第46話〜It's show time〜
「あれ?うつつさんじゃないですか。」
かなうさんの元へ行こうとしたら、
後ろから声をかけられた。
「久しぶりです。天科です。」
それは、職業試験の時に集会所で出会った
天科智さんだった。
「あ!先生も来てくれたんだね!」
かなうさんが、こっちこっちと
立ち止まっている私達を手招く。
「先生?」
「そうですよ。かなうさんは、
アカデミーの教え子です。」
そうだったんだ。
見た目も若いし、まさか先生だとは思わなかったな。
私と天科さんは、かなうさん達の元へ向かった。
「来てくれてありがとうございます。」
かなうさんがぺこりとお辞儀した。
「そんな。興味深かったからね。」
天科さんはにこりと微笑んだ。
ほんのりと薬品の香り。
会った時と変わらず白衣を着ていた。
「かなうが敬語使いはるなんて珍しいなぁ。」
「流石に私も目上の人には敬語使うわ。」
物珍しそうに見る紫雨さんに、
かなうさんはフンっと鼻を鳴らした。
「…が……ぅ。」
腕の中で小さく震える虎太郎。
天科さんが来てから様子がおかしい。
「虎太郎ちょっと…様子が…。」
「……?どうしたんでしょう。ありがとうございます。」
一旦飼い主に預けた方が良いと思った私は、
虎太郎を米丸さんへ渡した。
薬品の匂いが好きじゃなかったのかも。
「59分……そろそろやな。彼女達のステージ始まるで。」
グラさんが腕時計を見て言った。
どうやらあと1分でライブが始まるみたいだ。
結局のところお客さんは、かなうさんに招待された私達と
天科さんしかいなかった。
わっさんと虎太郎も含めたらちょうど10人…
記事と全く同じ状況である。
「テンカウント行くよー!」
ステージの袖から、舞依さんが私達に向かって
元気な声でコールする。
「「10、9、8、7、6、5、4」」
たった10人の観客だけど彼女達の気持ちに答えようと
私達は声を揃えてカウントする。
「「3、2、1…!!」」
〜♪ 〜♪
キラキラと軽やかなリズムの曲が流れ始める。
「見えない道を歩いて〜ひたすら転んだって〜
そこに〜希望はある」
右の袖から、赤いチェックの制服衣装を着た舞依さんが
歩いて登場した。
「傷つきたくなくて〜涙を隠して〜
意地を〜張った日々〜」
反対の左の袖からは、青いチェックの制服衣装を着た
愛依さんが同じように登場した。
「そ〜れでも〜変わらない心とプライド〜」
「明日も〜前だけを信じ歩いて〜」
「変わる」「変わる」「未来」「未来の」
「「扉〜えら〜ん〜で〜」」
サビ前、2人が手を重ねるのとシンクロして
ハモリが綺麗に重なった。
「迷いを打ち消そ曖昧に〜」
「愛を送るよ最大に〜」
「視力〜け〜んさ毎回C〜」
「恋は盲目よ大概に〜」
「「自分を〜愛そ〜曖昧ME〜」」
キラキラとステージ上で自分達の好きなことを表現する
舞依さんと愛依さんはとても素敵だった。
本当に、何故ファンが付かないのか分からないレベル。
ファミリーレストランのキッズメニューの裏面にある
間違い探し並に難しい問題である。
逆にここからどう手を加えていいのか分からない。
「聞いてくれてありがとう!」
「私達のデビュー曲、『曖昧Me mine』でした!」
次の曲へ入る前に、舞依さんと愛依さんが
今日初見の人達に対して自己紹介をする。
いわゆるMCタイム。
「さぁ、次の曲は!なんでょうか愛依ちゃん!」
「はい。私達の特技を混ぜたパフォーマンスにも
注目して欲しい曲になっています。」
特技…!なんだろう。わくわくする…!
私は完全に依頼そっちのけでライブを楽しんでいた。
「「聞いてください。『It's show time!!』」」
ダランダッダッダッダッダーダン♪
マジックショーのような少しお洒落な曲が流れ始めた。
「キミに分かるかい?仮面で隠したこのフェイス♪」
仮面をつけて一輪車に乗った愛依さんが
ステージ上をクルクルと華麗に回っていた。
「時計の針は止まらない♪回るメリ〜ゴ〜ランド〜♪」
こういう声も出せるんだと、少し低音な声で
舞依さんがジャグリングをしながらウインクをかました。
そのウインクは完全にかなうさんを狙い撃ちしていた。
「「退屈?それなら一緒に遊ぼうよIt's show time!!」」
愛依さんは仮面を外して、舞依さんと一緒に
楽しそうに笑った。
「カードの方がお好きなら♪朝まで相手してあげるよ♪」
「誰にも負けないポーカーフェイスでさ〜♪」
「私にAll inする覚悟も出来てないの?」
「まだまだ愛のbetが足りてないわ〜♪」
2人は投げキスを飛ばした。
よくよく見たら、2人とも
かなうさんばかりにファンサしてない?
ちょっと、私にもおこぼれで良いから欲しい…なんて。
イケメンには敵いませんよね。知ってます。
「みんな楽しんでるー?!!」
「「いえーい!!」」
舞依さんのコールに皆でレスポンスする。
気付いたら会場は一体となって盛り上がっていた。
そして、最後の1曲が終わろうとした時
誰も予想していなかった悲劇が起ころうとしていた__
パァン__
この小さなライブ会場でなるはずのない
銃声音が響き渡った。




