第37話〜調査開始〜
かなう視点です
「今日は夜まで帰らないかもしれないから、
わっさんにもご飯よろしくね。」
アトリエの店番をしているうつつに声をかけた。
「一人で大丈夫なのか?」
心配性な我がペット、
わっさんは私に着いてこようとする。
「大丈夫だよ。
お土産買ってくるから楽しみに待っててね。」
私がそう言ってわっさんとうつつの頭を撫でると
二人とも嬉しそうに顔を綻ばせた。
さてと、少しでも多くこのゲームや
うつつの父親に関する情報を集めなければならない。
うつつの話を聞いた感じ、うつつの父親もこのゲームを
プレイしている可能性が高いと思った。
それも、かなり運営と密なところで。
「行ってきます。」
私はアトリエに背を向けて、歩き始めた。
外へ出て人や景色と触れるのは良い刺激になるし、
何より、沢山の情報が得られる。
一応、スマホでナビ案内も開いたから
一人でも大丈夫なはず……。
「こっちか。」
私は中央広場の"フルムーン"へと向かう。
この広場は、うつつをこの街へ連れてきた
最初の場所でもある。
リブリー・マージュには、中央にフルムーン
左右にサンライズとサンセットという名の広場が
3つ存在する。
「大分見晴らし良いなぁ。」
中央の噴水を大きく囲むようにお店や住居が
連なった造りの広場、フルムーンに到着した。
怪しい行動をしていたら、かなり目立つであろう。
このフルムーンへは、3回連れてきている。
その間うつつが誰かに接触したかと言われたら
深夜に傘をさしてた紫雨くらいか…。
良い情報は聞けなさそうと思いながらも
私は鞄を取り扱うお店へと入った。
「いらっしゃい。」
革の匂いが染み付いた店内。
商品を並べていた店主のおじさんが、私に声をかけた。
「お仕事中すみません。この顔に見覚えありませんか?」
私はおじさんに近付き、スマホの画像を見せた。
そこには、昨日クエスト中に撮ったうつつが
鳥の魔物に囲まれている写真。
小さい丸眼鏡で、ピントを合わせながらよく見た。
「んー?あぁ、この前うちの鞄を買ってくれた子だね。」
ほら、ここ。とおじさんはうつつの腰元に掛けてある
ウエストポーチを指さした。
「私にとっての鞄は息子のような物だからね、
遠目で見ても自分が作ったものだってわかるよ。」
そういえば、私が二日酔いでダウンしてた時に
わっさんと買い物に行ってたんだけ……。
そう考えるとここの広場に4回来てるのか。
「そうなんですね。
私もこの鞄素敵だな〜って思ってて…!
今日たまたま近くを通ったので買いたいな〜なんて。」
情報を得るためには、金を惜しむな。
相手の懐へ入れ。
「私アンティークな物も好きで……
年季が入っててお店には並べないけど、
オススメだよっていう鞄とかあったりしますか?」
相手を誤魔化す時は半分の真実を混ぜた方が
人は簡単に騙される。
ただ…私の場合、罪悪感を感じて顔に出ちゃうから
あまりやらないけど……。
「物好きなんだねぇ…
ちょっと時間かかるけど待っててね。
倉庫から私のお気に入り持ってくるから。」
「良いんですか…!ありがとうございます〜!」
良ければ並んでる商品も見てねと言って
店の奥へと行く店主。
それは、私にとって好都合のチャンスだった。
「ダメだよ…
お店をがら空きにしちゃ。夜遮蔽。」
私は、監視カメラとお店の周辺を歩いている人達の
視界を暗くする魔法をかけた。
うひょ〜〜!なんか悪党感半端ない……!!!
バクバクと高鳴る心臓を抑えて私はレジへと向かう。
「今のうちに……。」
効果は3分弱。私はレジ周りの棚を漁る。
「何もかも不用心だなぁ……。」
私が見つけたそれは、このお店の帳簿。
それには金銭管理や商品在庫、
どんな人が何を買ったのか
どんな人が来店したのかまで細かく記されている。
年寄りが経営するお店ほど、この帳簿が
しっかり書かれているから調査には助かったりする。
カシャ…カシャ__
私はこの帳簿を、証拠としてカメラで撮影した。
魔法の効果が3分もあるとはいえ、
急に視界を遮られた人達はパニックになるだろう。
騒ぎになる前に、私は帳簿をしまい
レジを離れて魔法を解いた。
窓から外を見ると、今のはなんだったのかと
不思議現象に出くわしたという顔で
頭に疑問符を浮かべながら歩く人達。
「そうだ。」
カシャ__
念の為、お店の鞄も撮っておこ。
「お待たせ、カメラの音が沢山聞こえるなって思ったら
鞄を撮ってたんだね。」
「はい。あまりにも素敵だったので。」
こんな時の為にね。
カモフラージュは大事である。
「これなんだけど…どうだろう?
かなり傷んでしまったけど、直せば綺麗になるよ。」
見せて貰った鞄は、ビジネスバッグのような大きさと形で
それなりに埃っぽさと傷みはあるけど使えるものだった。
「修理費込でおいくらですか?」
「元は8万ウェルスだけど、半額でどうだろう?」
40万円……鞄に40万円かぁ……。
でも、元が80万円だしな……。
「……買います。」
情報提供してもらったんだもの……。
全然遊んで暮らせる分のお金はあるし?
40万……どうってことないわ。
なんて強気な思考で、支払いを済ませた。
「修理に時間かかりますよね?もし良ければ、後日
ここに配送していただければ幸いです。」
私は、アンティークショップの名刺を渡した。
「お嬢ちゃん、あそこのアトリエのオーナーさん
だったんだね…!通りでお目が高いわけだ。」
「それほどでも…。」
私が照れ隠ししていると、
おじさんが痛いところを突いてきた。
「そういえば、風の噂程度だけど
探偵事務所も経営してるんだって?
もしかして今日もその用事でうちに来てたり……?」
その風の噂ってマジでどこの誰が流してるんだ。
最近やけに依頼が多いのもそのせい……?
「いえ、今日は私用ですよ。
ちなみにその噂って誰から…?」
「キミの腕は物凄く良いって、集会所付近で
ジェラート売ってるマチコさんが自慢げに話してたよ。」
おい、マチコォォォォ!!!
「おばちゃん……そうなんだ。」
まぁまぁ、おばちゃんのことだから親切心で
話してくれたんだよね。
ただ、気になるのは…
おばちゃんも噂を聞いて事務所に来てたんだよね。
これは、おばちゃんのところへ聞きに行かなくては。
噂の根源は誰からなのか。
「鞄届くの楽しみにしてますね。」
私は、おじさんにお礼を伝えてジェラート屋へ向かった。




