第50話〜再会〜
ファントムストーリーへ滞在してから20日目__
ここで経験していることは、普通の人が
現実で過ごしている時間と全く変わらないと感じた。
まぁ…現実で惨めな生活を送っていた私にとっては
皆が感じる"普通"も、極楽みたいな"幸せ"なんだけどね。
「今日はどこへ行くんですか?」
私は、数歩先を歩くかなうさんとわっさんの後ろを
ついて行きながら、目的地を尋ねた。
「コレクターキャラバンだ。」
かなうさんが、目を輝かせながら言った。
「コレクターキャラバン……?」
聞くと、偶数月の15日のみに開催される
ファントムストーリー内で手に入れた資材で創作し、
展示や販売をするといったマニア向けのイベントらしい。
その開催地である5区のサンライズという広場へ
私達は向かっていた。
「あれですか?コミケみたいな……。」
「確かに近いかもね。資材で薄い本は作れないけど。」
逆に作れたら驚きですよ。
「こういうイベントは横のつながりで出来てるからな。
この時にしか出会えない縁や運もあるんだ。」
交流目的で来てたりもすると、わっさんが言った。
「探偵にとっては足を踏み入れるべきイベントだよね。」
「そうだな。」
ね〜。とかなうさんとわっさんは顔を見合わせて言った。
「私とわっさんは霧香に頼まれてるクラフトの調達と
愛依ちゃんの宣伝してくるから、うつつも好きに
見て回っていいよ。宣伝は、余裕があればお願い。」
そう言って、私に舞依さんの名刺を数枚渡して
また、2時間後にと別れた。
私の手元には、新しいビジュアルで映る
愛依さんの写真が印刷された名刺。
「これで本当に良かったのかな……。」
舞依さんを消失してから1週間以上が過ぎた。
その間に、愛依さんの新しいアイドル人生が始まった。
かなうさんも私も『It's show time!!』という曲が
印象的だったこともあり、サーカスをコンセプトに
これからは、天道愛依ではなく【JOKER】という名前で
活動していくことになった。
愛依さんは、今まで髪に入っていた青のメッシュに加えて
舞依さんのトレードマークでもある赤のメッシュも
入れた。
名刺に映ったキラキラとした笑顔は、まるでピエロみたく
悲しい顔を仮面で隠しているように見えてしまう。
それでも愛依さんは、前に進むと決めた。
最後の切り札という新しい名前も
彼女にとって、新しい人生での役目なのかもしれない。
じゃあ私は何のために__
「新人アイドルJOKERをよろしくお願いします……!」
折角のキャラバンでも行く先のない私は、
通りすがる人に名刺を渡しながら考えた。
私このファントム・ストーリーで何がしたいんだろう。
クエストを頑張ってるわけでもなければ
突出した特技がある訳でもない。
ただただ、出来る人の後ろを着いて行ってるだけで
そこに私の意思はない。
1人でクエストに参加してみるべき?
いや、怖い。
ヒーラーなんて、かなうさんみたいな
討伐役職じゃないし。
「あれ……?」
もしかして、私ってただ目の前の現実が怖くて、
ゲームという平和な幻想に逃げただけじゃないの……?
いつも、かなうさんの優しさに助けられてばかり。
何も恩を返せてない。
ドンッ__
すれ違う人と肩がぶつかった。
手に持っていた名刺が宙へと舞い、地面に散らばる。
「前見て歩けよ。」
ぶつかった男の人は舌打ちをしながら、去ってしまった。
「すいません……。」
咄嗟に頭を下げて謝ったが、
その声はきっと届いていない。
私は散らばった名刺を集める。
「はぁ……。」
ため息も自然と出てしまう。
なんでこういう時に限って、地味に災難なんだか。
「相変わらずついてないようだ。」
最後の1枚を拾おうとした時、別の誰かが先に拾い
私のことを知ってるかのような口振りで毒を吐いた。
「これ貰っていいか?」
それは、拾ってくれた愛依さんの名刺だった。
「どうぞ…。ところで、どちら様で……?」
長めのポンチョを着た、私よりも背が高い人。
被っているフードからは、サラサラと銀色の短い髪が
風で靡いていた。
顔はフードでよく見えなかった。
ここで遊ぶ人達は皆、素顔を隠すのが好きなのだろうか。
まぁ、ビジュアルと名前に関する個人情報は
現実のままだもんね。隠したい人もいるか。
「お、覚えてないのか……?」
私の両肩を強く掴み、思い出せと圧をかけられる。
そんなぁ……めちゃめちゃ強引だな……。
でも、この中性的な声どこかで……。
「あ、華毒蜘蛛の時の。」
「そっちか。」
え?違うの?
「まぁ……そうだけど……。」
そうなんじゃん。
「あの時は、ありがとうございました。
お礼言えてなかったので。」
「別に大したことしていない。気にするな。」
そう言うと、その人はフードを外した。
「これでも思い出せないか……?」
フードを外して露わになったその顔は、
私がよく知っている人物だった。
「え…………フィンちゃん……?」
私がそう言うと、その人はにこりと笑って
私を抱きしめた。
「ああ。久しぶり、うつつ。」
フィンちゃん……"藤宮フィンリー"
彼女は、同じ児童養護施設にいた私の唯一の友達。
とは言っても7歳は離れている。
3年前、私がまだ17で施設にいた頃。
突然姿を消した彼女がまさか、こんなところに居るなんて
思ってもいなかった。
「フィンちゃん、髪切ったんだね。」
「うん。」
鬱陶しいから切ったという彼女。
「フードは鬱陶しくないんだ。」
「それとこれは別。」
かなうさんは、ここでしか出会えない
縁や運もあるって言っていたけど、
これは、思わぬ出会いだったな……。
懐かしさと嬉しさでいっぱいになった私は
さっきまでモヤモヤした悩みも忘れ、
空白の3年間を埋めるかのように彼女と沢山話をした。
50話達成しました!
いつも読んでくださっている皆様ありがとうございます!
これからも、「現実的ファンタア」を何卒よろしくお願いいたします。




