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転生したけど、ただの高校生やってます  作者: 岸波圭太
転生と、静かな始まり
6/7

昔の話は、今を縛るものなのか

クラスメイト・三浦ほのかの過去が少しずつ明かされていく第6話。

中学時代、「本ばかり読んでる変な子」と周囲から浮いていた経験から、彼女は人との距離を置いて生きてきた。

その過去を知った九條は、図書室で彼女に静かに向き合い、「それでも自分を持っていた彼女は立派だ」と伝える。


自分を否定せず、受け入れてくれる九條の言葉に、ほのかは初めて心から微笑む。

そしてふたりは、それぞれが抱える過去と向き合いながら、少しずつ“いま”を大切にし始める。


「普通の学校生活」を願うはずだった転生者の九條にとって、彼女との時間は確実に“特別”へと変わっていく――。

第6話:「“昔の話”は、今を縛るものなのか」


その日の放課後。

俺は教室を出る前に、担任の佐倉先生に呼び止められた。


「九條くん、ちょっとだけいいかな」


静かな職員室で、佐倉先生は俺に言った。

「三浦さんのことで、少し気になることがあってね」

「……はい」


「彼女、中学のときに少しトラブルがあったって聞いてる。人間関係で、かなり孤立してた時期があったらしいんだ」


俺は思わず拳を握った。

本人から聞いた話と、先生の言葉とが重なって、妙に現実味を帯びてきた。


「でも、最近は変わってきてる。君のおかげかもしれないね」

「……そんなつもりじゃ」


「どんなつもりでもいいよ。

“過去は変えられない”っていうけど、“今”を変えれば、見え方は変わる。

彼女が少しでも笑えるようになったなら、それはきっと君の存在だよ」



図書室に着くと、ほのかは今日もいつもの席にいた。

けれどその目には、いつもより影があった。


「……今日、先生から聞いたよ。中学のこと」


そう言うと、彼女はゆっくりと視線を落とした。


「……恥ずかしい話だよ。

“本ばかり読んでる変な子”って言われて、

“本の中の世界にしかいない子”って、笑われて――

それが怖くて、誰とも関わらなくなったの」


「でも、それって悪いことじゃない」

「え……?」

「本の世界が好きなことも、自分の時間を大切にしてきたことも、

俺は全然、恥ずかしいと思わないよ。むしろ、そういうの、ちゃんと“自分”を持ってるってことだろ」


言いながら、自分の胸が少し熱くなっていた。


彼女は黙ったまま、しばらく俺の顔を見ていた。

そして、ふっと笑った。


「……ありがとう」

「別に、感謝されるようなことじゃない」

「でも、言ってくれて嬉しかった」



図書室を出た帰り道、二人で並んで歩く。

まだ6月前なのに、空気は少しだけあたたかくなっていた。


「九條くんは、過去に後悔してることってある?」

「……たくさんあるよ。だから俺は、もう一度やり直したいって思ったんだ」


言ってから、我ながら変なことを言ったなと思った。

でも、彼女は何も突っ込まず、ただ「そっか」と微笑んだ。


その笑顔は、夕焼けよりもやさしくて、

どんな過去よりも、いま大切にしたいと思った。



次回予告:

第7話「ふたり、傘をさして歩く道」

今回もお読みいただき、ありがとうございました!


第6話では、ヒロイン・三浦ほのかの“中学時代の過去”に少し踏み込みつつ、

それに向き合う九條の姿を描きました。


誰にでも、触れられたくない過去や、できれば忘れたい記憶があると思います。

それでも、それを受け止めてくれる誰かがそばにいてくれたら――

ほんの少しだけ、明日が変わるかもしれない。

そんな気持ちを込めた回でした。


「転生して普通に生きたい」だけだった主人公が、

“人と関わることの責任”や“ぬくもり”を知っていく過程を、これからも丁寧に描いていきます。


次回は、雨の放課後と、一本の傘が二人を繋ぐお話です。

またお会いできるのを楽しみにしています。

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― 新着の感想 ―
とてもいい小説ですね
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