第6話〜焦燥〜
かなう視点です
「うつつ?!!!!」
転移が完了した後、
そこには私とまゆりの姿しか無かった。
クソッ……!!!
離すなってあれだけ言ったのに……。
私の胸に、言いようのない焦燥が広がる。
「うつつ様、無事だと良いのですが…。」
私の背中を、まゆりが優しく撫でる。
……そんな都合のいい奇跡がこの世界に
いくつもあるわけないと思いながら、
私は思考と反対の言葉を口に出す。
「そうだね。戦闘禁止区域に
ワープしてれば良いんだけどね……。
何せあの子不運だから分からないな。」
転移魔法はとても便利な物だ。
しかし、失敗すればその代償はとてつもなく重い。
転移魔法を使用するのには時間の制限があり、
基本唱えたものしか入ることが出来ない。
まず、うつつには転移魔法を呼び出すほどの
魔力は持っていないし、この世界に
まだ慣れていない彼女にとって1人でいることは、
とても危険で過酷なものだ。
「不運なのですか…。」
「昨日招待リンクで雷黒神龍戦に
巻き込まれてた。1人で奴の前に突っ立ってたよ。」
本来、雷黒神龍や夜猫冥神戦に参加するには、
そのマップに行くためのレベル条件がある。
「雷黒神龍戦ってもしかしてイベントのやつですか……?」
奴らが現れる【漆黒の森オミナス】のマップは
レベル70からクエスト申請が出来るシステムに
なっているが、初心者を雷黒神龍に招待して
クリアすると、通常の報酬に加えて高レア資材や
衣装が貰えるというゲーム内イベントが最近、
期間限定で始まった。
「そうだと思う。森に気絶してる奴いたし。
息子が帰ってこない!!って…その気絶してた奴の
母親が大騒ぎで"事務所"に来てさ〜。」
レベル70で、雷黒神龍は
ほぼ討伐不可能レベル。
マップに入れても、その魔物に見合ったレベルとは
限らない。
「私が母親からの依頼を受けて急いで来たから
良かったものの、居なかったら2人とも死んでたね。」
「流石、かなう様……!
まるでヒーローのようですね……!」
キラキラとしたまゆりの瞳から伝わる熱は、
私への尊敬で溢れていた。
雷黒神龍はこの世界でも
トップクラスに強く、レベル200到達でやっと
マトモに戦えるレベルだ。
"4年近く"この世界にログインしている私は、
最高レベルの500までカンスト済み。
"魔物以上の魔物"になってしまっている。
そのうち帝月かなう討伐イベントとか来ないよな……?
そうなったらマジ勘弁よ。
「……それじゃあ、うつつ様はそのイベントに
巻き込まれていたということなんですね……。」
「そういうことになるね。」
突然現れたうつつの存在に、まゆりは納得したと言った。
普段私が誰とも連まないから気になったのだろう。
霧香は?と思ったが、霧香は私の拠点で
引きこもっているだけだから、
まゆりの中ではノーカンらしい。
「一日うつつと一緒に過ごしてた感じ、
彼女根性ありそうだったし"生きなきゃ"っていう
本能で何とかなるかも。」
「うつつ様は芯が強いんですね。
それを聞いて安心しました。
しかし……帰る手段が絶望的ですね……。」
クエストで使用してる転移ゲートは、
転移魔法が使えない者達でも気軽に使用することが
出来るよう開発されているが、"クエスト開始時"と
"アイテム回収後"にしか現れない。
集会所でクエストを申請した者のみが、
そのゲートを通れる仕組みになっている。
「……無事だといいのですが。」
少しツリ目気味なまゆりの目尻が下がる。
うつつのようにその権限が無い者が通るには、
ゲートを通る権利のある者が、ゲートとの
媒介者になる必要がある。
手っ取り早いその方法が"手を繋ぐこと"だった。
その仕組みを、うつつは手を離したことによって
気づいたかもしれないが__
転移先に、転移魔法が使える人がいなければ
気づいたところでの話だ。
「こんな時私のスマホが壊れてなければな。」
年も日付も時間も全て0で固まった画面を
まゆりに見せた。
「あらぁ……これは悲惨ですね。」
「だろ?修理屋に出しても役に立たなかったよ。」
このゲームは何故か着用中の服とスマホだけ持ち込め、
現実と連携できる仕様になっている。
通話が出来ないことを除けば、
この世界で不便なことなんてない気がする。
あとはビジュアルか。
これも現実のまま。
キャラクタークリエイトしたい人には向いてないな。
変装程度は出来るけども。
「なんで携帯ショップは無いのかね。」
「それは言うまでもないのでは…。」
確かに、これが"ゲーム"だという認識は
言わずとも皆が知っている。
まぁ、あったとしても
データの引き継ぎは困難だろうけど__
「と言うより、かなう様がログアウトすれば
全て解決すると思うのですが。」
まゆりは痛いところを突いてくる。
「確かにね。でもここに3年もいたんだ、
現実が怖くて帰れないよ。」
「ふふふ。またまた面白いジョークを。
現実は何も変わってませんよ。」
本当に何も変わっていないのだろうか__
自分の知らない現実を見れている者に
少し嫉妬をした。
だからこそ初対面で何も分からないうつつを、
この世界に縛ってしまうような事も
軽く言えてしまったのだろう。
「まゆりは本当に優しいね。
うつつが居なくて焦ってたけど、
ここにまゆりが居てくれたから落ち着けているよ。」
私よりもずっと、この子は優しい。
「かなう様と話す機会滅多にないですし、
今は私がこうしてかなう様を独り占め出来てるので
気にすることは何もないですよ。」
私の手を取り、両手で包むまゆり。
その手からは彼女の温かさが伝わってくる。
「まゆり〜!!」
私はまゆりに抱きついた。
いやもう好きすぎるて、この子。
「やっぱここにおったんやな。
まゆりちゃんの事やから、かなうを俺から
引き離せる場所に来てはると思ったわ。」
遠くから聞こえてきた紫雨の声。
クエスト用転移ゲートは、クエストクリア後に限り
望めば行き先を変えることもできる。
「リーダーばかり、
かなう様とお話してズルいんですよ!」
行き先を帰るなんて便利な魔法、
簡単なことでは無いが、彼女は陰陽師。
符に書いて唱えれば、私のスキル・全能魔法よりも
遥かに使えるものを持っている。
そうして連れてこられたのが
彼女のテリトリーである巫神社。
まゆりは、現実では大学に通いながら
家業の手伝いで巫女の仕事をしてる。
この世界の人の平穏を願って、
ゲームにも神社を建てたと前に聞いたことがある。
鳥居の外から、実が大量のおにぎりを抱えて
走ってきた。
「実様、足元に気をつけてくださいね。」
ふらふらと走っている実にまゆりが注意を促す。
一体何個分のおにぎりを持ってきたんだ?
あれでは前が見えてないだろう。
紫雨はというと……
結界を張られて鳥居の内側に入られない様子。
中々に面白いツラだ。
時間は狂っていても写真機能は使える。
私は紫雨の可哀想な様子を切り撮った。
「かなう、何ニヤニヤしながら撮ってるん!!
俺の視力は裸眼で2.0!全部見えてるからな!」
ピーピー鳴いているAYAKASHIのリーダーは、
そのうち諦めて帰るであろう。
「あれ?新しいお姉ちゃんは?」
一緒に食べようと思って
おにぎりいっぱい持ってきたんだけど……
なんて言い実はうつつを探している。
「ワープした。」
「まさか、うつつちゃん手離したん?」
聞こえたのか、紫雨が遠くから会話に混ざる。
「私が念押しし過ぎたせいで、
好奇心が抑えられなかったんだろうね。」
「あちゃー。それはやってしもうたな。」
うるせぇ!!私だって反省してるんだよ!!
「あれ?リーダーまだいたんですね。」
「居たってええやろ!まゆりちゃん辛辣〜!」
不憫なリーダーさんだこと。
そのうち、うつつからも罵倒を浴びたりして。
「かなうのとこの"獣"なら居場所分かるんちゃう?」
「わっさん!!」
あー…。"わっさん"……その手があったか。
でも、役に立つかな…?
私は実からおにぎりを一つもらい、考える。
「やっぱ実のところおにぎり美味いわ。」
「へへっ!俺が育てたお米だもん!」
嬉しそうに照れ笑いする実。
1人で黙々とおにぎりを頬張っている。
ほんと癒されるわ〜。
「うつつ様探し、私達も手伝います。
良いですよね!リーダー!」
もう結界外してあげれば良いのに。
まゆりは紫雨に向かって大声で聞いた。
「それじゃあ、一先ずアトリエにいるわっさんを
迎えに行きますか。」
ここからそう遠くない、
アトリエへ向かって私達は歩き出した。




