第54話〜解消されない不安〜
「グミ好き〜?あ、キャンディもあるよ。」
今からピクニックでも始まるのだろうか。
取り調べ室の机の上に、お菓子を広げる男の人。
「遠慮しときます……。」
それより、話を詰めないのか……?
目の前の男がチャラチャラとしているせいで、
自分だけが不安に駆られる。
「まぁまぁ、ここ滅多に入れない場所なんだから
ゆっくり堪能してよ。」
そうは言われても見知らぬ男と
狭い空間に2人きりとはかなり気まずい。
「でも、君がそんな急かすなら尋問を始めようか。」
男の人は棒付きのキャンディを口に入れて
ニコリと笑った。
「まずは、君の名前を聞こう。」
そう言ってタブレットを取りだした。
「鳴宮うつつです。」
「鳴宮……うつつ……っと。」
その人は、タブレットに私の名前を打ち込んだ。
「ちなみに僕は、九条亘。
九条幻警か、わたるんって呼んでくれたら嬉しいよ♪」
バチンとウインクを決めるその人。
こんな場で"わたるん"なんて……。
そんなファンシーな呼び方したくない。
九条幻警って呼ばせてもらおう……。
「鳴宮うつつ。20歳女性。このゲームには、ちょうど
20日前に招待で入ってきたみたいだねぇ。」
そのタブレットには、このゲームに関する
データベースが載っているのだろう。
淡々と私の情報を口にする九条幻警。
「一緒にいた"女性"の名前は?」
その言葉に私は少し引っかかった。
「なぜ女だと……?」
中性的な見た目と声をしている彼女を
ハッキリと女性だと言える人はきっと少ない。
私だって、声だけじゃ分からなかった。
「僕、女の子好きだから分かるんだよね〜。」
なんてにこにこと笑っている九条幻警。
「と言うのは半分冗談で……喉元を見れば分かるよ。」
あぁ……そういう……。
確かに喉元は隠れていなかった。
流石、幻警と言うべきなのだろうか。
観察力が長けていると感じた。
「それで?名前は。
知らない人というジョークは通用しないよ。」
予め私が変な嘘をつかないようにと、釘を打たれる。
「藤宮フィンリーです…。」
仕方なく、彼女の名前を教えた。
私を盾に一度逃げたんだ……これくらい許して欲しい。
「藤宮フィンリーね。」
また、タブレットに名前を打ち込んだ。
「ん?可笑しいな。」
嘘ついてないよね?と九条幻警に詰められる。
「ついてないですよ!」
チラリと見えたタブレット。
[該当のデータが存在しません。]
そこには、検索に弾かれた画面が映し出されていた。
どういうこと……?
なんで私のデータはあって、
フィンちゃんのデータはないの?
九条幻警も原因が分からないせいか、
流石に顔を顰めていた。
「まぁ、こっちは後で調べよう。
イベントに来ていた客から通報があったけど、
君達は何をしていたの?」
やっと本題に到着した気がした。
「フィンちゃんがキャラバンで買った商品を
見せてくれたんです。」
それが、九条幻警の手も射ったあの矢で……。
と私は説明をする。
「あれね〜。まぁ、対魔物用だったから
痛くなかったよね。」
あの時は本当にヒヤヒヤした。
「ただ、フィンちゃんが試し打ちで
弓を構えていたところに貴方が来て……。」
「うんうん。なるほどねぇ。」
私が話した内容を証言として、
九条幻警はまとめてタブレットへ打ち込んでいた。
そして一息ついて、彼はこう言った。
「それなら早く言ってよ〜!!」
捕まえてここまで連れてくる必要なかったじゃ〜ん。
しょーもなっ!と言ってキャンディを粉々に噛み砕いた。
「ココだけの話。最近、物騒でさ〜。
対魔物用"以外の"武器も流通してるって
噂があるんだよね。」
つまりそれって……
舞依さんの時みたいな実銃が出回っているってこと……?
「誰が……何のために……?」
ますます、これがゲームなのかが分からなくなってきた。
「あの……このゲームって。」
かなうさんが答えてくれなかった疑問を
この人なら教えてくれる気がした。
「本当は……現実なんじゃないかなって……。」
私は恐怖と不安、頭に浮かんだ沢山の疑惑で
声が震えた。
「君、初心者でそこまで考えられるの凄いよ。」
驚いた顔の九条幻警。
「結論から言ってこのゲームは、現実でもあり
幻想でもある。これは遊び手によって感覚は変わる。」
つまり、答えは自分にしか分からない。
あながち、私の考えも間違いではないと
九条幻警は言った。
「折角の縁。もし不安なことや怪しい人を見かけたら、
僕に連絡するといいよ。」
そう言って、連絡先を教えてくれた。
……ここまで話した感じ、悪い人では無いのかも。
「それじゃあ、君の"飼い主"に怒られる前に
ここから出してあげないとね。」
取り調べも特に問題無かったと言って
部屋から出して貰えた。
「飼い主……?」
一体なんのことだろうか。
意外とあっさり終わってしまった取り調べに
唖然としながらも、私は幻警署を出た。
「うつつ……!!」
小走りで、幻警署に向かってきたかなうさんとわっさん。
「かなうさん!?」
どうしてここに居ると分かったのだろうか。
「全く。フィンリーに掻き回されやがって。」
息を整えて文句を言うかなうさん。
「え?」
かなうさんの口から聞く友達の名前に驚いた。
「あぁ、驚いたよ。フィンリーと知り合いなんだって?」
「はい……かなうさんも?」
そうだと首を縦に振る。
「世界って狭いな……。」
なんてボソッと呟いた言葉に
かなうさんも分かると同調した。
「無事でよかった。」
わっさんの渋い声にも慣れた私は、
今ではその声を聞くと落ち着く。
「いつも迷惑かけてすみません。」
「ただの巻き込まれだろ。」
気にするなと、私の肩を優しく叩くかなうさん。
「私……今日の、たった一日を過ごしただけで
この世界のことをもっと知りました。
でも、同時にもっと分からなくなりました。」
これからどういう気持ちで過ごしたら良いのか
正直分からない。
昼下がり、日差しが落ち着いてきた頃__
私は、現実と幻想の狭間で揺らいでいた。




