第9話〜頑張った〜
華毒蜘蛛を倒したことで、
クエストクリアの文字が浮かび、
報酬アイテムがドロップした。
私は涙を拭い、洞窟の前に落ちていた帽子を拾って
深く被った。
いかにも報酬らしい大量の金貨の入った袋が1袋に
紫色をした絹糸が3束と、黒くて丸い結晶が1つ。
それから、綺麗な白いお花が1房__。
華毒蜘蛛の身体に咲いてたやつだ…。
"華毒蜘蛛を倒したんだ"って
目の前のアイテムを見て、ようやく実感が湧いた。
「それはお前にやる。"また会おう"。」
「え…あっ…!ありがとうございました…!」
結局、声の主が現れることはなく、
どこかへと去ってしまった。
ゴリ押し気味に発したお礼の言葉も、
風の音にかき消されてしまった。
本当に…貰っちゃって、いいのかな?
後で、やっぱあの時のやつ返して!!とか
あの時あげたでしょ?って、
後々交換条件みたいに持ち出されたりしない??
まぁ…アイテムの使い道は分からないけど、
金貨は欲しいところだよね…。
「ひとまず全部回収しよ。」
何かの役に立つかもしれないし。
アイテムを拾い集めていると
どこからか聞いたことのある声が、
私の耳に届いてきた。
「転移終わったんだから服離せよ!!」
「えー、なんか手が寂しいやんか。」
「赤ちゃんかよ。」
「あぅあぅ〜」
コイツ連れてくるんじゃなかったと
叫んでいる声が聞こえた。
見なくてもわかる。
この声とテンション、絶対かなうさんだ。
紫雨さんもいるみたい。
……私だけ突然居なくなっちゃったから
きっと、探しに来てくれたんだろうなぁ……。
「……。」
今すぐ2人に会いたいけど、
申し訳なさで顔を合わせられない……。
このまま、隠れてよう__
いやいやいやいや!
心配で探しに来てくれた2人に失礼では……。
転移魔法の代償だって大きいのに。
とはいえ、草陰に隠れてしまっている私。
隠れたあとはどうしよう……。
なにか食べれるものとか、
暖がとれそうな場所を探したりしないと…。
でも洞窟の中はもう入りたくないし、
未知のスキルしか持ってないっていうのに……。
なんでこんなことに……。
昨日届いた招待リンクさえ拾わなければ、
今頃いつも通りの平穏な日々が__
平穏_?
私が送っていた日々は本当に平穏だったのか……?
考えても見つからない答えを探している気分だった。
「ばぁっ!」
「うぇぇい?!!!?」
突然、至近距離で視界に入ったかなうさんの美しい顔。
てか、いつの間に?!
「見つけたぁ〜!」
かなうさんは微笑み、
私の頭に乗った葉っぱを優しく振り払う。
「マジカルバナナだけじゃ遊び足りなくて、
今度はかくれんぼし始めちゃったんだね。」
全く……私の周りは、お子ちゃまばかりで
世話が焼けちゃうね。なんて、
転送失敗したことも隠れていたことも全部__
私の行動を一つも責めることなく、
あやす様に冗談を言うかなうさん。
「うつつの手に持ってるそれって……。」
私が抱えていた華毒蜘蛛の
ドロップアイテムに気付く。
「頑張ったんだね。凄いよ、うつつ!」
「え?!華毒蜘蛛倒したん?!
よう頑張ったなぁ!てか、無事でよかったで!」
頑張ったね。凄いよと、2人は私のことを褒める。
なんで……
「なんでそんなに優しいんですかぁ……!!!!」
ついさっき引っ込んだ涙がまたポロポロと溢れ落ちる。
頑張ったね__
…って誰かから自分に向けての優しい言葉を
久しぶりにかけられた気がする……。
心が壊れそうになっていた"元"社畜に、
その言葉は良く響いた。
「ほんっ……とに、
ムカつくぐらい優しいぃ……うぅっ!!」
人の温かさに触れて涙が止まらないや……。
「よしよーし。いっぱい泣いていいよ。」
かなうさんは私のことを抱きしめ、背中を優しく撫でた。
紫雨さんも私の頭をぽんぽんと撫でる。
さっきまで合わせる顔がないと隠れていたくせに
今泣いている自分が恥ずかしくなってくる。
「どう?落ち着いた?」
かなうさんに抱きしめられながら、
私は少しずつ気持ちを落着かせていた。
「はい……多少は……。」
「泣きたい時はいつでも胸貸すよ。」
「貧乳なんだからやめとき〜」
「乳の話はしていない。胸だ!MU!NE!Say!」
乳も胸も言葉として大差ないような……。
そう思ったが、
ツッコんだら怒られそうだから止めといた。
「うつつも落ち着いたようだから、
少し聞きたいんだけど良い?」
「なんでしょう?」
胸いじりを避けたかったのか、
かなうさんが話を変えてきた。
気にしてるんだ……。
「どうやって華毒蜘蛛倒したの?」
「それ俺も思ったわぁ。」
きっと、かなうさん達の中で
私が魔物を討伐しているイメージが湧かないのであろう。
まぁ、それは昨日ここに来たばかりだし仕方ない。
「えっと……スキルを覚えて…それが発動して……。
華毒蜘蛛を倒したというよりかは
"浄化した"って感じでした。」
あの時の感覚を思い出すように、
かなうさん達にスキルのことを話した。
「珍しいなぁ。職業決まる前に、スキルが発動するの。」
「確かに。
私の周りにいるやつでもスキルの方が先って人、
あの"クソメガネ"くらいしか思い当たらないな。」
あー。チー牛顔のアイツねと紫雨さんも納得している。
「クソメガネ?チー牛……?」
全く分からない。
「ごめんごめん。会いたいなら合わせてあげるよ。
うつつがいない間に、アトリエに置いてある
彫刻の首が壊れちゃってね……。今度、ソイツに
修理頼もうと思ってたところだったんだ。」
私がいない間、どうやらかなうさんも大変な?出来事に
巻き込まれていたみたいだった。
それにしても、チー牛クソメガネだなんて……
酷い言われようだな……。
「あ、そういえば!!」
私はさっきまでの出来事を思い出し、声を上げた。
「私も、華毒蜘蛛に捕まってた時、
不思議な弓の人が助けてくれました!」
「弓使い?」
中性的な声で、でも姿は1ミリも見えなかったと
説明するには不足しすぎている特徴を
かなうさんに伝えた。
「助けてもらったお礼も言えずで……。
かなうさん達、心当たりのある人物っていますか?」
3年も住んでるかなうさんなら
心当たりありそうだと思って言ってみたけど……
そもそもこのゲームのユーザー数って
どれくらいいるんだろう?
流石に世界が広すぎるかな……。
「あー。何となく心当たりは。でもな……。」
「せやな、俺も弓使いと聞いて
ピンと来たやつおったけど、流石に
うつつちゃんが会った奴だとは思えへんなぁ……。」
やっぱりダメかぁ……。
これだけ自由に好きなように動けるゲームなんだもん。
ユーザー数もかなりいるであろうし、
その中から探すのは厳しい現実でもある。
「また会おうって言ってたんでしょ?
なら、また近いうちに会えるんじゃないかな。」
「そうですよね…!」
彼なのか彼女なのか分からない弓使いの言葉を
私は信じてみることにした。
「あ、帰りはコイツの転移魔法で帰るから…
うつつ、良いね?」
かなうさんが私の顔をじっと見つめた。
「もう!分かってますって…!!!!」
一人で討伐に関わるのは二度とゴメンだ。
「かなう、ほんま貸イチやからな。覚えとってな?」
「はいはい。分かってるって。」
もしかしてかなうさん…
私のために、貸しまで作って紫雨さんとここに…?
嫌々と、紫雨さんの羽織の裾を掴んでいるかなうさん。
「2人共、ありがとうございます…。」
かなうさんみたく、
素敵な笑みを浮かべることは出来なかったけど
私なりに精一杯の感謝を伝えた。
「どうってことあらへんよ。」
「うんうん。私、エリートだし。」
昨日の今日で初めて出会ったけど
彼女達らしい言葉を聞いて、
この人達には敵わないな…なんて。
私はクスリと、控えめではあったが
心の底から笑えた気がした。
「とても頼もしいです。」
そして、次は絶対離さないように、
しっかりとかなうさんの手を握った。




