第41話〜化けろ〜
誰の口からも本題に触れることがなかった。
大人しく座っているが、きっとグラさんも心の中では
はよ帰ってくれって思ってるのだろう……。
「それで、依頼の内容というのは……。」
このままでは空気がマズいと思った私は、
思い切って本題に触れてみた。
「それはもちろん!
このゲームで私達の名を轟かせようと思って。」
ふふんと効果音が付きそうなくらいハイテンションで
舞依さんが答えた。
あぁ、これがかなうさんの言っていた
"猫の手も借りたい"レベルの依頼ってことか……。
「正気か?現実で凄い叩かれようやったやん。
有名人気取って地味な装いしとるけど、ネットに写ってた
10人のファン以外誰も知らんでアンタらのこと。」
グラさんそんなスパッと……。
「でも!やってみなきゃ分からないじゃない!
これから私達のことを好きになる人だって居るはず!!」
バンッ__
テーブルを叩き、立ち上がる舞依さん。
その綺麗な瞳には揺るがない自信で溢れていた。
「舞依ねぇ。」
舞依さんの服の袖を掴み、座ってと促す愛依さん。
この2人の態度はどうしても熱量の差を感じる。
「愛依がここに行こうって誘ったのに、
なんでそんな縮こまってるのよ…!
言われたい放題で悔しくないわけ?!」
「それは……。」
俯く愛依さん。
あぁ……これはまずい。
姉妹の仲にも亀裂が入りそうだった。
「良いわ。私1人で頑張る。」
そう言って舞依さんは、レモンティーに
一口も手を付けず帰ってしまった。
「……すみません。」
愛依さんは申し訳なさそうに私達へ頭を下げた。
「私も失礼します。」
「ちょいまち。」
愛依さんが席を立ったところ、グラさんが引き止めた。
「さっき、舞依さんはこう言ってたな。
"愛依がここに行こうって誘ったのに"って……。」
そう言えば確かに……!
「舞依さんはそれに付き添い人として来ただけで、
依頼しに来たのはアンタの方ちゃう?愛依さん。」
グラさんはノートパソコンをテーブルに置き、
愛依さんの目を見て言った。
「……それは……はい。そうです。」
逃げられないと悟ったのか
愛依さんは、再びソファに腰を掛けた。
「折角だからレモンティーでも飲んだらいい。」
そう言ったわっさんは、舞依さんが居なくなって
空いたソファへと座った。
「…良ければ聞かせてくれませんか?
愛依さんが私達に相談しようと思ったこと。」
話を聞くくらいなら私だって出来る。
少しでも彼女達の悩みの種の解決になれれば…。
「分かりました。」
愛依さんは、グラスにストローを差して
レモンティーを口に含んだ。
「先程の記事の通り、私達2人は現実世界で
アイドルをやっています。」
デビューして5年も経つというのに、
ファンはやっと10人。
…ここまでは頑張ってこれた。
けど、見えない誰かからの誹謗中傷に
面白可笑しく取り上げられる記事。
この地味な服装も有名人を気取って訳ではなく
人からの視線が怖くてしていたものだと。
愛依さんは少しずつ話してくれた。
「舞依ねぇの前では言えないけど正直、キツい。
辞めたいんですアイドルなんて。でも……」
震えた声で辞めたいと言った。
でも、と続く言葉に私は耳を傾けた。
「舞依ねぇって馬鹿なんです。
ずっと前しか見えないって感じで、
ステージに立つとキラキラしていて……。」
キラキラの裏で血が滲むような努力をしていて
「そんな馬鹿な人がずっと隣に居るんですよ……
辞めれるわけないじゃないですか。」
話を聞いていて私は思った。
確かに、舞依さんのメンタルの強さや努力家なところは
凄いし尊敬したい。
でも、それについて行く愛依さんだって凄い。
なぜそんな魅力的な2人に
スポットライトが当たらないのか
私は、不思議で仕方がなかった。
「このゲームは、私達の趣味というか
息抜きで遊んでいたんですが…ある噂を聞いて…。」
噂……?
「その噂、ここの探偵事務所のことやな。」
も〜最近依頼沢山でたまらんわぁ〜。
うずうずしてしゃーないねん。
と肩を回しながら言うグラさん。
「はい。ここに来ればどんな悩みも解決してくれる
敏腕な探偵さんがいると聞いて。」
私はここの探偵事務所のことまだよく知らないけど
噂で流れるくらいならきっとそうなのだろう。
「このゲームは"第2の人生を楽しむ"をモットーに
自由度の高いところが魅力ですから……もしかしたら、
ここでなら活動も上手くいくかなって。」
「うんうん。なるほどなぁ。」
きっと、2人にとっては
ここが最後の頼みの綱だったのだろう。
「要はプロデュースして欲しいってことか。
俺、Pになる。」
「いや、わっさんは無理やろ。」
ハッキリ無理だとグラさんに突っ込まれて
ガビーンと落ち込むわっさん。
どっちかって言うとマスコットキャラ枠だもんね…。
「2人が本気で変わりたい。
人生を変える覚悟があるなら、事務所一同力になるで。」
今までの路線でやってもここじゃ売れんだろうし、
私とかなうさんの手にかかればもっと凄いものに
育てられると、グラさんは自信満々に言った。
「どうせ変わるなら、化ける勢いでやらんと。」
なんてかっこいいんだろう。
グラさんのその一言で、
愛依さんの心は大分軽くなったと思う。
「私もお力になります!」
私は愛依さんの手を掴み、両手で握った。
「ありがとうございます……!」
ここへ来て、愛依さんが初めて見せる
笑った顔はとても素敵だった。




