第38話〜風の噂〜
かなう視点です
「マチコおばちゃん!!!」
ジェラート屋に着いた私は、おばちゃんの名前を呼んだ。
「あら、かなうちゃん。また来てくれたのね。」
嬉しいわ〜と喜ぶおばちゃん。
正直こんな短いスパンで
ここに来るとは思っていなかった。
「今日は7段のやつお願い。」
ひとまず、前に来た時に目にした
7段のジェラートを頼んだ。
「味は何がいい?」
ショーケースに並べられた
色とりどりのジェラートを見る。
うーん……どれにしようか。
ミルクはこの前食べたから……
「ラズベリー、ピスタチオ、ブラウニーショコラ、
オレンジ、ココナッツ、クリームチーズレモン、黒ごま」
呪文のようにフレーバー名を伝えていく。
おばちゃんはそれをメモすると、
早速コーンに盛り始める。
「このクリームチーズレモンは私のイチオシよ。」
爽やかでこれからの暑い季節にもピッタリだと
おばちゃんが言った。
「でも、ここってそんなに四季楽しめないでしょ。」
このファントム・ストーリーに
四季というものは存在しない。
常に一定の温度に空気感。
たまに雨は降るけど、自然災害はない。
……快適ではあるけど多少物足りなさも感じる。
クエストエリアには極寒の場所や
マグマがある場所もあったりするけど、
そんな頻繁に行く場所でもない。
地形全体で見るとかなり謎ではある。
一体、"地球"のどこにこんな所を開発したんだか……。
もしくはジオラマのような仮想空間の中に、
私達ユーザーの"意識だけ"が吸い込まれているのか。
どちらにせよ、
両者とも可能な現代になってしまっている。
AI技術の進歩ってとんでもないなと思いながら
私は、おばちゃんの話に耳を傾けた。
「だからこそ、季節限定商品で
目や雰囲気だけでも四季を楽しめるようにするのよ。」
なるほどね……。
「流石だよ。プロだね。」
おばちゃん、エンターテイナー向いてるよ。
なんて思った。
「はい、おまたせ。」
7段に盛られたカラフルなジェラート。
「今日はご馳走になるわけにはいかないからね。」
値段を告げられる前に、私は250ウェルスぴったり
おばちゃんに渡した。
「全く、甘えるのが下手なんだからぁ〜。」
皮肉を言われているのだろうか……?
にこにこと会計をしてくれるおばちゃん。
「まぁまぁ、私のチャームポイントだよ。」
なんて私も冗談を言いながら、ジェラートを受け取った。
「うぉ……!思った以上にずっしり来た。」
一人で食べ切れるだろうか……?
それはさておき、そろそろ本題に入ろうかな。
「今お客さんもいないみたいだし、
ここで食べても良い?」
話し相手になってよと、
私はレジカウンターの前に椅子を持ってきて座った。
「良いけど、どうしたの?」
「ちょっと聞きたいことがあってさ。」
そう言って私は、1番上に盛られた
クリームチーズレモンのジェラートを
スプーンで一口すくって食べた。
「ん〜!これ最高だね。」
甘酸っぱいレモンに爽やかなクリームチーズが
上手くマッチしてる。
それこそ、初夏を感じるくらいに美味しい。
「そうでしょ〜。」
気を利かせたのか、おばちゃんはお店の前に
休憩中の看板を立てた。
「別に店を閉めるまでの大した話じゃないのに…。」
「良いのよ。かなうちゃんは孫みたいなもんだし、
こういう時間も私には大事なのよ。」
そう言って、おばちゃんは隣に椅子を持ってきて座った。
その温かさがとても胸に染みた。
口はジェラートで冷たいけど……。
「それで、聞きたいことってなんの事かしら?」
「マチコおばちゃんさ、私の探偵事務所の噂って
誰から聞いたのかなって思って。」
「うーん、もう1年くらいも前の記憶だから
曖昧ではあるんだけど……。」
頑張って思い出そうとするおばちゃん。
「性別とか特徴とかなんでもいいよ。」
「そうねぇ…毎年11月に大きなお祭りがあるじゃない?」
お祭り……あぁ、幻装祭の事か……。
幻装祭とは、“戦うだけが冒険じゃない”をコンセプトに
毎年11月に3日間行われる大イベントのことである。
料理人や鍛冶屋みたいな職人技を極めたユーザーに
スポットライトが当たる舞台でもある。
祭りと言うよりはコンテストに少し近いけど…。
「そこで、たまたま近くで聞こえたのよ。」
つまり、誰から聞いたまでは
分からないということか……。
「若い男性2人組だったかしらねぇ…。
声は間違いなく男の人だったわ。あ、そうだわ……!
私、祭りの素敵な景色を撮っておきたいと思って
ビデオ回してたのよね。」
おばちゃんは、スマホのフォルダから
1つのビデオを私に見せた。
「……!!これ、私のスマホにも送って貰っていい?」
画像動画共有リンクで、私のスマホのフォルダに
おばちゃんが撮影した動画が保存された。
動画には、沢山のランタンで彩られた街と
賑やかな声と音楽が記録されていた。
動画に映ってはいないが、おばちゃんのすぐ近くで
会話する男性2人組の声が綺麗に入っていた。
《この街に怪しい探偵事務所が出来たの知ってるか?》
《へぇ……知らないね。詳しく聞かせてほしいな。》
《|Ombra della Lunaという秘密の合言葉を
唱えると、どんな悩みでも解決してくれるらしい。》
《場所はどこにあるんだい?》
《それはわからん……。》
《所詮、噂話だね。》
そこまでの会話で動画は終わっていた。
「おばちゃんはどうして場所わかったの?」
「それは、私イタリア在住だったもの。
言葉の意味はすぐに理解出来たわ。」
アンティークショップの看板を見て、
ここだと確信したらしい。
アンティークショップの看板は
月と影がモチーフになっているデザイン。
まぁ……パッと見、普通の人は素通りするだろう。
おばちゃん、良い着眼点を持ってるなぁ……。
「ジェラートも、もしかして……。」
4段あったジェラートが、いつの間にか3段になっていた。
美味しくてずっと手が止まらなかったや。
「ええ、本場仕込みよ。」
なるほど、通りで美味いわけだ。
この黒ごまも、最高に濃厚で美味しい。
「それもっとアピールしたら?今より利益伸びるよ。」
「それもそうねぇ。
また、かなうちゃんに助けられちゃったわ。」
私のアドバイスをもとに、マチコおばちゃんは
にこにこと嬉しそうにPOPを作り始める。
私も、おかげで良い調査材料が集まったし
困った時はお互い様だね。
「人手とかも欲しくなったら声かけてよ。
同じゲームで遊ぶ"友達"みたいなもんなんだしさ。」
私がそう笑顔で伝えると、片手にディッシャーを構えて
さらにジェラートを盛り付けようとしていたから
流石にお腹壊すと止めておいた。




