第44話〜全ては盛り付け次第〜
夜21時__
「ただいまー。」
かなうさんが帰ってきた。
「おかえりなさい。」
「おかえり。」
私とわっさんは玄関まで行き、かなうさんを迎え入れる。
「これ、約束の。」
かなうさんは、私に袋を渡した。
何が入ってるんだと、わっさんも覗いた。
「……お土産って、バナナか…。」
留守番中、お肉を期待していたわっさんは
全く違う甘い果物に気を落とした。
「うつつには、アイスも買ったから食べてね。
明日の朝ごはん用のパンも買ったよ。
あ、一緒に入ってるビールは私の。」
まるでコンビニで買い物してきたかのような
ラインアップである。
「ありがとうございます。冷蔵庫入れときますね。」
私がキッチンへ向かおうとすると、靴を揃えて
玄関の鍵を閉めたかなうさんが断った。
「いや、大丈夫。すぐ飲むから。」
そう言って、かなうさんは洗面所へ向かった。
「……バナナ。」
わっさんは未だに落ち込んでいる。
「私のアイスと一緒に食べたら美味しいかも?
パフェにしようか。」
「……!!うつつ……最高だ。」
しっぽをブンブンと振り、喜ぶわっさん。
こうしてみると本当に犬である。
「ちょっと待っててね。」
確か、キッチンにシリアルがあったよなと思いながら
グラスを2つと平皿を1枚準備をする。
平皿は、わっさん用だ。
わっさんはその方が食べやすいもんね。
一応、かなうさんからはここにある食材は
好きに使って良いよと許可を貰っている。
ただ、かなうと名前書いてあるものは
手を付けるなと言われている。
私は知ってる、この世で一番恐ろしい恨みは
食べ物の恨みだということを。
バナナをスライスして、シリアルとアイスも
一緒に盛り付けていく。
「うまそ〜じゃん。天才か?」
手を洗い、部屋着に着替えたかなうさんは
キッチンへ来て、余ったバナナの切れ端を食べた。
「私の分も作ってくれたの?優しいね。ありがと。」
「えへへ。」
大したことはしていないのに、かなうさんもわっさんも
喜んでくれて、私も嬉しい気分になった。
夜21時にこんな高カロリーを皆で食べるのは
かなり背徳感あるけど……。
かなうさんと一緒に出来上がったパフェを
リビングへ運び、ソファに座る。
「うまい、天才、最高。」
語彙力を失ったわっさんが、口周りを汚しながら
パフェを食べる。
あれ、夕飯私あげたはずなのに……。
足りなかったのかな。
その食べっぷりは、3日ご飯を与えて貰えなかった
人のようだった。
「うん、美味しいね。」
カシュ__
かなうさんはパフェを一口食べ、ビールを開けた。
ビールとパフェって合わなそうだなぁ……。
そんなことを思いながら、私はパフェを食べた。
バナナとバニラアイスの甘みがマッチして美味しい。
シリアルのサクサク感も良い食感になっていて、
組み合わせがとてもいい。
「店番はどうだった?」
パフェを食べながら、かなうさんが今日のことを聞いた。
「人来なすぎて退屈ですよ…。
あ、でも今日2人?……というよりは1組だけか……。
探偵事務所の方にお客さんが来ました。」
途中から来たグラさんと一緒に
依頼を受けることにしたと報告した。
「うんうん、一応グラさんからも報告貰ってるよ。
ありがとね。それで、その事なんだけど……」
かなうさんは、ポケットから少しシワが出来た紙を
2枚取り出した。
「今日たまたま舞依ちゃんと街で会って、貰ったんだ。」
かなうさんが取り出して見せたのは、
舞依さんと愛依さんのライブチケットだった。
「私も、愛依さんから即席で作ったものを貰いました。」
「俺の分もある。」
パフェを完食したわっさん。
全部残らず舐めとったのか、平皿はピカピカであるが
鼻上にアイスが付いていることには、気づいていない…。
「手作りチケット、愛情こもってていいよね。」
うつつとグラさん持ってるなら
もう1枚は米丸に渡すかと、かなうさんはリビングの
目立つ所へチケットを置いた。
「もしかしてチャットの連絡もライブのことですか?」
私が貰ったチケットと時間も場所も全く同じだったから
正直、連絡が来た時は驚いた。
「そう。こんな偶然って本当にあるんだね〜。」
運命みたいだと言いながら、
かなうさんはビールをゴクゴクと飲んだ。
この様子だときっと舞依さんの心配も大丈夫だろう。
事務所を飛び出して心配してたけど、
かなうさんと出会ってたのなら安心できる。
「明日のライブで彼女達のパフォーマンスを見てだね。
今のところ、ビジュアルが良いだけの双子ちゃんって
感じかな……。」
スマホで彼女達のことを調べるかなうさん。
「不安要素はかなりありますよね……。」
アイドルのことはよく知らないけど、
5年でやっと10人のファンに到達というのは
素人目で見ても危機感しか感じられなかった。
「パフェだって、グラスに盛る前は
材料を個々で食べたらそれなりに美味しいけど
それ以上の感動や特別感はないでしょ?」
どんなにビジュアルが良くても、衣装に個性がなかったり
突出したパフォーマンス能力がなきゃ売れなくなってきた
この時代は、アイドル戦国時代とも言われてもいる
なんて語るかなうさん。
「パフェが盛り付け次第で華やかに化けるように、
アイドルだってプロデュース次第でいくらでも輝ける。」
イエーイと陽気にウインクして、
目元でピースをするかなうさん。
もう、半分くらい酔ってそう。
「2人が輝けるように私が……。」
ここから彼女達を上手くプロデュースするなんて、
未経験な私に出来るのだろうか?
「初依頼で緊張してると思うけど、まずは成功失敗よりも
依頼者の気持ちに寄り添うことが大事だよ。」
明日はライブ楽しもうねと、
かなうさんはビールを飲み干し
空き缶をくしゃりと潰した。
「そうですね!」
楽しまなきゃ、ここまで努力してきた2人にも
失礼だもんね。
流石、かなうさんだなと思いながら
私は溶け始めたパフェを口にかきこんだ。




