跳ねた。

なんて返せばいいかわからず、言葉が喉の奥で止まる。


信号が青に変わる。

彼女は何事もなかったように歩き出した。


俺はただ、その背中を追った。



家の近くの角を曲がると、ほのかが傘を止めて言った。


「ここでいいよ。九條くんの家、この先でしょ?」

「ああ……ありがとう。助かった」

「ううん、こちらこそ。

また……明日も、図書室で一緒に勉強しよ?」


「もちろん」


そう言うと、ほのかは小さく笑った。

雨に濡れた街灯の光が、その笑顔をぼんやり照らしていた。


彼女が帰っていく後ろ姿を見ながら、

俺の胸の奥に、静かに熱が灯るのを感じた。


――“普通の生活”だったはずの毎日が、

気づけばもう普通じゃなくなっていた。


でも、その変化は少しも悪くない。


———


次回予告:

第8話「図書室の小さな事件」

今回もお読みいただき、ありがとうございました!


第7話は、物語としては大きなイベントがあるわけではないものの、

二人の距離が“ゆっくりでも確実に近づいた”大切な回になりました。


傘を一緒にさす――

ただそれだけの行動なのに、

距離が近いと、普段は隠してしまうような気持ちが少しずつこぼれ落ちてしまう。


ほのかが見せた小さな勇気、

それを受け止めきれずに戸惑った九條の心。

そのどれもが、静かな雨音の中で自然に混ざり合うように描きました。


「普通に生きたい」と願う九條にとって、

誰かと帰る道はもう“普通”ではないのかもしれません。

でも、その変化がどこか心地いい。

そんな青春の一瞬を楽しんでいただけていたら嬉しいです。


次回は、図書室で起きる“ちいさな事件”がきっかけで、

二人の関係がまた新しい段階へ進みます。


それでは、また次回もよろしくお願いします!

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