第89話〜追うべき者〜
朝9時半__
アトリエにいる全員の支度が完了する。
「わ、私も行くんですか……?」
昨夜、地下に泊まった霧香さんは
アトリエの騒音アラームにより、
かなうさんと揃って 1時間前に起床した。
しかし、準備が整った今
玄関前で外へ行きたくないと嘆いている。
「もちろん。そうじゃなきゃ意味が無いからな。」
対抗戦へ向けても、外出のリハビリをしなくては
いけないとかなうさんは言う。
「それに、ここも安全か分からないからな。
今はレフも帰省中で居ないんだし。」
ログインしている時は誰かと一緒に行動するようにと
かなうさんは、霧香さんの頭を撫でた。
「お姉様……私を想って……!」
嬉しいですと言って、照れた顔を髪で隠す霧香さん。
か、可愛い……というか姉妹てぇてぇなぁ!
王子と姫のやり取りでも見てるのかと思った。
「霧香、俺も守れるぞ。」
元気になったわっさんがポンと
自身の胸を叩いて主張した。
なんて健気な犬なんだ……。
わっさんのこういうところ好きだなぁ。
「ふふっ。頼もしいです。」
ありがとうと言って、霧香さんはわっさんを
一撫でして抱えた。
「じゃあ出発するぞ。」
かなうさんは、私達をアトリエから出して鍵をかけた。
「うつつさん、わっさんをお願いします。」
「あ、はい!」
霧香さんに渡されるわっさん。
バサッ__
そして、霧香さんは大きめの傘を差した。
「日傘ですか……?」
「え?あぁ……これは視線避けです。」
視線避けとは言うが、
傘が大きいせいで逆に目立っている気がする……。
「仕方ないなぁ……幽霞の主」
かなうさんが霧香さんへ魔法をかけると、
霧香さんの姿が見えなくなった。
「き、消えた!?」
「いえ、居ます。」
「居ないですよ!?」
そこに居ないはずの霧香さんの声が聞こえる。
「透明魔法かけただけだから存在はあるよ。
言うて効果は2分だけど。」
透明魔法も基礎魔法の1つ。
これくらい覚えとけとかなうさんに怒られてしまった。
あぁ……耳が痛い。
私は、話を変えるようにかなうさんへ行き先を聞いた。
「訓練ってどこでやるんですか……?」
わっさんがナビをし、向かう先は
クエスト申請出来る集会所では無かった。
「9区に仮想戦闘施設っていう、
魔物との討伐シュミレーションしたり、技を教えあったり
そう言った練習に特化した場所があるんだよ。」
へぇ……あれかな……
私が職業試験受けた部屋みたいな。
クエストで実践をする前に練習しておきたいみたいな人も
やはりいるらしく、ユーザーの要望で作られたらしい。
まぁそうだよね……
このゲーム、リアルに死んだら終わりだもの……。
「大雅や愛依達ともそこで待ち合わせしてる。」
わっさんはそう言うと、
2区内にあるエレベーターの場所まで私達を導いた。
霧香さんへかけられていた透明魔法の効果も切れ、
彼女はエレベーターへ入るために傘を閉じた。
「ありがとう、わっさん。9区でしたよね?」
「あぁ。」
最初にエレベーターへ入った私。
全員が入ったことを確認し、9区行きのボタンを押した。
「今日は、体術と基礎魔法を2時間ずつやる。」
「え゙っ……」
つまり、4時間訓練するってこと……?
「大丈夫。予約してる部屋は貸切で、
他のギルドが偵察出来る環境ではないから安心して。」
「いやいや、そこじゃなくて……!!」
まぁ、それも心配ではあったけど!!
「よ、4時間……死んじゃう……体力枯渇します……。」
既に溶けそうな霧香さん。
私も、始める前から気が遠くなりそうだ……。
「そうは言っても、これはキミ達が
自分自身を守るための訓練でもあるから……。」
妥協は出来ないよとかなうさんは困ったように笑った。
「お昼は、雛にお弁当作ってもらってるから
頑張ろうね。」
そんな……どんなに苺乃さんの料理が美味しいとしても
飯で釣れるのは中学生までですよかなうさん。
「はい!頑張ります!」
いや、居たわ。
めっちゃ目キラキラさせてる。
「お弁当楽しみです!」
ピクニックみたいで良いですねとニコニコの霧香さん。
この人ほんとに引きこもり生活送ってたの……?
ピクニックというまさかのワードは、もはや
中学生通り越して、わんぱく小学生の回答であった。
「雛は料理上手いからな〜。楽しみだね。」
かなうさんもよだれを垂らしながら笑顔を浮かべている。
さっき姉妹てぇてぇとか思った人誰?
やっぱ、ちょっとこの姉妹可笑しいかも……。
ツッコミ不在の今、私はこのエレベーターという
狭い空間で、オチのない地獄の会話に
付き合うしか無かった。
ポォン__
エレベーター上部に表示された9区到着の案内。
それはまさに私にとっての吉報。
「着きましたよ。」
私は、開閉ボタンを押して
クレイジー姉妹をエレベーターから降ろす。
「ありがとう。ここからすぐ近くに
真四角の白い建物があると思うんだけど……。」
私もエレベーターから降りて、周りを見渡した。
「あれですかね……?」
他の建物よりも大きく、真っ白な四角い建物を見つけた。
「そうそう。3人も、もうロビーで待ってるみたい。」
集合時間は10時のはずだが、今は9時50分。
全員10分前行動出来るって
ちょっと、大人としてカッコよすぎるな。
私が社畜してた時なんか、取引先の会社とか上司とか
時間にルーズな人ばかりだったから……。
うぅ……思い出したら吐きそうだ……やめよう。
「ほら、うつつ。置いてくぞー。」
「あ!待ってください!!」
わっさんを抱え、かなうさん達の後ろを着いていく。
かなうさんだからだろうか?
そのカッコイイ背中を、どこまでも追いかけたい
なんて私は思った。
本日、YouTubeにてショート動画もアップしております!




