第5話〜AYAKASHI〜
「炊きたてー!!炊飯防壁!!」
小さい男の子が技を唱えると
水晶のような丸いものが現れ、
紫雨さんとまゆりさんの身体に吸収される。
「あいつの名前は、独楽千 実。
技名が独特すぎる AYAKASHIのタンクだ。
ちなみに12歳。」
「12歳?!」
ガチショタじゃん!!!!?
「ゲームに年齢は関係ない。
実のセンスが証明してるよな。
さっきの技は味方の防御力アップだね。」
なるほど……。
確かに、攻撃だけではS級クラスの魔物を
攻略するの難しそうだもんね。
味方にバフをかけることで耐久や攻撃を
さらに上げて倒していくんだね。
「百識・万象照覧」
変わった手と指の動きをしながら術を唱えるまゆりさん。
「巫まゆり。彼女は陰陽師だ。
あれは彼女のスキルで、敵の情報を読み取る解析スキル。見抜いた弱点を味方に共有している。」
「かっこいい……!」
「ふふん。だろ?」
まゆりさんを褒められて何故か嬉しそうなかなうさん。
紫雨さんの時とは大違いだ……。
「式神・幽蝶」
まゆりさんは式神を取り出し、唱えた。
彼女が唱えると夜猫冥神の顔を周りを囲むように無数の蝶が行動を封じている。
いわゆるデバフと言うやつか。
綺麗な桜色をした蝶がキラキラと輝いていて
とても綺麗だ。
隣にいるかなうさんに関しては、うっとりしちゃってる。
「まゆりちゃんばかり見せ場作ってズルいわ〜。」
俺にも遊ばせてと動き出した紫雨さん。
「深紅の夜想曲」
袴に厚底の草履という機動性最悪な組み合せの
衣装なのに、そんな事を感じさせないほど
紫雨さんの動きは軽やかだった。
木から木へとメトロノームのように止まることなく
高速移動を繰り返し、夜猫冥神に連撃している。
「アイツは……剣士ではあるけど、珍しい妖刀使いだよ。口だけじゃなくて実力もあるのが憎いところ。」
かなうさんは両手の中指を立てながら、
紫雨さんのこと10割中2割くらい褒めていた。
その指しまってください……。
「なんか俺応援されとるみたいやな。恥ずかしいわ〜。」
本人は気にしてないみたいだけど。
連撃したことにより、霧が分散され
1箇所に黒い塊のようなものが現れた。
これがきっと夜猫冥神の核__
弱点なのだろう。
「ほな、独楽千に美味しいところあげようか。」
独楽千くんの攻撃が当たらないよう、
紫雨さんは素早く退避する。
S級相手だというのに、全員傷一つなく
夜猫冥神をボコボコにしている。
「行くよー!!握飯爆弾!!」
ドカーンッッ!!!!
三角の白いボムが核に向かって投げられ爆発した。
「相変わらずダサいネーミングセンスだなっ……!」
あひゃひゃと笑うかなうさん。
「かなうさん失礼ですよ……。」
分からなくもないけど、
きっと本人は気に入ってるであろう。
頑張っている子供を大人が馬鹿にするのは
良くないと感じた。
「ごめんごめん。
もちろん実のことは尊敬はしてるよ。
私には出来ないことを彼はセンスで出来ちゃっている。
敵も見ての通り__ね?」
夜猫冥神の禍々しい姿は消え去り、
森には再び空から光が差し込む。
S級魔物を相手に、AYAKASHIの皆さんは
一瞬にして勝利を掴んでいた。
「凄い……。」
こうして見ると、AYAKASHIの皆さんが強すぎるのか、
夜猫冥神が大したことなかったのか、
分からないほどの時間だった。
ドロップしたアイテムを独楽千くんとまゆりさんが
回収している中、紫雨さんが私達の元へ来た。
「かなうも見てへんと、
一緒にやったらよかったんちゃう?」
「ほら、私はうつつを守る役目があったから。」
私がここにいなければ、
かなうさんも伸び伸びと討伐に参加出来たのかな?
そう思うと、彼女の日常を壊しているようで
少し苦しくなった。
「うつつ」
不運な目によく遭う私が、
本当にここに居てい良のだろうか。
「おーい」
やっぱり、ログアウトして再就職の道を選んだ方が
今このゲームを楽しんでいる人達にも
迷惑かけずに済むんじゃないかと思ってしまう。
「うつつちゃーん」
そもそもこうなったのも、
私がスマホを落としたことが原因で……。
一度考え始めると止まらなくなってしまう
私の悪い癖。
「うつつ!!!」
「ふぁぁあい!!!?!」
突然耳元で大きな声で呼ばれ変な声が出た。
「ふふっ何その声!
何回呼んでも返事がなかったからさ。」
もしかして、迷惑かけてるとか思ってる?
なんて痛いところを突いてくるかなうさん。
「まぁ、それなりには……。」
嘘つく必要もないと思った私は正直に話した。
「私から誘ってるんだから、迷惑だと思うこともないし、うつつを見捨てることもない。
ネガティブ思考になるのも分かるよ。」
今まで触れてこなかった世界なのだから
不安になるのは当たり前だと、
かなうさんは今の私を受け入れてくれた。
その言葉が私にとってはとても嬉しかった。
今までの生活や私の思いを否定することなく
全てを肯定してくれた。
「きっと歓迎してるのは私だけじゃない。
AYAKASHIやアトリエに住んでる仲間も
うつつを歓迎してくれる。」
「せやせや。うつつちゃんさえよかったら、
いつでもうちのギルド来たらええんやで?」
「却下」
「なんでかなうが勝手に決めんの?
ほんま許されへんわ〜!」
「うつつが"断れない性格"だからだよ。」
「そうなん?!」
なんだかこのやり取りも見ていて
面白くなってきたかも。
「そうですね…今はちょっと、ギルドは…。
ハードルが高すぎるというか…
馴染むことが先だと思うので。」
「そか、入りたくなったら
いつでも歓迎するから言うてな?」
「はい。」
紫雨さんは私の頭を優しく撫でた。
なんだか、昔同じ施設にいた優しいお兄さんみたい。
こんな感じでいつも私のことを
可愛がってくれてたような…。
少しだけ懐かしい気持ちになった。
「リーダー、回収終わりましたよ。」
「食材はなかったよ〜。え〜ん!」
ドロップしたアイテムを回収し終えた2人もまた
こちらへやってきた。
「当たり前やろ!
あの恐ろしい猫から食材出て来ると思うか?!」
万が一出てきても、ゾッとして食えへん〜!!
と身体をくねくねさせる紫雨さん。
なんだか、その動きもヌルヌルと柔軟すぎて
ゾッとする…。
アイテムを回収したことによって
クエストクリアの文字が宙に表示され、
ゲートが3つ現れる。
AYAKASHIのメンバーと数がピッタリだ。
「ゲートが見えましたよ。
リーダーは置いて帰りましょうか。かなう様、お手を。」
まゆりさんは、かなうさんに手を差し出した。
「ははっ。それは名案だ。」
まゆりさんも紫雨さんに辛辣なんだな……。
可哀想に。
私は紫雨さん向かって合掌した。
「うつつちゃん?!そんな哀れな目で見んといてー!」
「耳を貸すなうつつ。まゆりに置いてかれるぞ。」
置いてかれるのは私としてもすごく困る。
「俺だって転移魔法使えるっちゅうのに……。」
ぼそぼそと悲しげに呟く紫雨さんもまた
実くんと一緒に迎えのゲートに飲み込まれていく。
「ほら、うつつ。手を掴んで。
"絶対"離さないようにね。」
かなうさんは毎回ゲートをくぐる時
"絶対に"手を離すなと言う。
「……。」
これには何か意味があるのだろうか?
今回はかなうさんもまた、
まゆりさんの手を掴んでいる。
転移魔法使用に時間の制限があるように、
転移そのものが何か仕組みがありそう。
この世界について、少しでも多く体験して
知ることが出来たら__
私もかなうさん達の役に立てるかな…?
そう思ったら、私の中での好奇心が抑えられず
つい、私はかなうさんの手を離してしまった__




