第39〜合言葉〜
静かな空間に、カチカチと鳴り響く時計達
「暇すぎる……。」
かなうさんに店番を任されていた私は、
カウンターの椅子に座って魔法書を読んでいたが
流石に限界が来て、カウンターテーブルに突っ伏せた。
今日と、それから何日か前にも少しだけ
アトリエの店番をしていたが、
お客さんは誰も来なかった。
「何このお店、人来なすぎじゃないの?」
私は、膝の上で丸くなっていたわっさんの背中を撫でた。
「近寄り難い雰囲気あるし、
冒険に必要ない物ばかりだからな。」
一つ一つ見ると、
確かに価値がある物で素敵なんだけれど…
確かに冒険には必要ないよなぁ。
ここの大半の人はクエスト目当てで遊んでるみたいだし、
得たお金も装備とか食料に使いたいよね。
ゲーム初心者の私がそう思うんだもん
人が来ないのも納得である。
「グラさんとか米丸さんって店番中は何してるの…?」
たまに、かなうさんが任せてるって言ってたけど。
「かぐらは、日常で使う小型メカを量産したり
戦闘用メカの造形をしてるな。」
エンジニアなんだっけ……?
凄いなぁ。私もそんな器用さがあれば良かったのに…。
「大雅は、動かないな。」
あれは多分、鎧の中で寝てるとわっさんが補足した。
「やっぱ皆、店番退屈なんだね……。」
「やることないからな。
でも、霧香はいつも楽しそうにやってるぞ。」
偉すぎるんだが。
「とはいえ、魔獣を操作して
資材を集めながらやってるからなぁ……。」
結局、ながら作業だよね。
ながら作業しか勝たんって。
「ちなみに、本人は?」
「聞くか?」
もしかして、本人自体作業をお粗末にしてるパターン?!
「商品1つずつ磨いたり、状態チェック…
絵画が腐食しないようこまめに湿度管理したり、
次の仕入先のチェックをしたりしてるな。」
ここの店番ってそんなにやることがあったんだ……。
びっくりして開いた口が塞がらないよ…。
「オタクが好きなものを売り物にするってなったら
まぁ、かなうみたいになるよな……。」
俺にはここにある物の良さは分からないが…と
わっさんは言った。
「でも、私が下手にやったら壊しそうで怖いな。」
「1つ1億以上の価値がある物も眠ってたりするからな。
店番する奴らは誰も触りたがらない。
うつつがはぐれていた時、AYAKASHIの実が
商品をドミノ倒しにして大変だったな。」
ひぇ……それで、あの彫刻折れたのかな。
あれはいくらなんだろう。
ガチャ…カランカラン__
お店の扉が開き、鐘の音が鳴る。
「うぃーす。あれ?うつつさんじゃないの。」
「こんにちは。」
入って来たのは、お客さんではなくグラさんだった。
「そういえば午後から、かぐらが出勤だったな。」
カウンター下から、わっさんがシフト表を取りだして
今日の日付のシフトを指さした。
「ここ最近、依頼が急激に増えてるみたいやからな。
私と米丸さんで交互に来てるんよ。
ほな、荷物置いてくるからちょっと待っててな。」
アトリエではなく、探偵事務所の方に用事がある人が
増えているらしい。
かなうさんが忙しいのもそのせい……?
グラさんは、荷物を置いてくると
地下の事務所へと行った。
グラさんが一緒に居てくれると分かったら
店番も少し気が楽になった。
万が一、探偵事務所の方の依頼が来ても安心というか……
退屈すぎて、閉店の18時までどうしようかと思ったよ。
「お待たせ。店番は初めて?」
「前にも少しだけ…でも、人来なすぎて
どうしようかと思ってまして……。」
わかるわかると、グラさんは首を縦に振っている。
「私は、暇な時はメカ作ってるけど……
魔法の勉強してたん?」
グラさんはカウンターに置いてあった
魔法書を手に取った。
「はい、最近職業も分かったので使えそうな魔法の
ページを読みながら、付箋を貼る作業してました。」
「ええやん。見た感じヒーラーやな。」
どう?当たりか?とグラさんはドヤ顔で聞いてきた。
「大正解です。」
そんな様子が面白くて、私も腕で大きく丸を作り笑った。
「せや、まだ知らんこと沢山あるやろ?
例えば、事務所に用があって来たお客の見分け方とか。」
確かに…
事務所って、カウンター奥の階段からしか行けないから
お客さんが入るのには絶対店の人の目が届く位置にある。
所謂、関係者以外立ち入り禁止感がかなり強い。
「秘密の合言葉があるんよ。」
秘密の合言葉…
いかにもかなうさんが好きそうなわくわく要素。
「…|Ombra della Luna」
低い声でわっさんが呟いた。
「どんぶらこ……やるな?」
何語だろう……初見では聞き取れなかった。
「どんぶらこって…!ははっ。川に流されるんか?」
うつつさんおもろいなぁとグラさんに突っ込まれる。
「オンブラ・デッラ・ルナやで。」
1音ずつ丁寧に教えてくれるグラさん。
「オンブラ・デッラ・ルナ。」
「そうそう。」
|Ombra della Lunaか
「意味はイタリア語で"月の影"
まぁ、事務所名そのまんまやんな。」
へぇ……イタリア語なんだ。
「合言葉を言うお客さんが現れたら、
地下へ案内したってな。」
「分かりました。」
お客さん来るだろうか……。
私は、忘れないように脳内で合言葉を復唱した。
本日でも投稿1ヶ月経ちました!
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