第80話〜戦わずとも〜
初のグラさん視点です
「こ、こちらのクエストで大丈夫でしょうか……っ!」
「ん。合ってるで。」
ポンコツで有名な受付嬢の声が
産まれたての子鹿のように震えていた。
私の言葉遣いのせいやろか。それとも目つきかぁ?
「で、では……しゃっ!3番ゲートから
お入りくださいっ!!」
「どうも〜。」
めっちゃ噛みまくりやんけ。
これでも、関西弁抑えてる方なんやけどなぁ……
と思いながら言われた通り3番ゲートへと向かう。
私が去ってホッと落ち着く様子が
通り道にある休憩所のガラス仕切りから反射して見えた。
……にしても久しぶりやなぁ。
え?1年ぶりとかか?
元々、こう言ったクエストが目的で
このゲーム遊んでるわけやないししなぁ。
ポキッ__
3番ゲートへ着いた私は
戦闘の準備がてら、ポキポキと指を鳴らす。
「ほな、1年分稼いできますか。」
現れた銀河のゲートを潜り、
私はフィールドへとワープした。
♢セレナーデ海岸__
近くで聴こえる、心地の良い波の音。
ワープして到着した砂浜には私以外にも
クエストへ参加しに来た人達がチラホラといた。
流石に私は、久々のクエストへ
ソロで参加するほどの勇者ではない。
かなうさんくらい強い人やったらソロの方が気楽やけど
メカ作りばかりしてたせいでランクも30ちょいやしな。
毎日コツコツやっとけば良かったか?
なんて今更後悔しても過去には戻れへん。
今後も人類の技術に伸びしろがあるんやったら
私はきっと、過去に戻れる装置でも作るだろう。
「あれ……貴方は……?」
若い男性に声をかけられた。
よれよれで少し汚れた白衣に、
男にしては綺麗で長い白髪のポニーテール。
タレ目で優しそうな顔をした男に見覚えがあった。
「あぁ……見た事あるなぁ思ったら、
かなうさんの先生やな。どうも。茉城かぐら言います。」
私は、ぺこりと頭を下げた。
「やはり…!かぐらさんだね。
僕は、天科智です。これからよろしくね。」
そう言って手を差し出す天科さん。
私はその手を握り握手を交わした。
随分、社交的な人やなぁ。
よろしくなんて……今日はたまたま会っただけやし
そんな機会ないやろ……。
「あ。」
「……?」
気づいてしまった私は、
握手していた手を咄嗟に離した。
天科さんは私の行動に不思議な顔をしたが、
すぐに理解したようだった。
「あぁ……気にしないで。
僕はそんなズルいことはしないから。」
彼はギルド対抗戦で、私達の敵になる相手。
ここで仲良くしたり手の内を見せるのは
非常にデメリットを感じる。
そんな私の心情を察するように
天科さんは気にしないでと優しく笑った。
「そう言われてもなぁ……。」
「じゃあ、お互い戦わずに
他の方に任せてクエストクリアを待つかい?」
確かに、ここで私達が魔物に手を出さなくても
他の人達に任せておけばクリア扱いになる
共闘クエストではある。
その分、経験値も上がらんし無報酬扱いにはなるけど。
フィールドの空間が好きだからとか、
強い人の戦闘スタイルを学びたいからって理由で
一定数そういった人も稀に存在する。
「僕、別に戦いに来たわけじゃないしね。」
海が見たくなってここに来たという天科さん。
「海ならリブリー・マージュ内でも見れたんちゃうか?」
3区のヌーンビーチから見える海の方が圧倒的に綺麗だ。
展望塔もあるし最高の景色を楽しめる。
セレナーデ海岸なんて、攻撃してくる魔物が
うじゃうじゃおるし……海を楽しむには危険なトコやろ。
「そうだけど、ここが1番好きなんだ。」
それでもここを選ぶ理由はただの"好き"だった。
「なるほどなぁ。それならよう分かるわ。」
理屈を好きが上回る瞬間があることを
私はよく知っていた。
まさにそんな考えで生きているのが私だ。
このゲームを始める前、とある噂をミステリー掲示板で
見かけ、真実か確かめるために来た。
その噂は……ファントム・ストーリーは虚構のゲームで
実際はどこまでいっても現実だという話だ。
その噂を流した投稿主もまた、別のSNSで
そんなことを呟いている人が居たと発言していて、
真実かどうかは確かめ難い内容ではあった。
そんな投稿主が言ってた呟きは、
いくら検索してもヒットせんかった。
「あ、でも……かぐらさんはクエストのために
来たんだよね?」
天科さんは、ごめんねと申し訳なさそうに
眉毛を下げ、手を合わせて謝った。
「そうやけど、別にええで。いつでも来れるしなぁ。」
まぁ、無報酬はキツいが……。
「それもそうだね。なら、大丈夫か。」
私の言葉に安心した天科さん。
一気にクエストへの熱も冷めた私は腰を下ろし、
大量の魔物が浮かぶ海をボーッと眺めた。
こんな状況で、私は2年前の出来事を思い出す。
私がこのゲームへ足を踏み込んだ後、不思議なことに
ファントム・ストーリーの噂を流した掲示板もまた
姿を消した。
でも、同時に私はゲーム内である人物に出会った。
それが、かなうさんである。
彼女もまたこのゲーム内では噂になっている人物やった。
私はただただミステリーオタクで、探偵というワードに
惹かれて彼女に近付いた。
クエストに参加しなくてもこのゲームを楽しめているのは
半ば、彼女が私のツボにハマる面白いことを
常にしているからなのかもしれへんなぁ。
「かなうさんとは仲がいいの?」
仲がいいと聞かれると、すぐに"はい"とは答えにくい。
「ぼちぼち?仲良いと言うよりは
互いに手を貸してる感じやなぁ。」
今風に言うと、ビジネスパートナーってところやな。
事務所メンバーの霧香さんや米丸さん
それから、うつつさんとは違って
私とかなうさんの関係は情では成り立っていない。
たまに不安になる。どちらかが手を離したら……
その関係はすぐに破錠するやろなと。




