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転生したけど、ただの高校生やってます  作者: 岸波圭太
転生と、静かな始まり
2/7

図書室で出会った君は、たぶんヒロイン

転生したのに、世界を救う使命も、特別な力もなかった。

あるのは、普通の通学路と、見知らぬクラスメイトたち。


だけど、朝の電車で偶然隣に座った女の子。

その姿が、ずっと頭の片隅に残っていた。


静かで、少し不思議で、本のページをめくる指先がやたら綺麗だった。

前世の俺なら、絶対に関わらなかったタイプの人間。


でも――


今の俺は、「普通の高校生」として生きてみようと思ってる。

そのためなら、少しくらい、話しかけてもいいかもしれない。


そんな気持ちになった、放課後の図書室。

第2話:図書室で出会った君は、たぶんヒロイン


初登校の朝は、やけにあっさりしていた。

自己紹介の時間はちゃんとあったけど、クラスメイトたちは「あー新しい転校生か」くらいの反応。変に絡まれることもなく、空気のように馴染んでいった。


――いや、馴染んでいったというより、「干渉されない空気感」が心地よかった。

前世では営業トークで胃をすり減らしてたし、こっちではしばらく静かにしていたい。


「九條くんって、けっこう静かだよね」


放課後、教室で荷物をまとめていた時に、隣の席の男子──綾瀬颯太が声をかけてきた。

明るい茶髪に軽いノリ、いかにも“陽キャ”っぽい雰囲気。だが、根っからの善人らしい笑顔だった。


「静かっていうか、転生してきたばっかだからな」

「えっ!? ガチ!? 異世界から? ドラゴンとか倒してきた!?」


「いや、ただの事故死です。記憶そのまま持ってこっち来ました。多分、神のミス」


「そっち!? てかそのテンションで言う!?」


軽い会話。こういうのも、なんだか懐かしい。

前世では会社の飲み会すら行かなくなってたからな……。



帰り道、俺はふと、学校の中を歩き回ってみた。

昔の学生生活じゃ、放課後に校内をうろつくなんてこと、あんまりしなかったから。


ふと、開いたドアの先に静かな空間が広がる。


――図書室。


中には、誰もいない……と思ったが、窓際にひとり。

茶色のセミロングに眼鏡の少女が、静かに本を読んでいた。


朝、電車で隣に座った子だ。


俺が入ったことには気づいていない。ページをめくる指の動きが、とても丁寧だった。


「……あの、本、好きなんですか?」


思わず、話しかけていた。


少女は少し驚いたように顔を上げ、俺を見た。


「あ……九條くん、ですよね。朝、電車で……」


「うん。たぶん、同じクラスだよな」


少女は少し恥ずかしそうにうなずいて、本の表紙をそっとこちらに見せた。


『午後の雲と約束の声』――名前だけは聞いたことがある、有名な青春小説だった。


「読んだことある?」と彼女。

「……いや。働いてて、読む時間なかった」

「働いて……?」


「あ、いや。前世の話。転生してきたんだ、俺」


「ふふっ。……変わってますね、九條くん」


その笑顔は、どこか優しくて、どこか切なかった。

転生者の冗談をまともに受け取らない、ちょっと不思議な子だなと思った。



放課後の図書室。誰もいない静かな空間。

ひとりの転生者と、ひとりの文学少女。


ここから、俺の“高校生活の物語”が少しずつ動き出す。



次回:

第3話「図書室の彼女の名前は、三浦ほのか」

ここまで読んでくださって、ありがとうございます!


第2話では、転生後初めての“ちょっとした出会い”が描かれました。

図書室にいる文学少女。落ち着いた雰囲気の中で始まる会話。

なんでもないようなやり取りの中にも、少しずつ「物語の始まり」の気配がしてきました。


前世で疲れきった主人公が、誰かと関わることで変わっていく。

そういう小さな変化を、ひとつずつ丁寧に描いていけたらと思っています。


次回は、いよいよあの女の子の名前が明らかに――。

少しずつ、青春が動き出します。


また次の放課後にお会いしましょう!

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