第28話〜霧香とレフ〜
かなう視点
うつつが現実へ帰った後
アトリエの店番をわっさんに任せ、
私は地下の事務所へと足を運んだ。
今日は、"月影探偵事務所"創立2年目。
それを祝したパーティを仲間達とする予定だった。
ここにうつつも招待出来れば
もっと楽しかっただろうなぁ…。
なんて思いながら、一つの扉をノックした。
コンコン__
「霧香〜。いるー?」
地下にある探偵事務所内の部屋は3つ。
一番大きい部屋は、階段を降りてすぐ
私の作業デスクもある依頼スペースだ。
そして、この部屋の隣に従業員用の共有スペースと
もう一つ"霧香専用の部屋"があった。
藍羽霧香__
私を姉のように慕い、私もまた妹のように慕っているが…
実際、血の繋がりはない。
「いますっ!開けます!」
ガチャ__
開かれた部屋の扉。
部屋の奥にはパソコンやマイクなどの配信機材。
引きこもり中、彼女は配信活動をしていた。
もちろんファントム・ストーリー外部への
配信はしていない。というか、出来ない。
ファントム・ストーリー内で放送される
動画配信サービスにて、活動をしている。
霧香はそこで、クエストへ参加する冒険者に向けての
マップの攻略やオススメ資材の紹介を
"声のみ"で配信している。
「ごめんね、仕事あったのに早上がりさせちゃって。」
霧香のログイン時間は、いつも夜19時以降で
配信は20時過ぎから始めている。
今日は事務所の創立記念でパーティをするからと
夕方17時には仕事を上がってくれたのだ。
なんて優しい子……。
パーティも一応、霧香の配信時間と被らないようにと
みんなで話し合って夕方18時開始と決めた。
これが真の平和__
なんて、私の頭の中で繰り広げられている
おふざけは後にしようか…。
「"2人"が来る前に飾り付け終わらせよう。
店番と地下の案内はわっさんに任せてあるから
大丈夫だよ。」
2人とは、この事務所……
そしてアトリエでも働いてくれている従業員の事だった。
マスターの所へ料理を取りに行ってくれている。
「ボクも手伝うだぁね。」
霧香の肩に乗っていたレフがピョンと飛び降りて
飾りを咥えた。
「良いけど、ヨダレで汚すなよ…。」
「ボクはあの下品な犬とは違うだぁね。」
さり気なくわっさんをディスり、鼻で笑うレフ。
言われても仕方ない…。
わっさんはアホの子。すぐヨダレ垂らすから…。
「これは天井で大丈夫でしょうか…?」
霧香がくす玉を持って、言った。
「うん。届きそう?」
私は霧香に踏み台を渡した。
「ボクがやるだぁね。」
レフが霧香の肩に乗り、くす玉の紐を絡め取って
テープで天井に固定した。
「お前賢いなぁ。」
達者に喋り、人間のような行動も出来る。
"拾ってきた"魔物にしては知能が高すぎる……。
私にもレフの声が聞こえるってことは
そこまで上級の魔物では無い気がするが……。
「えっへんだぁね。」
「レフ凄い!!ありがとう!」
霧香はレフの頭を撫でた。
レフもまた褒められて嬉しそうに目を細めた。
「そう言えばレフっていつも何食べてるの?」
私は風船を膨らませながら霧香に聞いた。
伸びる青い舌を見て、何となく思った疑問だった。
2年近くここで、共に暮らしている霧香とレフだったが
レフが食事している様子を、今まで見たことがなかった。
「実はこの子特殊で…。」
霧香はポケットから黒い石のようなものを出した。
「何それ?」
どう見ても食べ物には見えなかった。
「資材の一部です。」
それは、どの魔物からも採取できる黒くて丸い結晶
"魔幽魂"だった。
強い魔物ほど、この結晶が大きい。
その結晶を一口サイズに砕いた物を
レフは食べているという。
「トカゲって虫とか食べるんじゃないの?」
「ボクにとっては、そのカタマリが虫だぁね。」
レフは霧香が出した結晶をペロリと飲み込んだ。
食感とか大分違うと思うんだけどなぁ…。
「お医者様に診て貰った方がいいですかね…?」
流石に霧香も心配らしい。
「喉詰まらせたら診て貰おう。」
今はなんとも無さそうだし。
……しかし、何か引っかかる。
昔、似たような経験を何処かでしたような。
石では無かったけど……。
まぁ、いつか思い出すかもしれない。
「コレで完成だね。」
1時間かけて飾り付けが終わった事務所を見渡した。
うん、なかなかに上出来。
近くのソファへと腰掛けると、
上の階から話し声が聞こえてきた。
バタッ__
何かが落ちたような音も聞こえた。
「なんか上、少し騒がしくない?」
わたしゃ、また彫刻修理に行くとかごめんだよ……。
「お2人が到着したのかもしれないですね。」
霧香も反対側のソファへ腰かけ、
2人でのんびりと話していた。
「わっさん居るから大丈夫だよねー。」
達成感でいっぱいになった私達は
集中力も欠け、動く気力も湧かないほどに
充電切れタイム真っ最中であった。
バタバタバタバタ__
階段を勢いよく降りる音。
次第に良い匂いも近付いてくる。
バタンッ__
「かなうさん!!!!大変なことになってるで…!!」
勢い良く事務所の扉が開かれる。
「グラさんお疲れ〜。」
扉を開いた主は、料理の入った袋を大量に抱えた
事務所の従業員の一人__
茉城かぐら、通称"グラさん"だった。
「うぉ、なんやこの結婚式場みたいな飾り付け…
じゃなくて!女の子がアトリエ内にログインワープや!
前代未聞やで?偉いことになっとるんやけど!!!」
アトリエにログインワープ……もしかして。
「まじぃ?」
「まじぃ。」
本当か聞くと、グラさんに本当だと真似され返ってきた。
うつつが帰ってきたにしては
早すぎるような気もするけど……。
きっとかなうちゃんが恋しくなっちゃったんだね。
「さてさて、迎えに行きますかぁ。」
私は少し嬉しげに、充電切れの身体を叩き起して
アトリエへの階段を上った。




