第94話〜隙〜
苺乃さんから聞いたかなうさんとの出会いの話は
とても温かくて、優しくて……そして何より
芯のある強さを持つ2人だからこそ生まれた
物語だと思った。
「今では言葉や行動に自分の意志表示が
できるようになったでちが……雛もかなうちゃまと
出会う前は臆病で自分1人ではどうにもならなかった
問題も沢山あったでちゅ。」
そうなった時に、苺乃さんはよく
思考を溜め込んでいたと話す。
「雛がこんなに動けるようになったのも、
かなうちゃまの何気ない一言と閃きのおかげでち。」
さっきの体術訓練の時に見せた苺乃さんの動きは、
単に運動神経が良いわけではない。
アカデミー時代に体術訓練でかなうさんが見つけた
苺乃さんの固有スキルの力だと言った。
「この可笑しな喋り方もしゅきるのおかげで
今は雛だけの"個性"でちゅよ。」
初めてお店に行って苺乃さんに出会った時は
衝撃だったけど、その話を聞いたらなんだか
あの時馬鹿にしていた自分を殴ってやりたい。
「それで雛がうつつちゃまに、伝えたかったのは
頭で考えしゅぎないってことでち!」
あれもこれもになると、天秤が大きく傾くように
バランス力が鈍くなり、体感にブレも生じる。
「訓練中は、雛を魔物だと思って挑むでち!」
1歩でも反応が遅れたり、焦ったら
その場で死んでしまう。
それくらいの覚悟で訓練頑張ろうと苺乃さんは
私の背中をバシンと叩いた。
痛い……でも、これでいい。
私は今まで、優しくしてくれるかなうさんに
甘え過ぎたから。
苺乃さんの愛のある喝は、今の私には丁度良かった。
「さぁ、続きやるでしゅよ〜!!!」
私は、苺乃さんに貰った水を持って
その小さくも逞しい背中の後ろを追いかけた。
訓練部屋に戻った私は、部屋の隅に水を置き
可愛い扇子を手に取った。
「お願いします!!!」
気合い入れに声を張ると、私の声が部屋に響き渡った。
突然の大声に驚いたのか、私と同じく指導者に
コテンパにされている霧香さんや愛依さんがこちらを
見ている。
うぅ……皆見ないで……。
そう願うが、もう訓練は始まった。
「目の前の敵だけに集中するでちよっ!!」
タッ_ブンッ__
その場で飛び跳ねてから、華麗に回し蹴りをし
死角になっていた腕を伸ばして
私の右肩に扇子を当てようとする苺乃さん。
しかし、それは私の中で見切っていた。
「ここですねっ!!」
バシッ__グググッ__
右肩ギリギリまで伸びた扇子を、
私は持っていた自身の扇子で肩を守り
技を受け流す独楽ように回転する。
そうして、間合いをとった。
「良い動きでち!!」
間合いをとったはずが、間髪入れず苺乃さんは
剣道の面入れのようにタンタンッと間合いを詰めて
頭を目掛けて攻撃してくる。
私は、それをまた同じように扇子で受け止めた。
「逃げてばかりではダメでちゅ……
攻撃もしゅるでちよ!」
体術は、受け身ではダメだと苺乃さんは
私にコツを教えながら攻撃を仕掛ける。
なぜ、苺乃さんはこんなに攻撃を仕掛けるのが上手いのに
私は1歩も手が出せない……?
「また!!考えてるでちね〜〜!!!」
それはそう。
私にはこういった無駄な隙が多いからだ。
バシンッ__
苺乃さんの攻撃が決まる。
「考えることも大事ではあるんでしゅが、
考えすぎは自分の足を引っ張るでち。」
まさにその言葉通りの結果である。
「もう1本!お願いします!!」
苺乃さんの動きを完璧に真似出来なくても、
彼女に1本や2本くらい扇子を当てることは
不可能では無いはず……!!
ダッ__
私は彼女に向かって猪突猛進に走り出す。
毎回、苺乃さんから仕掛けてくるところを
今度は私が先手を打って攻撃を仕掛けた。
「少し、やってみたいことがあったんです……!!」
色々考えを巡らせ、隙を作りまくった結果
辿り着いた答えも私の中にはあった。
走って突っ込んでくる私に、
苺乃さんは正面で待ち構える。
「……!!」
これなら、いけるかもっ!!!
シュンッ!!!!
ぶつかる直前で、私は膝を折り曲げ
苺乃さんが扇子を持っていない左手側の床を
走ってきた勢いでスライディングをした。
「……!?」
この策は苺乃さんにとっては予想外だったようで、
初めて生まれた隙に私が1本攻撃を入れた。
バシンッ__
苺乃さんの左足ふくらはぎに当たった私の扇子。
「や、やった……!」
出来なかったことが出来た時の達成感は
気持ちがMAXで昂るほど嬉しかった。
「この短時間でよく考えたでちね……」
あれほど考えるなと言ったのに、我を貫き通す姿は
カッコイイと苺乃さんはやれやれと呆れながらも
褒めてくれた。
「でも、その奇抜な作戦はもう雛には通用しないでち!」
あと2本はどうとるつもりでしゅか?と言う苺乃さん。
その一言で、彼女の負けず嫌いな一面が
見れたような気がした。
「根性で粘ります!」
「魔物の前で根性論かましたら死ぬでち。」
バシッ__
何も分かってないでちね〜と
私は、苺乃さんから今日一鋭い攻撃を食らう。
「ひぃ、痛いよぉ……。」
あの後、私は苺乃さんへ攻撃を入れられず
私は、お昼休憩までコテンパにされた。




