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現実的ファンタジア〜綺麗で完璧な世界で、私たちは闇と向き合う〜  作者: KAИАU
第2章【"侵食されていく日常"を味わう気分はどうだい?】
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第27話〜現実〜

「本当に行くの?」

かなうさんは眉を下げ、悲しそうな目で私を見ていた。


「はい……。」


今日は、ワンピースではなく

ここに初めて来た時に着ていたスーツを身につけている。


「色々片付いたらまた戻ってきます。」



ファントム・ストーリー滞在5日目の夕方__


ここに来て私は、一度現実へ戻ることに決めた。


「このまま戻らないのも

家賃が大変なことになるので……。」


昨日の夜、寝る前にふと思った。


ここでの暮らしは現実以上に快適で、楽しくて、

時間なんてあっという間に過ぎていく。


「まぁ、そうだね。

この先ここに住むと決めたのなら、

一度帰るのは良いかもね。」


帰ってみても良いとかなうさんも言った。


かなうさんのように3年住むってなったら……?


「私は実家暮らしだったから

お金に関する心配はなかったけど……。」


かなうさんは、考えるように顎に手を当てた。


「うつつって一人暮らし……?」

「はい……。」



私は、自分の現状を頭の中で整理した。


5日前にここへ来た私。

テレビも電気も付けっぱなしで、転移。

 

次の日、会社からの鬼電。

今日までの4日間音信不通でクビ確定コース。


クビ=給料が出ない。

つまり、家賃が払えなくなる……。


「うつつ、トランクルームって知ってる?」

 

「聞いたことはあります。」


家に収納しきれない家具や道具をしまっておく

倉庫の事だよね。


「安くて月3000円から借りれる。今の家賃はいくら?」

「6万です。」


かなうさんは、スマホの電卓を起動した。


「6万で20ヶ月分。1年8ヶ月借りれるね。

荷物の量は?」


「テレビとテーブルとベッド……

あとは料理器具とか洋服ですね。」

 

4帖半の1LDKだったから大きい家具はほぼ置けず。

ベッド下の空きスペースに収納ボックスを置いて

洋服を入れたりしていた。


「なら月3000〜5000のプランってところか。

実家に置いてもらうってのも手だけど……。」


実家……かぁ。


「色々と考えてくださってありがとうございます。」


ひとまずは、トランクルームに預けておくのが安心かな。


帰ったら荷物まとめなきゃな。


「それじゃあ、行ってきますね。」

「うん。行ってらっしゃい。」


現実に戻るという、少し憂鬱な気分で

私はスマホを取り出しログアウトボタンを押した。




次に待っていたのは悲惨な現実だった。



自分の部屋へ戻った私は、その光景に目を疑う。



「……な、にも……ない……。」


今まで使用していた家具も洋服も財布も全部__。


別の場所に転移したとかでは無い。

住んでいた間取りと全く同じ。



「……どういう…こと?」


頭が真っ白だった。


床にはホコリ一つなく、シンクもピカピカに。


「意味わかんない……。」

 

空き巣に入られたような乱雑さよりも

気持ちが悪く思えた。

 

帰ってきた私の家は、ただ空間があるだけで

そこには何も無かった。


……まるで新築のように。



夕焼けの光に照らされて赤く色付いている部屋が、

より不気味さを際立たせていた。



「大家さん……!!!」


私は急いでアパートの大家さんがいる

管理人室へと向かった。


「あら……()()()()のね。」

扉から顔を出す大家さん


たった5日、現実にいなかっただけで死人扱い。

少しイラッときてしまった。

 

でも今はなるべく感情を抑えて、

私は部屋のことを聞いた。



「私の荷物はどこですか?

なんで……あんな風になってるんですか…!」

 

「それは……。」

大家さんさんは下を向いて気まずそうに口を噤んだ。


「答えてください……!!!」

 

バンッ__


大家さんの態度がどうしても気に入らなかった私は

管理人室の扉を強く叩いてしまった。


「あ、あなたの"お父さん"が撤去したのよっ……!!」


耳を疑う話だった。


「父が……?」


なぜ?


何のために……?



どうして、私の居場所を__

 

「うっ……。」

 

頭が痛くなった。


「あなたの事、亡くなったって言ってたわよ……。」


そんな事を聞かされていたのならと、

大家さんがあんな反応をしたのも理解出来る。


「すみません……さっきは…。」

自分の感情で大きな物音を立てたことを謝った。


「大丈夫よ。一旦中に入りなさい。」


優しい大家さんはそう言って、管理人室へ

私を入れてくれた。


「これからあなた、どうするの?」

 

大家さんは、私を椅子へ座らせると

ポットでお湯を沸かし、お茶を出してくれた。


「一応、行く宛てはあります……。」


最早、そこしか無いけど……。


「そう。それならよかったわ。」

安心したように大家さんはホッと息を吐いた。


「心配してくださり、ありがとうございます。」

いただきますと、私はお茶を一口飲んだ。


この茶葉の苦味と香りが、心を少し落ち着かせる。


しかし、あまり長居しては迷惑だろう。


「ご馳走様でした。」

私はお茶を飲み干し、足早に玄関へ手をかけた。


「気をつけるんだよ。」

「はい。お世話になりました…。」


心配そうな大家さんの顔。

私は最後にお辞儀をして管理人室を出た。



「……。」


とてつもない消失感に胸がぽっかりと空いている。


近くの公園へと来た私は、ベンチに座ってスマホを見た。


「会社にも連絡した方が良いかな…。」

スマホに溜まっていた不在着信は36件から54件に。


友人や家族からの電話なんてない。

いないも同然だもん。


「……。」

私は、上司に電話をかけた。


「あっ……鳴宮です。

すみません……無断欠勤してしまって…。」


電話が繋がった。

言い訳の前に、私はまず謝った。


[鳴宮……?知らねぇ名前だな。ははっ。

今更電話しやがって。お前のデスクにあった荷物は

新人に引き継いだから。二度と顔見せんなよ。]


プツリと、会話をする余地もなく切れた通話画面。


私の声も謝罪も届いてない。

一方的に語られ、要らないと言われてしまった。


「……今まで散々こき使ってきたクセに。」


あぁ、もう気分は最悪だよ。



「お前こそ二度と顔見せんな!!!!!

このクソハゲパワハラ野郎がよぉぉ!!!!!!

お前らが社訓で平和を語るな!!!

会社ごと労基違反で訴えられろ!!!!」


どこにもぶつけようのない感情を、痛みを

今までの苦しみを


誰かに聞いて欲しいわけじゃない。


ただ、吐き出したくて……勢いで叫んでしまった。


公園で遊んでいた子供達からの視線が痛い。


「これ以上注目される前に逃げよ……。」


そして、私はファントム・ストーリーへ__

 

かなうさんの所へ戻るためにログインした。

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