第45話〜嵐の前の静けさ〜
4区 Thoth Note__
ライブの開演一時間前、私とかなうさんは
チケットに書かれていたライブハウスへと来た。
「あれ?デートちゃうん?」
待ち合わせで一番最初に現れたのは紫雨さんだった。
「んなわけあるかよ。張り切りやがって。」
かなうさんの言葉通り、紫雨さんはいつにも増して
服装に気合いが入っていた。
「全くですよ。途中で、実様と出会い
同じ方向だったので、もしかしてと思ったら…。」
これまた気合いが入った服装のまゆりさんと
おにぎりを片手に持った実くんが一緒に来た。
「うつつ姉ちゃん!」
実くんは、おにぎりを口の中に押し込み
私へ抱きついてきた。
「あいああっあ!!!!」
「うんうん、落ち着いて。ゆっくり噛んでね。」
きっと、"会いたかった"と言ったのだろう。
口の中におにぎり詰まってるのが見える…。
私は、実くんの頭を撫でながら落ち着かせた。
「デートデートデートデート…。」
まゆりさんは、かなうさんをじーっと見つめながら
小言でデートと連呼していた。
かなうさんいつか呪われるんじゃ…?
「なんやなんや、AYAKASHIの皆さんも
お揃いでどうしたん?」
いつも通りのテンション感と服装のグラさんが来た。
グラさんみたいな人が1人いるだけでも
私の心が落ち着くよ…。
「私が誘った。あと、こめまるも来る。」
かなうさんもまぁ、いつも通りか。
「すみません…!遅れてしまって…!」
噂をすればなんとやら。米丸さんも来た。
「アンタどうしたんそれ。」
グラさんが米丸さんにツッコんだ。
「ライブなので、光らせたいなと思って。」
「がぅ!」
よくよく見たら、甲冑の周りが
小さな電球のついたコードで装飾されてる。
虎太郎の頭の上には光る星のカチューシャ。
「光らせ方がクリスマスツリーやないかい!!」
本当にその通りである。
「甲冑を緑にペイントして、虎太郎を頭に乗せたら
完全に歩くクリスマスツリーだね。」
「今年の冬の参考にします。」
あぁ、天然に天然を混ぜるな…。
ツッコミ諦めたグラさんも
先にライブハウスの中へ入ろうとしてるし。
「と、とりあえず中へ入りましょうか!」
このままではボケが加速すると思った私は、
中へ入る提案をした。
「そうだね。」
「ナイスだうつつ。」
かなうさんとわっさんがフォローしてくれたおかげで
何とかライブハウスの中へ入れた。
まるで幼稚園の先生をしている気分だ…。
なんで皆こんなに個性的なんだ?
頭を抱えそうだった。
「かなうくん……!!」
衣装を身にまとった舞依さんが受付の方から走ってきて、
かなうさんに抱きついた。
「おっと。怪我したら危ないよ。」
そう言ってかなうさんは受け止め、離れさせた。
「かなう"くん"?コイツおん…。おぉこわっ。」
私が思った疑問を
すかさず紫雨さんが口に出そうとしたが、
かなうさんが睨みを利かせ、紫雨さんの口を封じた。
「どうしたの?」
「なんでもないよ。終わったら話すからね。」
かなうさんは舞依さんの頭を撫でて頑張れと微笑んだ。
「うん…!」
それに顔を赤く染める舞依さん。
完全に2人の世界である。
かなうさん見た目も声も中性的だし
きっと、男だと勘違いされているのだろう。
パフォーマンスに影響しないようにあえて
口封じしているのだとしたら、この人は一体どこまで
先の未来を見据えているんだろうと私は思った。
「それより、受付も自分達でやってたの?」
「そうだよ!」
チケットを持っていたグラさんとわっさん、
それから、かなうさんから受け取っていた米丸さんは
愛依さんにチケットを見せて先に中へと入っていた。
「がぅ。」
虎太郎は何故か、ちゃっかり私の腕の中にいる。
「そういうことだ。
AYAKASHIのヤツらは1人150ウェルスな。」
虎太郎の分は私が払うと、かなうさんは
舞依さんに案内されて行ってしまった。
「え?俺ら騙されて呼ばれて自腹なんキツくない?」
「でも、150ウェルスですよ?
リーダーの奢りで私と実様の分もお願いしますね。」
「魁斗にぃ太っ腹!」
1人1500円で安くても、積もれば4500円。
なんだかいつも理不尽な紫雨さんだなと思った。
「うつつさん、来てくれてありがとうございます。」
AYAKASHIの人達が中に入っていくのを見送ってから
私は虎太郎を抱えたまま最後に受付へ行った。
「いえ!依頼とは言え、今日はお二人のライブを
楽しみに来たので気にせず…!」
私は貰っていた手作りチケットを見せた。
「その子の分のお代は先程、"イケメンなお兄さん"から
いただきましたので、そのまま入っていただいて
大丈夫ですよ。」
チケットに可愛いスタンプを押してくれた愛依さん。
イケメンなお兄さんって……もしかして
愛依さんもかなうさんのこと男だと勘違いしてる……?
まぁ、今は良いか。
私は、みんなと同じように
ステージがある部屋へと進んだ。
「がぅー!」
なんだか虎太郎も嬉しそう。
頭の星が揺れてて可愛い。
「うつつ、こっちだ。」
先に入ってたかなうさんが私を手招きした。
これからライブが始まろうとしているのに
私はなんだか落ち着かない気持ちだった。
「がぁう?」
それはパフォーマンスへの楽しみなのか、
それとも……
__私達以外のお客さんが居ないことへの不安なのか。
そんな気持ちになるのは、
私が彼女達の力になりたいからこそ思う感情だった。




