第16話〜すれ違い〜
3日目の朝__
ワンピース衣装に着替え、昨日わっさんと買った
ウエストポーチを身に付ける。
「うん、良い感じ!」
寝室にある全身鏡で確認した。
ふと、感じた事があった。
1階のアトリエは大量に物があって、
散らかっているように見えるのに
2階のかなうさんの家は綺麗というか…
生活していると感じられないくらいに物が少ないのだ。
3年住んでたにしては不自然すぎる家__
まだ、入ったことの無い書斎と地下にあるという
事務所は分からないけど。
準備が出来た私は部屋の扉を開けて、リビングへ出た。
「準備出来たようだね。」
「はい!」
「ん…?そのポーチ良いね。衣装とも似合ってるよ。
買ったの?」
ポーチに気づいたかなうさんは、それを褒めてくれた。
「俺と買った。」
「お〜そうか!それは凄いね〜!」
何故か自慢げに語るわっさんと、
凄いねとわっさんの頭をわしゃわしゃ撫でるかなうさん。
わっさんも目を細めて嬉しそうで、
見ている私もほっこりする。
「今日はどこへ?」
私はかなうさんに今日の行き先を聞いた。
「"クソメガネ"に会いにいく。
錬金術士で武器屋も営んでるから
そこでうつつが使えそうな物を買っておくといい。
一癖ある奴だが、技術はピカイチだからさ。」
あの時かなうさんと紫雨さんが散々ディスってた、
チー牛クソメガネさん……!!
良い印象を今のところ聞かされていない。
完全に名前のイメージにつられているせいで
会うのは少し不安……。
技術はピカイチだと、かなうさんの
お墨付きがあるということは、凄い人なんだろうけど…。
「彫刻の修理とスキルについても
お願いして聞いてみよう。」
かなうさんは2階の鍵を閉めた後、
アトリエのカウンターから紙袋を取り出した。
紙袋からはみ出している首の折れた彫刻からは、
哀愁が漂っている。
「それから、適正職業も分かっておいた方が
この後役に立つだろう。
クソメガネがいるところは遠いから、
先に集会所へ行ってうつつの職業試験をしよう。」
今日の日程は、集会所で職業試験。
その後にお昼と買い物をしてから、
チー牛さんのところへ行くらしい。
「うつつ。」
「どうしたの?わっさん。」
わっさんが、私の肩へ乗っかり耳打ちをした。
「かなうは、3年住んでるが……土地勘はない。」
わっさんが衝撃的な発言をする。
つ、つまり……方向音痴ってこと?!!!
「か、かなうさん……!!」
アトリエの鍵を閉めた後、
私とわっさんが足を止めたことに気づかずに
1人でルンルンと気分良く先へ進んでしまっている。
「かなう。そっちは展望台の方だ。集会所は逆。」
わっさんが声を張り、かなうさんを呼び止める。
「あれ?そうだっけ……?」
ごめんごめんと、かなうさんも戻ってきた。
「あ…でも…最初私がここに来た時、
広場からアトリエまでは迷わず辿り着けたよ…?」
私は、わっさんにコソッと耳打ちをした。
「不思議なことに、自宅までの"帰路"は
迷わずに行けるんだ。」
「猫かよ……!!」
え、本能で生きてる……???
また、かなうさんの新たな一面を知れた。
「そういえば。」
しばらく歩いて、かなうさんが立ち止まった。
先日、歓迎会をしてもらったお店【S.D.D】の前を
通り過ぎたくらいだった。
集会所も、もう目の前に見える。
ここまでは徒歩10分くらいだから、
アトリエからもそんなに遠くない。
「どうしました?」
また、マスターに会いたいな…なんて思いながら、
かなうさんの話に耳を傾けた。
「歓迎会の日の記憶無いんだけど…。」
ああ、その話か。
痴態晒してなかった?と
私と、肩に乗ってるわっさんを交互に見た。
「教えて…!うつつぅぅ〜!!
記憶ないのは怖いよぉぉ!!」
かなうさんが不安そうに私の肩を掴み、
グラグラと揺らした。
「あわわわ、目回っちゃいますって…!
話します、話しますので!!」
私はかなうさんの手を必死に止めて、
あの日のことを思い出した。
確か…
「ベロベロに酔って紫雨さんの肩に腕回してましたね。」
「OMG……」
「その後も結構飲んでて……」
飲んでたというより、飲まされていた……?
ような気もするけど……
不確かな事実は、2人の関係を
壊してしまうかもしれないと思ったので、
それは黙っておいた。
「普段とは見違えるほど、凄く仲良く話していたので
まゆりさんが嫉妬して帰っちゃいましたね…。
ログアウト通告が来た実くんを連れて。」
かなうさんの顔がみるみる青ざめていく。
私は昨日帰ってきた時に2人のあんな姿を
見てしまったから今はなんとも思っていない。
本当は凄く仲良いんだろうなって……そのくらい。
別に隠すことでも無さそうなのに、
昨日のかなうさんの反応は異常にも見えた。
「そうだったんだ……。ありがとう、うつつ。」
きっとかなうさんの中で、境界線を作っているのだろう。
それは紫雨さんだけではなく、"誰に対しても"__
そんな感じがした。
だから、今は聞くべきではないと私は判断した。
本人が落ち着いたら、いつか…話してくれるはず。
でもこれだけは伝えたくて、気持ちが抑えられなかった。
「私がこんなこと言える立場では
無いかもしれないですが……一人で抱え込むな!
壊れる前に周りを頼れ!…です!」
かなうさんは優しいから、
誰かを守ったり頼りにされるような行動を
つい、"癖のように"誰に対してもやってしまっている。
それが彼女の長所でもあるんだけど、その行動が
自分を苦しめていることにかなうさんは気付いていない。
「まだ会って3日目ですが…何となく分かります。
かなうさんが何かを抱えて生きているということは。」
それくらい、彼女は分かりやすいし顔にも出やすい。
きっと紫雨さんも分かっているはず。
気付いていないのはかなうさん自身…。
「…。」
かなうさんは一言も喋らず、ただ私の話を聞いていた。
「今は信用しなくてもいいです。でも…。」
私は、かなうさんの両手を掴んだ。
「私はもっとこの世界を知りたいです。
かなうさんのことも!だから…」
だから…えっと……
こういう時なんて言ったら良いんだろう……
勢いで、手まで掴んでしまった!!!!
まずい!!どうすれば……?!
「ふはっ!!」
あたふたする私が可笑しかったのか、
かなうさんは突然笑い出した。
「はぁ〜……ごめんっ!でも、ありがとう。」
かなうさんは、私の頭を帽子越しに
ポンポンと軽く撫でた。
「やっぱりうつつは強いね。」
そうやってすぐに人を褒める……。
絶対に自分の話をしてくれない……。
「心配いらないよ。この世界のことも教えてあげる。」
そう言って笑顔で私の手を引く。
「そのためにもまずは、職業試験受けなきゃね。」
行ってらっしゃいと、
私の背中を押して集会所の中へと入れた。
「え、あ…………え?」
あまりにも時間が流れるのが早すぎて
この一瞬で何が起きたのか分からず、
集会所の入口付近、1人ポツンと立っている私。
「気にするな。核心突かれて、
言葉足らずに動揺してただけだ。」
肩に乗ったままのわっさんがそう言った。
「職業試験は受付に言えばわかる。
俺はかなうのところに行ってくる。
またな、終わったら迎えに来る。頑張れ……。」
わっさんは私の肩から飛び降り、
かなうさんの元へと走っていった。
もしかして私……
かなうさんの地雷踏んじゃったのかな……。
どうしてあんな行動をとったのか、
どうして1人で抱え込もうとするのか……。
お節介だったかもしれないけど、
私はかなうさんのことが気になり、
試験を受けたいと思えるメンタルではなかった。
「でも、やらなきゃね…。」
この世界を、かなうさんのことを知りたいという
思いは変わらない。
"今あなたができることを尽くしなさい"
さっき背中を押されたのは、
きっとそういう意味だったんだ。
「よし、やるぞ!」
私は自分の頬をパチンと叩いて気合いを入れ、
職業試験の申し込みをした。
この私の行動の一部が道場破りみたいだったと
後日、集会所の職員の間で話題になったらしい…。




