第35話〜狩りの極意〜
♢フェザー草原__
クエストのフィールドとは思えないほど
穏やかで気持ちの良い風が吹いている。
「うつつちゃ〜ん、こういった狩りをする上での
三ヶ条ってなんだと思う?」
両手の人差し指と親指を立てて、
くるりと私の事を指差すかなうさん。
ああ……私遊ばれてるな……って分かる動きだ。
三ヶ条かぁ……なんだろう。
「経験を積む事とか?」
やっぱり経験を積まなければ何事も上手くいかないし…。
「それも大事だけど、もっと簡単だよ。
一つ目は、"挨拶"だ。」
特に他のプレイヤー同士狩りをする時は
大事になるとかなうさんは言う。
「社会人に必要な要素と似ていますね。」
「"挨拶は基本"みたいな言い伝えもありますからね。」
かなうさんやまゆりさんが言うと、
なんだか説得力がある。
「私の場合は、気を引きしめるためにも言っている。」
例えば、クエストでしか使わないような挨拶言葉を
口にするだけで空気が変わるとかなうさんは言った。
「かなうさんやまゆりさんは、なんて言うんですか?」
2人の言葉を参考にしたいと思った。
「"対よろ"かな。」
「そうですね…私も"対戦よろしくお願いします"とか
ソロの時は"いざ、参ります!"なんて言ったりします。」
なるほど…対よろか……かっこいい。
「私達を真似しなくても、うつつらしく
誠意ある挨拶が出来ればいいんじゃないかな?」
乱入とかよくあるけど、結構個性出て面白いよねと
かなうさんが、まゆりさんに聞いた。
「ええ、私のギルドの実様は"いただきます!"で始まり
"ごちそうさまでした"で終わりますよ。」
あのショタンクの子か……!
確かに、実くんっぽい。
それから紫雨さんは、"よろしゅう"で始まると
まゆりさんが教えてくれた。
「えぇ……じゃあ私は……
鳴宮うつつです!!よろしくお願いします!!
……で行こうかな…へへ。」
気合いを入れるために張った自分の声が
フィールドに響き渡ってなんだか恥ずかしいけど…。
「うん、良いと思う。うつつらしいし、
なんか魔物とも名刺交換してそ〜〜!!」
自分の言葉にツボに入ったのか、お腹を押えて
ギャハギャハと笑うかなうさん。
「かなう様…それは褒めているのか分からないです。」
本当に……まゆりさんの言う通りである。
「褒めてるよ!さぁさぁ、狩りに入る準備は
整ったわけだけども…狩り三ヶ条、二つ目は……。」
かなうさんは近くにいた、ふわふわの丸い鳥達に向かって
剣を振りかざした。
「氷葬の契約」
複数の氷の剣が現れ、それが一匹一匹に向かって
突き刺さっていく。
氷が突き刺さった鳥達は、弾けるように簡単に消滅し
金貨がドロップした。
「さっきまで動いていた魔物が一瞬で
消えてしまっただろう?」
金貨を集めながらかなうさんが言った。
「生命って儚いんだ……。
"生きている物を狩るという覚悟を忘れない"
それが三ヶ条の二つ目だ。」
生きているものを狩る覚悟……
「働く感謝とも言えますよね。
ご飯を食べるのにも生活するのにも金貨が必要。」
この世界で金貨を得るためには
狩りをしなくてはならないと、まゆりさんが言った。
「現実世界で働く苦労を知ったうつつなら、
この言葉の意味はよく理解できるんじゃないかな?」
かなうさんが私の頭を優しく撫でた。
「あ、ズルいです。私の頭も撫でてください…!」
「なんでだよ。」
なんでだと言いながらも、
まゆりさんの頭も撫でるかなうさん。
働く苦労は、確かに自分は人一倍分かっている。
生きるためにはやらなきゃいけないというのは、
一気に狩りへの重みを感じる言葉だった。
「そして、三つ目はシンプルだけど"生きて帰ること"。」
そのために自分に合ったレベルのフィールドへ行ったり
ゲームだからと言って無茶しない事が大切だと
かなうさんは教えてくれた。
「うちのリーダーも同じ事を言ってましたね。
そのおかげで私達は、クエスト失敗を経験したことが
ないです。」
「へぇ……紫雨がそんなこと言ってたんだ。」
なんだか、かなうさんの表情が曇った気がした。
「この前うつつには言ったが、武器を持つということは
自分も狙われる立場になるって話。自分の想像よりも
遥かに、魔物って知能が高いんだよね。」
まゆりさんもうんうんと首を縦に振っている。
「本能というものなんでしょうね。
魔物も私達を狩る勢いで狙ってきます。」
意外と頭脳戦なんだよと、2人は言った。
「そうなんですね……。」
私に上手く戦えるのだろうか……?
不安からなのか、杖を持つ手に力が入った。
「大丈夫ですよ。うつつ様ならできます。」
私の手にまゆりさんが手を添えて、にこりと微笑んだ。
「何事もやらなきゃ分からない。
今日は私とまゆりがいるから安心して
好きなように戦って良いよ。」
かなうさんも、
ポンと背中を叩いて気合いを入れてくれた。
なんて頼もしい人達なんだろう。
「ありがとうございます。」
覚悟が出来た私は、
草原で戯れている鳥たちに向かって歩を進めた。
「鳴海うつつです!!よろしくお願いします!!!」
鳥達へ向けた杖の先端。
それに危機を察したのか、鳥達は
わらわらと私へ向かって飛んできた。
「花火魂」
そして私は、頭に詰め込んだ呪文の一つを唱えた。




