第49話〜前進〜
「貴方も探偵だったの……?」
約束の時間通りに、探偵事務所へ訪れた愛依さん。
「そう。ここのボスだ。」
ソファの背もたれに腕を乗せ、
ボスだとカッコつけるかなうさん。
「一応名刺渡しておくね〜。」
そう言って、シャツの胸ポケットからケースを取り出し
中から名刺を1枚手に取って、愛依さんへ渡した。
初めて見るその名刺には、
"クールビューティ ウルトラ ジーニアス 女名探偵"と
小学生が思いつきそうな肩書きがチラリと見えた。
かなうさんのこういうところ阿呆すぎる……。
「女……?舞依ねぇは男の人って……。」
あぁ、そうだった。この子達まだ誤解してるんだった。
「性別上女だけど、キミたちが男だと思うのなら
そうなのかもしれないね。」
「ちょっと……!かなうさん、紛らわしいこと
言わないでくださいよ!」
訳の分からないことを言い始めたので、
私から訂正をしておいた。
「それで、キミは大丈夫そう?
まだ現実を受けきれてないとは思うけど……。」
かなうさんは心配した様子で、愛依さんを見た。
この2日間よく眠れなかったのか
目の下には隈が出来ていて、頬も少しコケている。
その姿は、私が社畜時代に連日残業ばかりしていた時の
姿によく似ていた。
「実は…舞依ねぇの姿が消えたんです。
そのせいで葬儀もできてなくて……。」
「え?」
消えたたという言葉に私は疑問の声が出た。
「ここにずっと居るのも報われない気がしたので、
ゲーム内の病院へ搬送されて直ぐに息を引き取った
舞依ねぇを連れて家に帰ろうとしたんです。」
それはそうだ。
家族にだって伝えなきゃいけないし、
愛依さんとしては、大事な姉を最後だけでも
安らかに眠らせてあげたいだろう。
気持ちは痛いほどに分かる。
「流石に、死体を連れて集会所から手続きしてないと
推理して、聞く。
舞依ちゃんのスマホでもログアウトしたか?
スマホがここと現実を結ぶケーブルだからな。」
このゲームで遊ぶためには1人につき1台のスマホ。
そして、他者のスマホからはログアウト出来ない。
試したことがあるから分かると、かなうさんが言った。
「もちろん。先に舞依ねぇを
ログアウトさせてから自分が……。その時にはもう、
舞依ねぇの指先からは体温がなくなっていて……。」
愛依さんの目には、大粒の涙が溜まっていた。
「お互いに違う場所からログインした可能性は……。」
私は、ふと思ったことを愛依さんへ質問をした。
一度、現実に帰ったことがあったから知っている。
このゲームは、ログイン地点とログアウト地点が
互いの世界で最後にいた場所へと戻ってくることに
なっている。
「同じ場所からログインしました…。」
あ、違かったか……。
愛依さんは、ログアウトしたら
自分しかいなかったから直ぐにログインした。
けど、ログインした時にはもう舞依さんは居なかったと
溜めていた涙を零して語った。
「いい質問だよ、うつつ。大分、見えてきた。」
え?私全然何も見えないんですけど。
くっ……これが実力の差というのか……?
悔しい。悔しいよ。
「舞依さんの件に関しては引き続き、
こちらで対応させてもらうよ。
話は少し変わるけど、依頼の方はどうする?」
この状況でプロデュースの依頼って……
どう考えても、愛依さんは乗り気ではないでしょう。
「……まだ、気持ちの整理は付かないよね。
だが、私には舞依ちゃんは愛依ちゃんに
アイドルを続けて欲しいように見えた。」
かなうさんは、パソコンを開き
ある動画を愛依さんに見せた。
それは、あの日の映像。
ステージのパフォーマンスも含めて録画してたみたいだ。
依頼があったとは言えど、
ちゃんとした運営の元でライブの撮影なんてやったら
出禁レベルでは……?
「うつつちゃんそんな顔しなーい。
私は指示しただけで、撮ったのはグラさんよ?
それに、撮影禁止なんて言われてなかったからね。」
あたかも自分は悪くないと言っているが、
かなうさんも確実に悪い。
でも、それが歴とした証拠になっているのが悔しい。あぁ、凄く悔しい。
「ちょっと記憶を掘り返すのも酷なんだけど、
最後のここだけ聞いてもらいたい。」
それは、舞依さんが最後に
かなうさんへ何かを伝えているところだった。
《あ…い……。あい……ど、る……の……ゆ……め……。》
「ここ。多分、私じゃなくて
愛依ちゃんへ何か言おうとしてるのかなって思ったの。」
それで虎太郎にスキルを使用してもらったら、
うっすらと記憶が見えたという。
「舞依ちゃんは、一時期自分の将来の夢に
迷いがあったみたい。そんな時に愛依ちゃんの、
【姉と一緒にアイドルになりたい】という夢を聞いた。」
かなうさんは、舞依さんにとっての一番の記憶を
愛依さんに伝えた。
「舞依ちゃんが今まで、前向きに努力をしてきたのは
愛依ちゃんの……"妹の夢を守る"ためだったんだよ。
それが舞依ちゃんの夢。」
彼女は立派にその夢を守ったよと、
かなうさんは優しく言った。
「っうぅ………ま……い……ねぇ……っ……!」
舞依さんの温かい記憶……そして、夢を聞いた愛依さんは
洋服の袖で涙を拭いながら、沢山想いを吐き出した。
「こ……んな……っ聞いたら……っ
アイドル……やめれないよっ……。」
涙で濡れた赤と青の瞳は、
悲しくも、より一層キラキラと輝いていた。
「分かった。それが愛依ちゃんの気持ちだね。」
これからよろしくねと、
かなうさんは彼女が泣き止むまで優しく抱きしめ
温かく迎え入れていた。
なんて、他人事のように見てるわけにはいかない。
私も気持ち程度に、温かいハーブティーを淹れた。




